こちら扇子屋さんですか?
教える所です。
クラゲの骨の扇子、
クラゲには骨が無いから
そんな扇子はないんじゃ
ないですか?
天狗の私が言うんだから
間違いないです。
そんな話があったような
気がするなあ…。
もしかしたら、売ってる
思いますけど…。
でも、お話しましょう。
「中納言参りたまひて」本文
中納言【注1】参りたまひ【注2】て、御扇奉らせたまふ【注3】に、「隆家こそいみじき【注4】骨は得てはべれ【注5】。それを張らせ【注6】て参らせむ【注7】とするに、おぼろけ【注8】の紙はえ張るまじけれ【注9】ば、求めはべるなり【注10】。」と申したまふ【注11】。「いかやうに【注12】かある【注13】。」と問ひきこえさせたまへ【注14】ば、「すべていみじう【注15】はべり【注16】。
「中納言参りたまひて」重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 中納言 | 名詞。藤原隆家のこと。中宮定子の弟。 |
2 参りたまひ | ラ行四段動詞「参る」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連用形。意味は「参りなさる」。「参り」は謙譲語で、中宮定子に対する敬意。「たまひ」は尊敬語で、中納言隆家に対する敬意。 |
3 奉らせたまふ | サ行下二段動詞「奉らす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連体形。意味は「献上なさる」。「奉らせ」は謙譲語で、中宮定子に対する敬意。「たまふ」は尊敬語で、中納言隆家に対する敬意。 |
4 いみじき | シク活用の形容詞「いみじ」の連体形。意味は「すばらしい」。 |
5 はべれ | ラ変動詞「はべり」の已然形。意味は「ございます」。丁寧語で、話を聞いている中宮定子に対する敬意。係助詞「こそ」に呼応している。
会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
6 張らせ | ラ行四段動詞「張る」の未然形+使役の助動詞「す」の連用形。意味は「張らせる」。 |
7 参らせむ | サ行下二段動詞「参らす」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「差し上げよう」。「参らせ」は謙譲語で、中宮定子に対する敬意。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
8 おぼろげ | ナリ活用の形容動詞「おぼろげなり」の語幹。意味は「普通」。 |
9 え張るまじけれ | 副詞「え」+ラ行四段動詞「張る」の終止形+打消推量の助動詞「まじ」の已然形。意味は「張ることはできそうにない」。 |
10 求めはべるなり | マ行下二段動詞「求む」の連用形+ラ変活用の補助動詞「はべり」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「探しております」。「はべる」は丁寧語で、中宮定子に対する敬意。 |
11 申したまふ | サ行四段動詞「申す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の終止形。意味は「申し上げなさる」。「申し」は謙譲語で、中宮定子に対する敬意。「たまふ」は尊敬語で、中納言隆家に対する敬意。 |
12 いかやうに | ナリ活用の形容動詞「いかやうなり」の連用形。意味は「どのような」 |
13 ある | ラ変動詞「あり」の連体形。係助詞「か」に呼応している。 |
14 問ひきこえさせたまへ | ハ行四段動詞「問ふ」の連用形+ヤ行下二段動詞「きこゆ」の未然形+尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の已然形。意味は「お尋ね申し上げなさる」。「きこえ」は謙譲語で、中納言隆家に対する敬意。「させたまへ」は二重尊敬で、中宮定子に対する敬意。 |
15 いみじう | シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「すばらしい」。「いみじう」は「いみじく」がウ音便化している。 |
16 はべり | ラ変動詞「はべり」の終止形。意味は「ございます」。丁寧語で、中宮定子に対する敬意。 |
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「中納言参りたまひて」現代語訳
中納言隆家様が(中宮定子様の所に)参上なさって、(中宮定子様に)扇を差し上げなさる時に、「私、隆家はすばらしい骨を手に入れました。それに(紙を)張らせて差し上げようと思うのですが、普通の紙は(もったいなくて)張ることはできそうにないので、(すばらしい紙を今)探しております。」と申し上げなさる。(中宮定子様は)「(その骨は)どのようなものですか。」とお尋ね申し上げなさると、(中納言隆家は)「すべてがすばらしいものでございます。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・注9は重要表現ですので、訳せるようにしておきましょう。
・敬語表現は誰から誰に対する敬意かが分かるようにしておきましょう。
続きは以下のリンクからどうぞ。
『枕草子』「中納言参りたまひて」の現代語訳と重要な品詞の解説2
【市場通笑作鳥居清長画『珍説女天狗』(安永九年刊)を参考に挿入画を作成】