『十訓抄』「大江山いくのの道」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
 
 
ん?
だれか家の前に
座っているぞ…。
 
 
 
 
 
 
  あっ、すいません。
勝手に家の前で
休ませていただいて。
 
  
 
 
 
いえいえ。
全然、問題ないですよ。
 
 
  
  
  
  私、丹後の国の大江山から
来た鬼市と言います。
この辺に小式部内侍さんの
お家、知りませんか?
 
  
 
小式部内侍さんなら、
あそこの信号を左に
曲がったら、すぐですよ。
お届けものですか?
 
 
  
はい。
「乳母(うば)イーツ」です。
 
  
 
 
 
乳母(うば)イーツ!!
横に黒いバッグがあるから、
何かそんな感じがしたけど、
乳母(うば)イーツ!!
 
 
  
今、自粛ムードで、
家で食べることが
多いじゃないですか。
「乳母イーツ」、
大忙しですよ。
   
 
そうですかー。ところで、
「小式部内侍」と「大江山」
なんて、何だか
しゃれてますね。
 
 
  
ああ、『十訓抄』の
「大江山いくのの道」の
話ですよね?
地元では有名な話ですよ。
 
 
   
 
『十訓抄』だと、
「丹波へ遣はしける人」
でしたが、今回は「鬼」
でしたね。
 
 
 
  
そうですね。
「鬼」は本当にこれから
参りますからね。
面白ーい。十訓抄の話、
今、してくれませんか?
 
  
 
聞きたくなっちゃいました?
いいですよ。
休憩のなぐさみとして
お話ししましょう。
 
 
  

本文

 和泉式部【注1】、保昌が【注2】にて【注3】、丹後に下りける【注4】ほどに、京に歌合【注5】ありける【注6】に、小式部内侍【注7】、歌詠みにとられ【注8】詠みける【注9】を、定頼中納言たはぶれ【注10】て、小式部内侍、【注11】にありけるに、「丹後へ遣はしける【注12】人は参りたりや【注13】いかに【注14】心もとなく【注15】おぼすらん【注16】。」と言ひて、局の前を過ぎられける【注17】を、御簾【注18】より半ら【注19】ばかり出で【注20】て、わづかに【注21】直衣【注22】の袖をひかへ【注23】て、

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 和泉式部 人名。平安時代中期の有名な女流歌人。藤原保昌の妻。
2 妻 名詞。読みは「め」。
3 にて 格助詞。資格を表す。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

4 下りける ラ行四段動詞「下る」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「下った」。
5 歌合 名詞。和歌を詠み合って勝ち負けを決める遊びのこと。
6 ありける ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「あった」。
7 小式部内侍 人名。和泉式部の娘で、歌人。
8 とられ ラ行四段動詞「とる」の未然形+受身の助動詞「る」の連用形。意味は「選ばれる」。
9 詠みける マ行四段動詞「詠む」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「詠んだ」。
10 たはぶれ ラ行下二段動詞「たはぶる」の連用形。意味は「からかう」。
11 局 名詞。女官や女房が寝起きする部屋のこと。
12 遣はしける サ行四段動詞「遣はす」連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「おやりになった」。「遣はし」は尊敬語で、小式部内侍に対す敬意。

会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の敬意の方向(誰から誰に)の解説

13 参りたりや ラ行四段動詞「参る」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形+係助詞「や」。意味は「参りましたか」。「参り」は謙譲語で、小式部内侍に対す敬意。
14 いかに 副詞。意味は「どんなに」。
15 心もとなく ク活用の形容詞「心もとなし」の連用形。意味は「気がかりだ」。
16 おぼすらん サ行四段動詞「おぼす」の終止形+現在推量の助動詞「らん」の連体形。意味は「お思いになっているだろう」。「おぼす」は、「思ふ」の尊敬語で、小式部内侍に対す敬意。
17 過ぎられける ガ行上二段動詞「過ぐ」の連用形+尊敬の助動詞「らる」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「通り過ぎなさった」。「られ」は、定頼中納言に対する敬意。
18 御簾 名詞。部屋のすだれのこと。読みは「みす」。
19 半ら 名詞。意味は「半分」。読みは「なから」。
20 出で ダ行下二段動詞「出づ」の連用形。
21 わづかに ナリ活用の形容動詞「わづかなり」の連用形。意味は「少し」。
22 直衣 名詞。平安時代の貴族の日常服。読みは「のうし」。
23 ひかへ ハ行下二段動詞「ひかふ」の連用形。意味は「引き留める」。

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現代語訳

 和泉式部が保昌の妻として、京都から丹後に下った時に、京で歌合があったが、小式部内侍が(その歌合の)歌詠みに選ばれて和歌を詠んだのだが、定頼中納言がからかって、小式部内侍が局にいた時に、「丹後へおやりになった人は(戻って)参りましたか。どんなに気がかりでお思いになっているでしょう。」と言って、局の前を通り過ぎなさったのを、(小式部内侍は)御簾から半分ほど身を出して、少し直衣の袖を(つかんで)引き留めて、
 
  
 
  
いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・注8と10にある「れ」の違いが分かるようにしておきましょう。
(注8→受身の助動詞、注10→動詞の一部)

・注12・13・16・17の敬語表現が誰に対する敬意かと現代語訳が分かるようにしておきましょう。

(注12・13・16→小式部内侍、注17→定頼中納言)

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『十訓抄』「大江山いくのの道」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

【鳥居清長画『鬼子宝』(天明元年刊)を参考に挿入画を作成】

  
  

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