『蜻蛉日記』「うつろひたる菊」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

では、「うつろひたる菊」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『蜻蛉日記』「うつろひたる菊」の現代語訳と重要な品詞の解説1

  
  

本文

 これより、夕さりつ方、「内裏にのがるまじかりけり【注1】。」とて出づる【注2】に、心得で【注3】、人をつけて見すれ【注4】ば、「町小路なる【注5】そこそこになむ、とまり給ひぬる【注6】。」とて来たり【注7】さればよ【注8】と、いみじう【注9】心憂し【注10】と思へども、言はむ【注11】やうも知らで【注12】あるほどに、二、三日ばかりありて、暁方に、門をたたくときあり。【注13】なめり【注14】と思ふに、憂く【注15】て、開けさせね【注16】ば、例の【注17】家とおぼしき【注18】所にものしたり【注19】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 のがるまじかりけり ラ行下二段動詞「のがる」の終止形+不可能推量の助動詞「まじ」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」の終止形。意味は「逃れることができないのだよ」。
2 出づる ダ行下二段動詞「出づ」の連体形。
3 心得で ア行下二段動詞「心得(こころう)」の未然形+打消の接続助詞「で」。意味は「納得いかないで」。
4 見すれ サ行下二段動詞「見す」の已然形。意味は「見せる」。
5 なる 存在の助動詞「なり」の連体形。意味は「~にある」。
6 とまり給ひぬる ラ行四段動詞「とまる」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連体形。意味は「お停まりなさった」。「給ひ」は尊敬語で、「」から「兼家」に対する敬意。

会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の敬意の方向(誰から誰に)の解説

7 来たり カ変動詞「来(く)」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「来た」。
8 さればよ 連語。意味は「思ったとおりだ・案の定だ」。
9 いみじう シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。「いみじ」は「いみじ」がウ音便化している。
10 心憂し ク活用の形容詞「心憂し」の終止形。意味は「つらい」。
11 言はむ ハ行四段動詞「言ふ」の未然形+婉曲の助動詞「む」の連体形。意味は「言うような」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

12 知らで ラ行四段動詞「知る」の未然形+。打消の接続助詞「で」。意味は「知らないで」。
13 さ 副詞。意味は「そう・そのように」。
14 なめり 断定の助動詞「なり」の連体形+推定の助動詞「めり」の終止形。意味は「~であるようだ」。「なめり」は、「なめり」が「なめり」が撥音便化して、「なめり」と表記したもの。
15 憂く ク活用の形容詞「憂し」の連用形。意味は「つらい」。
16 開けさせね カ行下二段動詞「開く」の未然形+使役の助動詞「さす」の未然形+打消の助動詞「ず」の已然形。意味は「開けさせない」。
17 例の 連語。意味は「いつもの」。
18 おぼしき シク活用の形容詞「おぼし」の連体形。意味は「思われる」。
19 ものしたり サ変動詞「ものす」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「行ってしまった」。

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現代語訳

 ここ(私の所)から、夕方に(夫・兼家が)「宮中に(用事があって)逃れることができないだよ。」と言って、出て行った時に、納得いかないので、人を付けて観察させたところ、「町小路にあるどこそこという所に、車をお停めなさった。」と(報告して)来た。「思ったとおりだ。」と(思い)、たいへんつらいと思ったけれど、(夫に文句を)伝えるようなすべを知らないでいるうちに、二、三日ぐらいたった、夜明け前ごろに、家の門を叩く時があった。そうであるようだ(夫が帰ってきたようだ)と思って、つらくて、門を開けさせないでいたところ、いつもの家と思われる所に行ってしまった。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  

 

  

・注14「なめり」の品詞分解と元の形が分かるようにしておきましょう。

・助動詞がセットになっている所は品詞分解と訳ができるようにしておきましょう(注1・16)。

  
  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『蜻蛉日記』「うつろひたる菊」の現代語訳と重要な品詞の解説3

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