「銀河の序」の現代語訳と重要な品詞の解説

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
  
  
桃園川の流れは、きれいだなー。
心が洗われる。
  
  
  
  
そうですな。まさに
荒海や佐渡に横たふ天の川
ですな。
  
  
  
  
それ、松尾芭蕉の句ですよね?
「海」じゃないし、
「佐渡島」じゃないし、
全然風景とあってないですよ。
ところでどちら様でしょうか?
  
  
  
  
これは失礼いたしました。
わたくし、
西行と申します。
  
  
  
  
  
えっ、西行?
あの有名な西行さんですか?
  
  
  
  
いえ、同姓同名です。
ところで、お侍さん。
猫いりませんか?
私、これから越後に行くんで、
飼い主を探しているんですよ。
  
  
  
  
ごめんなさい。
うち、ペット禁止なんで、
駄目なんですよ。
一緒に連れていけば
よろしいんじゃないですか?
  
  
  
  
私、猫アレルギーなんですよ。
この前、頼朝さんに呼ばれて、
無理やり渡されたんです。
正直、困っているんですよ。
  
  
  
  
  
えっ、頼朝さんって、
あの源頼朝さん?
渡されたって、
もしかして、銀製の猫ですか?
  
  
  
※鎌倉幕府の歴史書『吾妻鏡』に「源頼朝が西行に歌道と弓馬の道について尋ね、そのお礼として銀製の猫を与えたが、西行はそれをそばで遊んでいた子どもに惜しげもなく与えた」という話が載っています。
  
  
  
  
いえ、源頼朝さんではなく、
八百屋の頼朝さんです。
もらったのは、ただの猫です。
銀製の猫ならあげません。
  
  
  
  
  
そうですよね…。
銀製の猫なら、メルカリで
高く売れますもんね…。
  
  
  
  
ところで、私、これから
越後の出雲崎に行くのですが、
松尾芭蕉の『銀河の序』の
講義をしてくれませんか?
  
  
  
  
  
いいですよ。
餞別に講義致しましょう。

本文

 北陸道に行脚【注1】【注2】て、越後の国出雲崎といふ所に泊まる。かの佐渡が島は、海の【注3】十八里、滄波【注4】隔て【注5】て、東西三十五里に横ほり【注6】臥したり【注7】。峰の険難【注8】、谷の隈々【注9】まで、さすがに【注10】手に取るばかりあざやかに【注11】見えわたさ【注12】むべ【注13】、この島は、黄金多く【注14】出で【注15】て、あまねく【注16】世の宝となれ【注17】ば、限りなき【注18】めでたき【注19】【注20】侍る【注21】を、大罪、朝敵のたぐひ【注22】遠流せらるる【注23】によりて、ただ恐ろしき【注24】名の聞こえ【注25】ある【注26も、本意なき【注27】ことに思ひて、窓押し開きて、暫時【注28】旅愁【注29】いたはらん【注30】とするほど、日すでに海に沈んで、月ほの暗く、銀河半天【注31】にかかりて、星きらきらと冴えたる【注32】に、沖の方より、波の音しばしば運びて、魂削るがごとく【注33】、腸ちぎれ【注34】て、そぞろに【注35】悲しび来たれ【注36】ば、草の枕も定まらず【注37】墨の袂【注38】何ゆゑ【注39】とはなく【注40】て、絞るばかりになん侍る【注41】
  荒海【注42】佐渡に横たふ天の川

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 行脚 名詞。意味は「諸所と旅すること」。
2 し サ変動詞「す」の連用形。
3 面 名詞。読みは「おも」。意味は「表面」。
4 滄波 名詞。読みは「そうは」。意味は「あおい波」。
5 隔て タ行下二段動詞「隔つ」の連用形。
6 横ほり ラ行四段動詞「横ほる」の連用形。意味は「横たわる」。
7 臥したり サ行四段動詞「臥す」の連用形+存続の助動詞「たり」の終止形。意味は「臥している」。
8 険難 名詞。意味は「道などがけわしく、通るのが困難であること」。
9 隈々 名詞。意味は「すみずみ」。
10 さすがに 副詞。意味は「やはり」。
11 あざやかに ナリ活用の形容動詞「あざやかなり」の連用形。
12 る 可能の助動詞「る」の終止形。
13 むべ 副詞。意味は「なるほど」。
14 多く ク活用の形容詞「多し」の連用形。
15 出で ダ行下二段動詞「出づ」の連用形。
16 あまねく 副詞。意味は「広く・一般に」。
17 なれ ラ行四段動詞「なる」の已然形。
18 限りなき ク活用の形容詞「限りなし」の連体形。意味は「この上なく」。
19 めでたき ク活用の形容詞「めでたし」の連体形。意味は「すばらしい」。
20 に 断定の助動詞「なり」の連用形。
「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「に」の識別の解説

21 侍る ラ変動詞「侍り」の連体形。「あり」・「をり」の丁寧語。意味は「ございます」。
22 大罪・朝敵のたぐひ 名詞。重罪を犯した者や朝敵となった者たちのこと。佐渡島には、順徳上皇、日蓮、日野資朝、世阿弥などが流されている。
23 遠流せらるる 名詞+サ変動詞「す」の未然形+受身の助動詞「らる」の連体形。意味は「島流しにされる」。「らるる」の後ろに「こと」・「件」という名詞が省略されている。
24 恐ろしき シク活用の形容詞「恐ろし」の連体形。
25 聞こえ 名詞。意味は「うわさ・評判」。
26 ある ラ変動詞「あり」の連体形。
27 本意なき ク活用の形容詞「本意なし」の連体形。意味は「残念である」。
28 暫時 名詞。意味は「しばらく」。
29 旅愁 名詞。意味は「旅のうれい・旅先でのものさびしさ」。
30 いたはらん ラ行四段動詞「いたはる」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「労わろう」。
31 半天 名詞。意味は「中天・中空」。
32 冴えたる ヤ行下二段動詞「冴ゆ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。
33 ごとく 比況の助動詞「ごとし」の連用形。意味は「~のようだ」。
34 ちぎれ ラ行下二段動詞「ちぎる」の連用形。
35 そぞろに ナリ活用の形容動詞「そぞろなり」の連用形。意味は「自然に・不意に」
36 来たれ カ変動詞「来(く)」の連用形+完了の助動詞「たり」の已然形。
37 定まらず ラ行四段動詞「定まる」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。
38 墨の袂 名詞。墨染めのころものこと。
39 何ゆゑ 副詞。意味は「どうして・どのようなわけで」。
40 なく ク活用の形容詞「なし」の連用形。
41 侍る ラ変動詞「侍り」の連体形。「あり」・「をり」の丁寧語。係助詞「なん」に呼応している。
42 や 間投助詞。俳諧に用いられる切れ字。

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現代語訳

 北陸道に旅をして、越後国の出雲崎という所に泊まる。あの佐渡島は、ここの海面から十八里の所にあり、青い波を隔てて、東西三十五里にわたって、横たわり臥している。(ここから島の)峰の険しさや谷のすみずみまで、やはり手に取るように鮮やかに見渡される。なるほど、この島は、黄金がたくさん産出されて、広く世の宝となるので、この上なくすばらしい島であるのに、重罪を犯した者や朝敵となった者たちが島流しにされた件により、ただ恐ろしい島だという評判があり、残念なことだと思って、窓を押し開いて、しばらく旅のうれいを労わろうとすると、太陽はすでに海に沈んで、月もほの暗く、魂が削られるようで、はらわたがちぎれるような感じがして、不意に悲しみがわいてきたので、旅先の枕も定まらず(寝られず)、墨染めの衣も、どうしてともいうこともなく、涙で袖が絞られるようで、ありました。
 夜に音をとどろかせる荒海と、悲しい歴史がある佐渡島と、その上に横たわる美しい天の川よ。
  
  
いかがでしたでしょうか。
芭蕉の紀行文はよく推敲して
書かれていますから、
旅先の情景が想像しやすく
心に響くものがあります。
  
  
  
  
  
ありがとうございました。
出雲崎、いいところですね。
これから行くの楽しみです。
  
  
  
  
そうですか。
では、気をつけて
行ってきてください。
  
  
  
  
はーい。
じゃあ、
猫置いていきますね。
さようなら。
  
  
  
  
  
  
  
  
  
  
・・・・。
  
  
  
  
  
  
【樹下石上作北尾政美画『人間万事西行猫』(寛政二年刊)を参考に挿入画を作成】

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