お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
しくしく…。
ん?
どうされました。
どうされました。
お嬢さん。
実は、私がお仕えしている
帝が、御病気で…。
ううう…。
ううう…。
それは、お気の毒に…。
お医者さんには
診せたのですか?
いえ。
実は私、女官になりたくて
もしなった時の練習と思い
泣いているんです。
えっ?何?架空の話?
びっくりさせないで下さいよ。
宮中に仕えている者にしては
服装がおかしいと思いましたが
服装がおかしいと思いましたが
やっぱりそうでしたかー。
お侍さん、先生ですよね?
よろしかったら、
「しるしの箱」
「しるしの箱」
ご講義して下さいませんか?
分かりました。
ご講義致しましょう。
本文
おどろか【注1】せ給へ【注2】る【注3】御目見【注4】など、日ごろの経る【注5】ままに、弱げに見え【注6】させ給ふ【注7】。
大殿籠り【注8】ぬる【注9】御気色【注10】なれ【注11】ど、我は、ただまもり【注12】参らせ【注13】て、おどろかせ給ふらむ【注14】に、皆寝入りてと思しめさ【注15】ば、もの恐ろしく【注16】ぞ思しめす、ありつる【注17】同じさまに【注18】て、ありける【注19】とも御覧ぜ【注20】られ【注21】む【注22】と思ひて、見【注23】参らすれ【注24】ば、御目弱げに【注25】て御覧じ合はせて、「いかに【注26】、かくは寝ぬ【注27】ぞ。」と仰せらるれ【注28】ば、御覧じ知るなめり【注29】と思ふも、堪へがたく【注30】あはれに【注31】て、「三位【注32】の御もとより、『前々の御心地【注33】の折も、御傍らに常に候ふ【注34】人の見参らするがよきに、よく見参らせよ。折悪しき【注35】心地を病みて参らぬ【注36】がわびしき【注37】なり【注38】。』」と申せ【注39】ど、え【注40】ぞ続けやらぬ【注41】。
大殿籠り【注8】ぬる【注9】御気色【注10】なれ【注11】ど、我は、ただまもり【注12】参らせ【注13】て、おどろかせ給ふらむ【注14】に、皆寝入りてと思しめさ【注15】ば、もの恐ろしく【注16】ぞ思しめす、ありつる【注17】同じさまに【注18】て、ありける【注19】とも御覧ぜ【注20】られ【注21】む【注22】と思ひて、見【注23】参らすれ【注24】ば、御目弱げに【注25】て御覧じ合はせて、「いかに【注26】、かくは寝ぬ【注27】ぞ。」と仰せらるれ【注28】ば、御覧じ知るなめり【注29】と思ふも、堪へがたく【注30】あはれに【注31】て、「三位【注32】の御もとより、『前々の御心地【注33】の折も、御傍らに常に候ふ【注34】人の見参らするがよきに、よく見参らせよ。折悪しき【注35】心地を病みて参らぬ【注36】がわびしき【注37】なり【注38】。』」と申せ【注39】ど、え【注40】ぞ続けやらぬ【注41】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 おどろか | カ行四段動詞「おどろく」の未然形。意味は「目を覚ます」。 |
2 せ給へ | 尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の已然形。「給へ」は尊敬語。二重尊敬。 |
3 る | 完了の助動詞「り」の連体形。 |
4 目見 | 名詞。読みは「まみ」。意味は「目もと・まなざし」。 |
5 経る | ハ行下二段動詞「経(ふ)」の連体形。 |
6 見え | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形。意味は「見える」。 |
7 させ給ふ | 尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形。「給ふ」は尊敬語。二重尊敬。 |
8 大殿籠り | ラ行四段動詞「大殿籠る」の連用形。「寝(ぬ)」の尊敬語。意味は「お休みになる」。 |
9 ぬる | 完了の助動詞「ぬ」の連体形。 |
10 気色 | 名詞。意味は「様子」。 |
11 なれ | 断定の助動詞「なり」の已然形。 |
12 まもり | ラ行四段動詞「まもる」の連用形。意味は「じっと見つめる」。 |
13 参らせ | サ行下二段活用の補助動詞「参らす」の連用形。謙譲語。意味は「~差し上げる」。 |
14 らむ | 現在の婉曲の助動詞「らむ」の連体形。意味は「~ているような」。「らむ」の後に「時」という名詞が省略されている。 |
15 思しめさ | サ行四段動詞「思しめす」の未然形。「思ふ」の尊敬語。意味は「お思いになる」。 |
16 もの恐ろしく | シク活用の形容詞「もの恐ろし」の連用形。 |
17 ありつる | 連体詞。意味「さきほどの」。 |
18 に | 断定の助動詞「なり」の連用形。
「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
19 ありける | ラ変動詞「あり」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」の連体形。 |
20 御覧ぜ | サ変動詞「御覧ず」の未然形。「見る」の尊敬語。意味は「ご覧になる」。 |
21 られ | 受身の助動詞「らる」の未然形。 |
22 む | 意志の助動詞「む」の終止形。 |
23 見 | マ行上一段動詞「見る」の連用形。 |
24 参らすれ | サ行下二段活用の補助動詞「参らす」の已然形。意味は「~差し上げる」。 |
25 弱げに | ナリ活用の活用の形容動詞「弱げなり」の連用形。 |
26 いかに | 副詞。意味は「どうして」。 |
27 寝ぬ | ナ行下二段動詞「寝(ぬ)」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。 |
28 仰せらるれ | サ行下二段動詞「仰す」の未然形+尊敬の助動詞「らる」の已然形。仰すは「言ふ」の尊敬語。意味は「おっしゃる」。 |
29 なめり | 断定の助動詞「なり」の連体形+推定の助動詞「めり」の終止形。「なるめり」が「なんめり」に撥音便化し、「ん」が表記されず、「なめり」となった。意味は「~であるようだ」。 |
30 堪へがたく | ク活用の形容詞「堪へがたし」の連用形。 |
31 あはれに | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。意味は「つらい・ふびんだ」。 |
32 三位 | 名詞。藤三位。作者・藤原長子の姉・藤原兼子のこと。堀河天皇の乳母。 |
33 心地 | 名詞。意味は「病気」。 |
34 候ふ | ハ行四段動詞「候ふ」の連体形。「仕ふ」の謙譲語。意味は「お仕えする」。 |
35 悪しき | シク活用の形容詞「悪(あ)し」の連体形。 |
36 参らぬ | ラ行四段動詞「参る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。「参ら」は「行く」の謙譲語。意味は「参らない・参上しない」。 |
37 わびしき | シク活用の形容詞「わびし」の連体形。意味は「つらい」。 |
38 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
39 申せ | サ行四段動詞「申す」の已然形。「言ふ」の謙譲語。意味は「申し上げる」。 |
40 え | 副詞。下に打消表現を伴って、「~できない」と訳す。 |
41 ぬ | 打消の助動詞「ず」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。 |
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現代語訳
堀河天皇がお目覚めになられたまなざしが、日が経つにつれて、弱々しくお見えになる。
天皇はお休みになられたご様子であったが、私は、ただじっと見つめ差し上げて、(天皇が数時間後に)お目覚めになられるような時に、「周囲が眠っている」とお思いになられたら、なんとなく恐ろしいとお思いになり(気の毒であるので)、(私が起きていて天皇に)「先ほどと同じ様子であったなあ」と御覧になっていただこうと思って、観察差し上げていたところ、天皇は目を弱々しく明け、私の目を御覧になって、「どうしてこのように寝ないでいるのか。」とおっしゃるので、天皇は私の気持ちをご承知であるようだと思ってしまうのも、耐えられないほどつらいことであり、「姉の三位の所から、『前々の御病気の時も、お側で常にお仕えする人が観察差し上げることが良いので、よく観察差し上げよ。時期が悪い病気にかかって、参上できないのが、とてもつらいです。』・・・(と申しておりました)。」と申し上げるが、最後まで言い続けることができない。
天皇はお休みになられたご様子であったが、私は、ただじっと見つめ差し上げて、(天皇が数時間後に)お目覚めになられるような時に、「周囲が眠っている」とお思いになられたら、なんとなく恐ろしいとお思いになり(気の毒であるので)、(私が起きていて天皇に)「先ほどと同じ様子であったなあ」と御覧になっていただこうと思って、観察差し上げていたところ、天皇は目を弱々しく明け、私の目を御覧になって、「どうしてこのように寝ないでいるのか。」とおっしゃるので、天皇は私の気持ちをご承知であるようだと思ってしまうのも、耐えられないほどつらいことであり、「姉の三位の所から、『前々の御病気の時も、お側で常にお仕えする人が観察差し上げることが良いので、よく観察差し上げよ。時期が悪い病気にかかって、参上できないのが、とてもつらいです。』・・・(と申しておりました)。」と申し上げるが、最後まで言い続けることができない。
いかがでしたでしょうか。
敬語表現がたくさんありますが、基本的に作者から堀河天皇に対する敬意です。ただ、二重カギ括弧が付いている部分の敬語表現は、姉の三位から帝に対する敬意ですので、覚えておきましょう。
また、助動詞の「らる」が後半の文章にかけても頻繁に登場しますが、注21の「られ」だけは受身の助動詞ですので、注意しておきましょう。
また、注36「参ら」は、他の「参ら」とは異なり、本動詞ですので、注意しておきましょう。
続きは以下のリンクからどうぞ。
『讃岐典侍日記』「しるしの箱」の現代語訳と重要な品詞の解説2
【山東京伝作栄松斎長喜画『五人切西瓜斬売』(文化元年刊)を参考に挿入画を作成】