さて、次回講義でやる中央大学の文学部の2012年の古文の過去問でも勉強しておくか。
御免。
どちら様ですか?
えっ、もしかして中央大学のマスコットキャラクターの「チュー王子」ですか?
無礼者。
わしは「チュー王子」などではない。
「チュー殿様」じゃ。
よく覚えておけ。
「チュー殿様」!?
また、似せたような名前で…。
ちなみに「チュー殿様」はどこの藩の殿様でいらっしゃいますか?
八王子じゃ。
わしのことより早く講義をせい。
八王子!?
また、寄せてきてますねー。
えっと、まだ講義やる予定じゃなかったのですが、分かりました。
やりましょう。
本文が長いので、前半と後半に分けます。
過去問に挑戦!
前半の本文
次の文章は『源氏物語』夕顔巻の一節で、病気で出家した乳母(めのと)を光源氏が見舞う場面である。これを読んで、後の問に答えなさい。
尼君も起きあがりて、「惜しげなき身なれど、捨てがたく思ひたまへつることは、ただかく御前(おまへ)にさぶらひ御覧ぜらるることの変りはべりなんことを、口惜しく思ひたまへたゆたひしかど、忌(い)むこと【注1】の①しるしによみがへりてなん、かく渡りおはしますを見たまへはべりぬれば、②今なむ阿弥陀仏【注2】の御光も心清く待たれはべるべき」など聞こえて、弱げに泣く。「日ごろ③おこたりがたくものせらるるを、やすからず嘆きわたりつるに、かく世を離るるさまにものしたまへば、いとあはれに口惜しうなん。命長くて、なほ位高くなど見なしたまへ。さてこそ九品【注3】の上にも障りなく生まれたまはめ。この世にすこし恨み残るはわろきわざとなむ聞く」など、涙ぐみてのたまふ。
【注】 注1 忌むこと―出家して受戒の儀式を受けること。
注2 阿弥陀仏―臨終に際し来迎する仏。
注3 九品―極楽浄土は上品・中品・下品に分かれ、さらに各品は上生・中生・下生に分かれ、全体で九階級ある。
前半の設問
(設問は前半の部分のものを載せています。そのため、実際の設問の順序と異なります。)
問一 傍線①「しるしに」と③「おこたりがたく」の意味として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。
①「しるしに」
ア 前兆で イ ききめで ウ 予想どおりに エ 目印に
③「おこたりがたく」
ア 治りにくそうになく イ まちがいを犯しそうに
ウ 怠けることができなそうに エ 愚かしそうに
問二 傍線②「今なむ阿弥陀仏の御光も心清く待たれはべるべき」とは、どのような心境をいったものか。最も適当なものを次の中から一つ選べ。
ア 往生に執着する気持ち。 イ 死を受け入れようとする気持ち。
ウ 往生をあきらめようとする気持ち。 エ 死を恐れる気持ち。
オ 往生への希求と死の恐怖のはざまで揺れ動く気持ち。
前半の設問の解説
では、問一の意味の問題から見ていきましょう。
この二問は難しくありません。両方とも古文単語が分かれば解ける問題です。
①は、「しるし」が重要単語で、「効き目」・「はっきりしている」・「霊験」という意味です。板野先生の『ゴロで覚える古文単語ゴロ565』にも載っています。
③は、「おこたり」が重要単語で、「病気が治る」という意味です。これも板野先生の単語集に載っています。「がたく」は、「~しがたい」・「~しにくい」という意味です。
問一の正解:① イ ききめで ③ ア 治りにくそうになく
次に、問二の傍線の内容を解釈する問題ですが、注2の説明がヒントになっています。
注には「臨終に際し来迎する仏」という説明があり、「阿弥陀仏の御光も心清く待」つというのは、「阿弥陀仏が自分が臨終(亡くなる)時に、迎えに来るのを、心穏やかに待つ」という意味になりますので、答えは、イになります。
問二の正解:イ 死を受け入れようとする気持ち。
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現代語訳
尼君も起き上って、「惜しくない身ではありますが、捨てがたいと思い差し上げていることは、ただこうして源氏の君の御前に参上して御覧になられることが変わってしまいますことで、残念に思い差し上げ、(出家を)ためらっていましたが、出家し受戒したことの効き目で蘇って、このように源氏の君がお越しになりましたのを拝見していますので、今は阿弥陀仏の来光も心清らかに待つことができます。」と申し上げて、弱弱しく泣く。光源氏は「日頃、病気が治りにくそうにいらっしゃるのを、心が安らかでなく嘆き続けていたのに、このように俗世を離れる姿でいらっしゃるので、とても悲しく残念であります。長生きして、さらに私の位が高くなることなどを見届けなさってください。そうして九品の上品上生に差し支えなくお生まれになってくださいませ。現世に少しでも恨みが残ってしまうのはよくないことと聞いています。」などと涙ぐんでおっしゃる。
いかがでしたでしょうか。
この問一と問二はまったく難しくありません。
この後に、難しい問題が出てきますので、中央大学を合格するためにはこの三問は満点でなければなりません。
後半は別のページに載せますので、そちらもご参照下さい。
中央大学の古文の入試問題の解説(2012年)後半の頁(ページ)
【市場通笑作鳥居清長画『怪物昼寝鼾 』(天明四年刊)を参考に挿入画を作成】