入試問題に挑戦!
前回、「の」の種類と見分け方について解説しました。
今回は、実際に出題された入試問題を使って練習してみましょう。
練習問題
また、ついでなきことには侍れど、怪(け)と人アの申すことども①の、させることなくてやみにしは、前(さき)の一条院イの御即位ウの日、大極殿の御装束すとて人々あつまりたるに、高御座(たかみくら)のうちに、髪つきたるものの頭(かしら)エの、血うちつきたるを見つけたりける、あさましく、いかがすべきと行事思ひあつかひて、かばかりオのことを隠すべきかとて、
注 怪……怪奇なこと。
前の一条院……前の天皇である一条天皇。
大極殿……大内裏の八省院の北部中央にあった正殿。即位の儀式を行った所。
御装束……飾り付け。
高御座……天皇の座る玉座。
行事……儀式を執り行う担当者。
(『大鏡』「太政大臣道長」)
問 傍線①の「の」と同じ意味の「の」を、次の中から一つ選べ。
ア 傍線ア「人の」の「の」 イ 傍線イ「一条院の」の「の」
ウ 傍線ウ「御即位の」の「の」 エ 傍線エ「頭の」の「の」
オ 傍線オ「かばかりの」の「の」
(中央大学 2013年)
練習問題の解説
では、まず傍線①の「の」から分析しましょう。
前回の解説でも、述べましたが、入試問題で「の」の識別の問題が出たら、まず、「同格」か「主格」のどちらかを疑って下さい。
「同格」と「主格」のうち、「同格」の方が見分け方が簡単ですので、まず「同格」かどうか考えましょう。「同格」は「の」の前後の文章が、同じ人や同じ事柄について述べているので、「~で」と訳すものであり、後ろの文章で連体形で終わる言葉があるということが特徴です。傍線①の後ろの文章を見てみると、「やみにし」という言葉があります。「やみ」は「やむ」というマ行四段動詞の連用形です。「に」は完了の助動詞「ぬ」の連用形です。最後の「し」は過去の助動詞「き」の連体形です。
過去の助動詞「き」の活用は、以下の通りです。
過去の助動詞「き」は大学入試でよく活用形を問われる問題が出ますので、覚えておきましょう。
後ろの文章に連体形の言葉があることから、傍線①の「の」は同格だと判断できます。ちなみに「やみにし」の後に「こと」という言葉が省略されているので、「し」が連体形になります。
では、傍線ア~オで、同格の「の」を見つけましょう。
まず、傍線アから見ていきます。
傍線アの前に「人」という言葉があり、アの後ろには「申す」という動詞があります。ここから傍線アは、「~が」と訳す主格であるということが分かります。「人が申す」と訳せます。
次に、傍線イとウを見てみましょう。
この二つは、普通に「~の」と訳す連体修飾格です。「一条院のご即位の日」と普通に訳せますので、これは間違えないと思います。
次に、傍線エを見てみましょう。
エの後ろの文章を見てみると、「見つけたりける」となっており、「ける」は過去の助動詞「けり」の連体形です。過去の助動詞「けり」の活用は、以下の通りです。
以上のことから傍線エは、「~で」と訳す同格になります。
最後に、傍線オを見てみましょう。
オの前にある「かばかり」という言葉は「このぐらい」という意味の指示語です。古文ではよく出てきますので、覚えておきましょう。「かばらりのこと」は、「このぐらいのこと」と訳せますので、オは連体修飾格であることが分かります。
よって、答えは、エになります。
練習問題の正解:エ 傍線エ「頭の」の「の」
問題文の現代語訳
また、突然の話題ではございますが、怪奇なこととある人アが申し上げたこと①で、対応させることもなく終わってしまったことは、一条天皇イのご即位ウの日に、大極殿の飾り付けで人々が集まっていた時に、天皇が座る玉座に、髪が付いた頭エで、血が付いているものを見つけてしまい、驚いて、どうするのがよいかと儀式の担当者は処置に苦しみ、このぐらいオのことを隠すべきかと悩み、
いかがでしたでしょうか。
文章に登場する「の」は、基本的に「~の」と訳す連体修飾格がほとんどで、今回の選択肢でも3つが連体修飾格でした。体言の代用や連用修飾格はめったに出てこないため、同格と主格が入試問題では問われることが多いです。問題として出題された時は、まず、同格の見分け方を行って、「~で」と訳せるかを考えましょう。そのあととに主格で訳せるかを考えましょう。