『義経記』「静の白拍子」の現代語訳と重要な品詞の解説3

では、続きを見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『義経記』「静の白拍子」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

本文

 二位殿【注1】これをきこしめし【注2】て、「同じ道の者ながらも、情け【注3】あり【注4】てこそ舞ひて候へ【注5】。静ならざらん【注6】者はいかでか【注7】御前【注8】にて舞ひ候ふ【注9】べき【注10】。たとひいかなる【注11】不思議【注12】をも申し【注13】候へ、女ははかなき【注14】なれ【注15】ば、思しめし【注16】許し候へ【注17】。」と申さ【注18】せたまひ【注19】けれ注20】ば、御簾の片方を少し上げられたり【注21】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 二位殿 名詞。頼朝の妻の北条政子のこと。
2 きこしめし サ行四段動詞「きこしめす」の連用形。「聞く」の尊敬語。意味は「お聞きになる」。
3 情け 名詞。意味は「風雅を理解する心。風流心」。
4 あり ラ変動詞「あり」の連用形。
5 候へ ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の已然形。係助詞「こそ」に呼応している。意味は「ございます」。
6 ならざらん 断定の助動詞「なり」の未然形+打消の助動詞「ず」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「~ではないような」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

7 いかでか 副詞。意味は「どうして」。
8 御前 名詞。読みは「おまえ」。
9 候ふ ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の終止形。
10 べき 推量の助動詞「べし」の連体形。係助詞「か」に呼応している。
11 いかなる ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形。意味は「どのような」。
12 不思議 名詞。意味は「非常識なこと」。
13 申し サ行四段動詞「申す」の連用形。「言ふ」の謙譲語。意味は「申し上げる」。
14 はかなき ク活用の形容詞「はかなし」の連体形。意味は「はかない」。
15 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
16 思しめし サ行四段動詞「思しめす」の連用形。「思ふ」の尊敬語。意味は「お思いになる」。
17 候へ ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の命令形。
18 申さ サ行四段動詞「申す」の未然形。
19 せたまひ 尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連用形。二重尊敬。意味は「~なさる」。
20 けれ 過去の助動詞「けり」の已然形。
21 上げられたり ガ行下二段動詞「上ぐ」の未然形+尊敬の助動詞「らる」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。

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現代語訳

 北条政子殿はこれをお聞きになって、「同じ芸の道の者であっても、風雅を理解する心があったからこそ舞ったのでございます。(舞の名人である)静ではないような者が、どうして頼朝様の御前で(このように見事に)舞ったりしましょうか。いや、舞うことはできません。たとえどのような非常識なことを頼朝様に申し上げましても、女性ははかない存在の者でありますので、(どうかそれを)お思いになって、許して下さいませ。」と申し上げなさったので、頼朝殿は(少し機嫌を直し)御簾の端のほうを少しお上げになった。
  

  

いかがでしたでしょうか。
頼朝の妻の北条政子が登場し、敬語表現が「頼朝と政子」に使われ、混乱するかもしれませんが、政子に対する敬語表現は「きこしめし」と「せたまひ」の二つだけです。
それ以外はすべて頼朝に対する敬語表現です。
敬意の方向の見分け方は主語が分かることから始まりますので、まず主語を確認しましょう。

  

  

ありがとうございました。
静の気概が
分かるいい文章でした。
では、これにて失礼。

  
  

あら、どちらに
行かれるのですか?
まさか、義経と静だけに、
奥州平泉に行くのでは
ないですよね?

  
  

  

ははは。
ちがいますよ。これから
三囲(みめぐり)神社に
行きます。

  

  

やっぱり艶二郎さんと
浮名さんじゃないですかー(笑)。

  
  

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