「にて」の識別の解説

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
 
 
 
んー、分からん。
 
 
 
 
 
どうしたんですか?
倉橋先生
 
 
 
 
 
いやー、
古文の注釈をしているんだが、
「にて」の品詞分解が
難しくて苦労するんだよ。
 
 
 
 
そんなのも分からないですか?
教師失格ですねー。
もう郷学所、解散した方が
いいんじゃないですか?
 
 
 
 
教科書をかぶって
遊んでいる佐吉君に
言われたくないなあー。
それに郷学所解散したら、
君も困るだろ。
 
 
 
そう言われれば…。
ここ解散したら、
他に遊ぶ場所、
ないですよ。
 
 
……。
ここ、一応勉強する所
なんだけど…。
 
 
 
 
 
先生、誰かに
聞いてきて下さいよ。
そしたら、分かるんじゃ
ないですか?
 
 
 
その手があったか!!
佐吉君、たまには
言いこというじゃ
ないか。
 
 
 
 
 
暇じゃなー。
誰か来ないかなー。
 
 
 
 
御免下さい。

芝全交先生、
いらっしゃいますか?
 
 
 
 
おお、、
倉橋ではないか。
どうした?
 
 
 
 
先生、
「にて」の識別を
私にご講義下さいませ。
 
 
 
 
 
突然来て、講義せいとは。
まあ、良い。
講義して進ぜよう。
後で謝礼もいただくぞ。
 
 
 
 

「にて」の種類の解説(全5種類)

「にて」の種類は全部で5種類あります。難易度は星の色の数で表示してます。

① ナ変動詞「死ぬ」の連用形の「死に」+接続助詞「て」 ★☆☆☆☆

② ナ行上一段動詞「似る・煮る」の連用形の「似・煮」+接続助詞「て」 ★☆☆☆☆

③ ナリ活用の形容動詞の連用形の活用語尾「に」+接続助詞「て」 ★★☆☆☆

④ 断定の助動詞「なり」の連用形の「に」+接続助詞「て」 ★★★★★

⑤ 格助詞「にて」 ★★★★★

詳しい解説をします。

① ナ変動詞「死ぬ」の連用形の「死に」+接続助詞「て」

まず、簡単に見分けられるものから見ていきましょう。

①は、「にて」の前に「死」という語があるかで見分けられます。

「死にて」となっていたら、ナ変動詞「死ぬ」の連用形に、接続助詞の「で」がくっついた形で、意味は「死んで・亡くなって」となります。

例文を見てみましょう。

死にて六日といふ日の未の時ばかりに、にはかにこの棺はたらく。
【『宇治拾遺物語』巻第三「因幡国の別当、地蔵造り差す事」】
亡くなって六日目という日の午後二時ごろに、急にこの棺が動き出した。)

「にて」の前に「死」という語があるので、簡単に識別できます。

② ナ行上一段動詞「似る・煮る」の連用形の「似・煮」+接続助詞「て」

②は①と同じで見分け方がすごく簡単です。

「て」の前に、「似」か「煮」という語があるかで見分けられます。両方ともナ行上一段動詞の連用形です。

意味はほとんどそのままで「似て」は「似て・似ていて」、「煮て」は「煮て」です。

例文を見てみましょう。

○父に似てもあらで、いとをかしげなる女君なりけり。
【『落窪物語』巻之三】
(父に似ていないで、とてもかわいらしい姫君であった。)

○鯉のほそくび、水もたまらず打おとし、ぐつぐつとかい煮て、したたか食て、
【『一休ばなし』巻之一】
(鯉の細首を、すぱっと切り落とし、ぐつぐつ煮て、たらふく食べて、

「に」の所が漢字で書かれている本文が、ほとんどですので難しくありません。

③ ナリ活用の形容動詞の連用形の活用語尾「に」+接続助詞「て」

③は①・②に比べたら、少し難しいかもしれませんが、一回覚えてしまえば簡単です。

ナリ活用の形容動詞の連用形に「て」が付いている形です。

例文を見てみましょう。

○大和の国なりける人のむすめ、いと清らにてありけるを、
【『大和物語』一五四段】
(大和の国に住んでいた人の娘が、とても美しい人であったが、)

○今日は、日いとうららかにて、田子の浦に打ち出づ。
【『十六夜日記』駿河路】
(今日は、日の光がとてものどかで、田子の浦に出る。)

いざよふ月をおぼし忘れざりけるにや、いと優しくあはれにて
【『十六夜日記』月影の谷】
十六夜の月をお思い、お忘れでなかったのであろうか、本当に優しくしみじみとして

「にて」の前に形容動詞的な表現(例:静か・清らか・鮮やか・あはれなど)があったら、この識別になります。

④ 断定の助動詞「なり」の連用形の「に」+接続助詞「て」

④は「にて」の識別の中で、大学入試によく出題されます。5種類の中で一番大事ですので、きちんと覚えておきましょう。

見分け方は2つあります。
1、「にて」の前に体言(名詞や代名詞など)や活用語の連体形がある
2、「にて」の後ろの文章に「あり」や「おはす」や「まします」など存在を表わす語がある

意味は「~で、~であって」となります。

例文を見てみましょう。

装束も解かで丸寝にてありければ、
【『今昔物語集』馬盗人】
(衣服も脱がないで丸寝の状態あったので、)

あの客僧こそ判官殿にておはしけれ
【『義経記』如意の渡りにて義経を弁慶打ち奉る事】
(あの旅僧こそ、判官殿いらっしゃいますのだ。)

判官殿にてましまさは、
【『義経記』如意の渡りにて義経を弁慶打ち奉る事】
(判官殿いらっしゃらないことは、)

彼の母の尼公、慈悲ある人にて
【『沙石集』猿、恩を知ること】
男の母の尼君が慈悲のある人であって、)

「にて」の後ろに存在を表わす語があれば、ほとんど④の断定の助動詞「なり」の連用形の「に」+接続助詞「て」となります。
ただ、『沙石集』の例文のように存在を表わす語がなくても、④の時もありますので、注意が必要です。

⑤ 格助詞「にて」

⑤は④と似ていて、判断しにくい場合があります。

見分け方は2つあります。
1、「にて」の前に体言(名詞や代名詞など)や活用語の連体形がある
2、「にて」の前に場所や方法、原因や資格などを表わす語がある

意味は「~で、~によって、~として」となります。

例文を見てみましょう。

浦近き山もとにて、風いと荒し
【『十六夜日記』月影の谷】
(海岸に近い山の麓、風がとても強い。)→場所

弓矢の道の手立てにも、名将の計らひにて思ひの外なる手立てにて、強敵にも勝つことあり。
【『風姿花伝』「秘する花を知ること】
(武芸の道の方法でも、名将の考え・判断、思ってもいなかった方法、強敵にも勝つことがある。)→最初に「にて」が原因、二つ目の「にて」が方法

○太政大臣にて二年、世をしらせ給ふ。
【『大鏡』兼家伝】
(太政大臣として二年、天下をお治めになる。)→資格

「にて」の前にある語が④と同じ体言(名詞や代名詞など)や活用語の連体形ですので、ぱっと見、判断しにくいのですが、訳してみて場所や方法、原因や資格となったら、⑤となります。

特に場所はたくさん出てきますので、地名があったら基本場所を表わす格助詞となります。

まとめ

まとめです。

・5種類のうち、一番入試や試験で聞かれるのは、④断定の助動詞「なり」の連用形の「に」+接続助詞「て」。

・④と⑤は識別しづらいので、「にて」の後ろに「あり」や「おはす」や「まします」など存在を表わす語があるかをまず確認する。→あったら④

・場所を表わす語の後ろ「にて」が付く場合が多いので、その時は⑤の可能性が高い。

まあ、よく見れば
そんなに難しくないから
きちんと覚えるのが、
よいじゃろう。

いやー。全交先生、
ありがとうございました。
激ムズでしたけど、
なんとか覚えます。

そうか。よろしい。
それで、謝礼の方
なんじゃが…。
わし一人暮らしじゃから
猫がほしくてのう…。

猫!!!それなら家に
色々な人が置いてった
猫がたくさんいます。
それを差し上げます。

そうか。それなら、
次回来る時に
連れてきてくれ。

【『あつめ草』(江戸後期刊)を参考に挿入画を作成】

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