『増鏡』「後鳥羽院」の現代語訳と重要な品詞の解説2

では、「後鳥羽院」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『増鏡』「後鳥羽院」現代語訳と重要な品詞の解説1

本文

 年も返りぬ【注1】所々浦々【注2】あはれなる【注3】ことをのみおぼし嘆く【注4】佐渡院【注5】明け暮れ【注6】行ひ【注7】をのみし給ひ【注8】つつ、なほ【注9】さりとも【注10】おぼさる【注11】。隠岐には、浦より【注12】はるばる【注13】霞みわたれる【注14】空をながめ入り【注15】て、過ぎにし【注16】方、かきつくし【注17】思ほし出づる【注18】に、行方なき【注19】御涙のみぞとどまらぬ【注20】

うらやまし【注21】長き日影【注22】の春にあひて潮くむ海人も袖やほすらん【注23】

夏になりて、茅ぶきの軒端に五月雨【注24】のしづくいと所狭き【注25】も、御覧じ慣れぬ【注26】御心地に、さま【注27】変はりてめづらしくおぼさる【注28】

あやめふく【注29】茅が軒端に風過ぎてしどろに【注30】落つる【注31】村雨【注32】の露

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 返りぬ ラ行四段動詞「返る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形。意味は「年が改まった」。
2 所々浦々 名詞。意味は「あちらこちらの海辺」。
3 あはれなる ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連体形。意味は「悲哀・もの悲しい」。
4 おぼし嘆く カ行四段動詞「おぼし嘆く」の終止形。「思ひ嘆く」の尊敬語。意味は「思い嘆きなさる」。後鳥羽院の皇子で承久の乱に加担し、様々な所に配流された方々(土御門院は土佐・順徳院は佐渡など)に対する敬意。
5 佐渡院 名詞。佐渡に配流された順徳院のこと。
6 明け暮れ 副詞。意味は「明けても暮れても・始終」。
7 行ひ 名詞。意味は「仏道修行・勤行」。
8 し給ひ サ変動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形。「給ひ」は尊敬語。意味は「しなさる」。佐渡院に対する敬意。
9 なほ 副詞。意味は「やはり」。
10 さりとも 副詞。意味は「いくら何でも」。
11 おぼさる サ行四段動詞「おぼす」の未然形+自発の助動詞「る」の終止形。意味は「お思いにならずにはいられない」。「おぼす」は「思ふ」の尊敬語。佐渡院に対する敬意。
12 遠 名詞。意味は「遠く隔たった所」。読みは「おち」。
13 はるばる 副詞。意味は「はるか遠くまで」。
14 霞みわたれる ラ行四段動詞「霞みわたる」の已然形+存続の助動詞「る」の連体形。意味は「一面に霞がかかっている」。
15 ながめ入り ラ行四段動詞「ながめ入る」の連用形。意味は「物思いにふけりながら見る」。
16 過ぎにし ガ行上二段動詞「過ぐ」+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「過ぎてしまった」。
17 かきつくし サ行四段動詞「かきつくす」の連用形。意味は「ある限りすべてを出す」。
18 思ほし出づる ダ行下二段動詞「思ほし出づ」の連体形。意味は「思い出しなさる」。「思ひ出づ」の尊敬語。(隠岐にいる)後鳥羽院に対する敬意。
19 行方なき ク活用の形容詞「行方なし」の連体形。意味は「はてしない」。
20 とどまらぬ ラ行四段動詞「とどまる」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「とまらない」。「ぬ」は係助詞「ぞ」に呼応している。
21 うらやまし シク活用の形容詞「うらやまし」の終止形。
22 日影 名詞。意味は「日の光」。
23 やほすらん 係助詞「や」+サ行四段動詞「ほす」の終止形+現在推量の助動詞「らん」の連体形。意味は「今頃干しているだろうか」。「らん」は係助詞「や」呼応している。
24 五月雨 名詞。意味は「長雨・梅雨」。
25 所狭き ク活用の形容詞「所狭し(ところせし)」の連体形。意味は「いっぱいだ」。
26 御覧じ慣れぬ ラ行下二段動詞「御覧じ慣る」の未然形+打消の「ず」の連体形。意味は「見慣れていらっしゃらない」。「御覧じ慣れ」は「見慣る」の尊敬語。後鳥羽院に対する敬意。
27 さま 名詞。意味は「様子」。
28 おぼさる サ行四段動詞「おぼす」の未然形+自発の助動詞「る」の終止形。意味は「お思いになる」。「おぼさ」は「思ふ」の尊敬語。後鳥羽院に対する敬意。
29 あやめふく 連語。端午の節句の行事として、五月四日の夜に、軒に菖蒲を指すこと。
30 しどろに ナリ活用の形容動詞「しどろなり」の連用形。意味は「ばらばらなさま・乱れているさま」。
31 落つる タ行上二段動詞「落つ」の連体形。
32 村雨 名詞。意味は「にわか雨」。

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現代語訳

 年も改まった。あちらこちらの海辺に(配流されている後鳥羽院の皇子たちは)、悲哀なことばかりを思い嘆きなさっている。(後鳥羽院の皇子である)佐渡院は、明けても暮れても勤行だけをしなさりつつ、やはりいくら何でも(いつかは都に戻れるだろうと)お思いにならずにはいられない。隠岐では、(後鳥羽院が)海辺から遠く隔たった所のはるか遠くまで一面に霞がかっている空をもの思いにふけりながら御覧になり、過ぎてしまった昔のことを、ある限りすべて思い出しなさって、はてしなく流れる涙が特に止まらない。

うらやましい。日の光が長い春になって、潮を汲む海人も今頃、(海水で)濡れた袖を干しているのだろうか

夏になって、茅葺きの軒先に梅雨のしずくがとてもいっぱいに滴り落ちるのを、見慣れていらっしゃらないお気持ちに、様子が変わって目新しくお思いになられる。

あやめが葺く茅ぶきの軒先に風が通り抜けて、ばらばらと落ちるにわか雨の露

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

・敬語表現が誰に対する敬意なのかをきちんと確認しておきましょう。
(「注4」・「注11」・「注18」・「注26」・「注28」)

・「うらやまし」の和歌で、なぜ後鳥羽院は海人がうらやましいのかを確認しておきましょう。
答えー海人は海水で濡れた袖を乾かすことができるが、自分は涙で濡れた袖を乾かすことができないほどまだ悲しみにくれているから。

・「なほさりとも」の後に何が省略されているかを確認しておきましょう。

答えーいつかは都に戻れるだろうという思い。

ありがとうございました。
やはり都会から田舎に移住すると、
もの思いにふけることが
多くなるんですね。

そうみたいですね。
でも、私はいつか田舎暮らし
したいと思っています。

私も同じ気持ちです。
以前、丸の内に
勤めていたんですが、
通勤電車が嫌で、
この仕事に転職したんです。

そうなんですか。
大名屋敷にお勤めで。
ちなみに何藩にお勤めだったんですか?

(※東京都のオフィス街である丸の内は、江戸時代は大名屋敷でした。)

八王子藩です。

八王子藩?
確か、「チュー殿様」が藩主でしたよね?
あの藩はネズミ以外雇わないと、
以前「チュー殿様」が言っていましたが…。

そうです。
私も務めているときは
ネズミでした。
でも転職したので、
着ぐるみ脱ぎました。

(笑)…。

着ぐるみだったんですね。

そうですよ。
別に珍しいことではなくて、
私がこの航路で寄った
浦安のあの…。

もういいです!!!

それ以上言わないで下さい!!!

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