中央大学の古文の入試問題の解説(2012年)続き

では、前回の続きの2012年の文学部の古文の入試問題の後半の部分を学習します。

後半の文章と問題は以下の通りです。

後半の本文

次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

かたほなるをだに、乳母やうの思ふべき人はあさましうまほに見なすものを、④ましていと面だたしう、なづさひ仕(つか)うまつりけん身もいたはしうかたじけなく思ほゆべかめれば、すずろに涙がちなり。子ども【注4】はいと見苦しと思ひて、「背きぬる世の去りがたきやうに、みづからひそみ御覧ぜられたまふ」と、つきしろひ目くはす。

君はいとあはれと思ほして、「⑤いはけなかりけるほどに、思ふべき人々のうち捨ててものしたまひにけるなごり、はぐくむ人あまたあるやうなりしかど、親しく思ひむつぶる筋はまたなくなん思ほえし。人となりて後は、限り【注5】あれば朝夕にしもえ見たてまつらず、心のままにとぶらひまうづることはなけれど、なほ久しう対面せぬ時は心細くおぼゆるを、⑥さらぬ別れはなくもがなとなん」などこまやかに語らひたまひて、おし拭ひたまへる袖(そで)の匂(にほ)ひも、いとところせきまで薫(かを)りみちたるに、「⑦げによに思へば、⑧おしなべたらぬ人の御宿世(みすくせ)ぞかし」と、尼君をもどかしと見つる子どもみなうちしほたれけり。

【注】 注4 子ども―乳母の子供たち。
注5 限り―身分的制約。

半の設問

(設問は後半の部分のものを載せています。そのため、実際の設問の順序と異なります。)

問三 傍線④「まして」の後には省略がある。補うべき内容として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。

ア 「子ども」と「君」を平等に育てたことは

イ 「君」を「まほ」に見なさなかったことは

ウ 「かたほ」である「君」を「まほ」に育てあげたことは

エ 「かたほ」である「子ども」を「まほ」に育てあげたことは

オ 「まほ」である「君」を育てたことは

問四 傍線⑤「いはけなかりけるほどに」・⑧「おしなべたらぬ」の意味として、最も適当なものを次の中からそれぞれ一つずつ選べ。

⑤「いはけなかりけるほどに」

ア 言いようのなかったときに  イ 年老いたときに

ウ 生まれたときに       エ 幼かったときに

⑧「おしなべたらぬ」

ア すべてではない  イ 世間並みではない

ウ 非凡ではない   エ ありきたりな

問五 傍線⑥「さらぬ別れはなくもがな」を、具体的で平易な現代語に訳しなさい。

問六 傍線⑦「げに」は、「子ども」が何を「げに」と思ったのか。その内容として、最も適当なものを次の中から一つ選べ。

ア 「惜しげなき身なれど、捨てがたく思ひたまへつる」こと。

イ 「忌むことのしるしによみがへ」ったこと。

ウ 「なづさひ仕うまつりけん身もいたはしうかたじけなく思ほゆべかめ」ること。

エ 「背きぬる世の去りがたきやうに、みづからひそみ御覧ぜられたまふ」こと。

オ 「おし拭ひたまへる袖の匂ひも、いとところせきまで薫りみちたる」こと。

問七 本文の内容と合致していないものを次の中から一つ選べ。

ア これまでどおり光源氏にお仕えしたくて、乳母は出家を躊躇(ちゅうちょ)していた。

イ 長生きして自分の立身出世を見届けてほしいと、光源氏は乳母を励ました。

ウ 光源氏は、自分を養育した人たちの中で、尼君に一番親しみを感じていた。

エ 光源氏が成人した後は、それ以前のように頻繁に乳母に会うことはできなくなった。

オ 乳母の子供たちは、光源氏に愚痴をこぼす母を、終始非難がましくながめていた。

後半の設問の解説

では、問三の省略された内容を補う問題から見ていきましょう。
この問題は、かなりの難問です。まず、大前提として「かたほ」と「まほ」の意味が分からないと、選択肢の内容を考えることすらできません。「かたほ」は、重要単語で「未熟・不器量」という意味です。「まほ」も重要単語で「完璧」という意味です。これが分かることで、やっと省略されている内容が「未熟な子を育てあげたのか」、「完璧な子を育てあげたのか」を考えることができます。あとは、「まして」下にある「面だたしう」の意味が分かればよいのですが、受験生でこの単語の意味が分かる人は、なかなかいないと思います。「面(おも)だたし」は、「名誉だ・光栄に思う」という意味ですが、この単語の意味が分からないのであれば、「まして」という副詞の使い方から判断するしかありません。「まして」は、先に一般的なことを挙げて、「まして」のあとに強調したいことを挙げて、強調したい方を際立たせるという効果でありますので、「まして」の前の文章の内容に注目します。前の文章は、「未熟な子でさえ、完璧に見なす」という内容ですので、「まして」の後は、「完璧な子だったらどうなるか」という内容になりますので、答えはオになります。

問三の正解:オ 「まほ」である「君」を育てたことは

次に、問四の意味の問題ですが、傍線⑤は、「いはけなし」という重要単語の意味が分かれば簡単な問題です。
「いはけなし」は、「子どもっぽい」という意味ですので、答えはエになります。
傍線⑧の「おしなべ」の意味がポイントになりますが、「おしなぶ(押し並ぶ)」は「普通である」という意味です。重要単語ではありませんが、「なべて(並べて)」という副詞が重要単語であり、これも「普通」という意味があります。「なべて」の方がよく出てきますので、こちらを覚えていれば、解ける問題となっています。「ぬ」は打消の助動詞「ず」の連体形ですので、意味は「普通でない」ということになり、答えはイになります。

問四の正解:⑤ エ 幼かったときに ⑧ イ 世間並みではない

次に、問五の現代語訳の問題ですが、「さらぬ別れ」と「もがな」という重要単語が分かれば解ける問題です。
「さらぬ別れ」は、「死別」という意味です。
「もがな」は、願望の終助詞で「~であればなあ」という意味です。
どちらも板野先生のゴロの古文単語集に載っていますので、覚えておきましょう。

問五の正解:死別はなければよいなあ

次に、問六の「げに」の内容を選ぶ問題ですが、なかなか難しい問題です。
まず大前提として「げに」の意味が分からないと解けません。
「げに」は、重要単語で「なるほど・本当に」という意味です。
よって、「なるほど」と子どもたちが思った内容を選べばよいということになります。
次に、傍線⑦の後の文章を見てみると、「なるほどと思ったので」、「おしなべたらぬ人の御宿世ぞかし」と感じたとあるので、「おしなべたらぬ人の御宿世ぞかし」を分析しなければなりません。「おしなべたらぬ」は問四の問題になっていますので、問四が解けないと、問六も解けない少々意地悪な問題です。
「おしなべたらぬ」は、「世間並みでない」という意味で、「宿世」は「宿命」といういみですので、「世間並みでない宿命」とは、何かと考えます。これが問六の答えになります。

「世間並みでない宿命」とは、尼君が光源氏を乳母として育てたということになりますので、正解はウになります。

問六の正解:ウ 「なづさひ仕うまつりけん身もいたはしうかたじけなく思ほゆべかめ」ること。

最後に、問七の内容不一致の問題ですが、合っていないのは、オで「終始」という所が間違っています。子どもたちは最後は涙を流していますので、そこが違います。

問七の正解:オ 乳母の子供たちは、光源氏に愚痴をこぼす母を、終始非難がましくながめていた。

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現代語訳

未熟な子でさえ、乳母のように大切に思っている人には、呆れるほど完璧と見なすものであり、まして(完璧である光源氏を育てたことは)とても光栄であり、慣れ親しんでお仕え差し上げた自分の身を気の毒でもったいない思われるにちがいないようで、むやみに涙がちになる。
乳母の子どもたちは(母の様子を)見苦しいと思って、「背いた世を去りがたいようで、自分から泣き顔を御覧にかけなさっている」とつつきあい目配せをしている。
光源氏はとても寂しくお思いになって、「幼かった時に、私の事を大切に思ってくれる人達が、亡くなられて私を置き去りになさった後、私を育てる人はたくさんいましたが、親しく思い睦まじく感じる人はあなた以外にいないと思われます。私が成人した後は、身分的制約がありましたので、朝と夕方だけしか拝見できず、思うままにお見舞いに参ることがなかったでしたが、やはり長く対面しない時は寂しく思えたので、死別はなければよいなあと思っています」などと親密に語りなさって、涙をぬぐいなさる袖の香りも、部屋いっぱいにまで満ちている様子に、「なるほどよくよく思うと、母は世間並みでない人の宿命であったのだ」と、尼君をじれったく見ていた子どもたちも皆涙を流した。

いかがでしたでしょうか。

問一・問二・問四・問五は比較的簡単な問題ですので、合格するためにはここは間違えないようにしましょう。
中央大学の古文は他の年度もそうですが、かなりひねった問題がでますので、落としてはいけない問題をきちんと取り、他の受験生と差をつけられないようにすることが大事だと思います。

おお、倉橋。
解説、ごくろうであった。
次回も楽しみにしておるぞ。

チュー殿様、ねぎらいの言葉ありがとうございました。

もし、よろしければ、殿様の家来として雇っていただけないでしょうか?

お断りじゃ。
わしの藩はねずみ以外雇っておらん。

そうでしたか…。残念です…。

また、お時間がありましたら、いらして下さい。

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