「に」の練習問題

「に」の種類については、猫さんに解説してもらいましたので、
入試問題の解説は私の方が担当します。

全部で二問、出題します。それでは参りましょう。

入試問題に挑戦!

練習問題1

問題

これはうちまかせての理運(りうん)のことなれども、かの卿(きやう)の心には、これほどの歌、ただいま、よみ出(いだ)すべし、とは知られざりけるや。

(『十訓抄』第三「人倫を侮らざる事」)

問 傍線「に」を文法的に説明するとどうなるか。次の中から最適のものを一つ選べ。

  ア 完了の助動詞「ぬ」の連用形  イ 断定の助動詞「なり」の連用形

  ウ 格助詞「に」         エ 接続助詞「に」   オ 終助詞「に」

(東海大学 2013年)

練習問題1の解説

では、解説したいと思います。

まず、傍線の「に」とそのすぐ後ろにある「や」に注目して下さい

「や」は係助詞で、疑問か反語の意味があります。本文は「にや。」で終わっていますが、実は係り結びの結びの語「あらん」が省略されています。係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説しておりますので、そちらをご参照下さい。

係り結びの省略と流れの解説の頁(ページ)

「にや」は、「にて」・「にして」・「にか」とセットにして覚える、「に」の識別で一番大事な表現です。

「に」は断定の助動詞ですので、答えはイになります。

正解:イ 断定の助動詞「なり」の連用形

問題文の現代語訳

これは、ありふれた起こるべくして起こった当然の出来事であったが、あの(藤原定頼)卿の心には、(小式部内侍が)これほどすばらしい和歌を、すぐさま詠み出すことができるとは、お分かりにならなかったのあろうか。

もう一問行きましょう。

練習問題2

問題

福井は三里ばかりなれば、夕飯したためて出づるに、たそがれの道たどたどし。ここに等栽(とうさい)といふ古き隠士あり。いづれの年にや、江戸に来りて予を尋。はるか十年あまり也。いかに老いさらぼひて有るにや、はた死けるにやと、人に尋ね侍れば、「いまだ存命して、そこそこ」と、をしゆ。市中ひそかに引き入りて、あやしの小家に夕顔・へちまのはえかかりて、鶏頭・ははき木に戸ぼそをかくす。「さては此うちにこそ」と門をたたけば、侘(わび)しげなる女の出でて、「いづくよりわたり給ふ道心の御坊や。あるじは、このあたり何某(なにがし)と云ふものの方に行き。もし用あらば尋ね給へ」と云ふ。かれが妻なるべしとしらる。むかし物がたりこそかかる風情は侍れど、やがて尋ねあひて、その家に二夜とまりて、名月は敦賀(つるが)の湊(みなと)にと旅立つ。等栽も共に送らんと、裾(すそ)をかしうからげて、道の枝(し)折(をり)とうかれ立つ。

 やうやう白根が嶽(だけ)かくれて、比那(ひな)が嶽あらはる。浅水(あさむづ)の橋を渡りて、玉江の芦(あし)は穂に出でにけり

(『奥の細道』「福井」)

問 傍線ア~オの中で傍線A「出でにけり」の「に」と文法的に同じ意味のものはどれか。次の中から一つ選べ。

  ア 尋   イ 死ける  ウ 御坊や  

  エ 行き  オ むかし物がたりこそ 

(専修大学 2013年)

練習問題2の解説

まず、傍線の「に」の分析をしましょう。

「に」のすぐ後ろに「けり」があります。「けり」は過去の助動詞で、「にけり」は、完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形という、大学入試では、頻出の助動詞の組み合わせです。

正直、「にけり」だけで、一つの投稿記事ができるくらい、多くの大学で問題として出題されています。

訳は「~してしまった」です。大学受験をするなら必ず覚えましょう。

次に、選択肢の分析をしましょう。

アの「ぬ」は、ナ行下二段動詞「(尋(たづ)ぬ」の末尾です。

イの「に」は、ナ変動詞「死ぬ」の末尾です。後ろに過去の助動詞の「ける」があるので、連用形になっています。

ウの「に」は、先程の練習問題1で出てきました。断定の助動詞「なり」の連用形です。練習問題1と同様、「にや」の後ろに「あらん」が省略されています。

エの「ぬ」は、完了の助動詞「ぬ」の終止形です。完了の助動詞「ぬ」の直前の語は連用形になります。カ行四段動詞「行く」の連用形は、「行き」です。

オの「に」は、ウと同じ断定の助動詞「なり」の連用形です。

正解:エ 行きぬ

問題文の現代語訳

福井までは三里ぐらいであるので、夕御飯を食べて出たが、夕暮れの道で確かでない。等栽という年老いた隠者がいる。いつの年であったか、等栽が江戸に来て私を訪ねてきた。はるか十数年前のことである。どのくらい老いてよぼよぼになっているだろうか。もしかして死んでしまっているのだろうかと、人に尋ねましたところ、尋ねた人が、「まだ存命で、どこそこにいる」と、教えてくれた。町中にこっそり入って、粗末な家で、夕顔と糸瓜が生えかかって、鶏頭と箒木で、戸口を隠している。「さてはこの家にいるだろう」と門をたたけば、みすぼらしい女性が出てきて、「どこからいらっしゃった仏道修行の僧でありましょうか。主人は、この辺りのなになにという人の所へ行ってしまいました。もし御用ならそちらへ尋ねなさって下さい」と言った。彼女が等栽の妻にちがいないと感じた。昔の物語にこのような風情がございましたが、すぐに尋ねて会えて、その家に二晩泊って、名月で有名な敦賀の湊に旅立った。等栽も一緒に送ろうと、裾をおかしくまくり上げて、道案内としようとうかれ立っていた。
 次第に白根の岳が隠れていって、比那の岳が現れた。浅水の橋を渡って、玉江の芦は穂が出てしまった。

いかがでしたでしょうか。
やはり、入試問題では、助動詞の「に」が問われることが多いので、六種類ある中で、①の断定の助動詞「なり」の連用形と②の完了の助動詞「ぬ」の連用形を重点的に覚える方がよいでしょう。また、「にや」、「にか」、「にて」、「にして」もよく聞かれますので、それも覚えておいた方がよいでしょう。

【朋誠堂喜三二作北尾政演画『廓花扇観世水』(安永八年刊)を参考に挿入画を作成】

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