『忍音(しのびね)物語』「偽りの別れ」の現代語訳と重要な品詞の解説4

では、続きを見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『忍音(しのびね)物語』「偽りの別れ」の現代語訳と重要な品詞の解説3

本文 

 馬道まで姫君送り給ふ【注1】に、心強くは出で給へども、これを限り【注2】おぼせ【注3】ば、有明月くまなき【注4】に、立ちとどまり、「暮れはとく【注5】御迎ひに参らん【注6】よ。」とて、御顔をつくづくと見給へば、いみじう【注7】泣きはれたる【注8】御顔の、いよいよ光るやうに【注9】白くうつくしければ、御髪をかきやり【注10】て、「かくもの思は【注11】奉るべき【注12】身となりけん【注13】宿世こそ心憂けれ【注14】いかなる【注15】昔の契り【注16】にて、身もいたづらに【注17】なりぬる【注18】。」などかきくどき【注19】つつ、出で給ふ。
 涙にくれて、さらに【注20】いづくへ行くともおぼえ給はず【注21】。姫君は、この暮れにはとおぼして待ち給ひける、御心のうちぞはかなかりける【注22】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 給ふ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連体形。尊敬語。
2 限り 名詞。意味は「最後」。
3 おぼせ サ行四段動詞「おぼす」の已然形。「思ふ」の尊敬語。
4 くまなき ク活用の形容詞「くまなし」の連体形。意味は「見えないところがない」。
5 とく ク活用の形容詞「とし」の連用形。意味は「はやく」。
6 参らん ラ行四段動詞「参る」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「参ろう」。
7 いみじう シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。ウ音便。意味は「たいそう」。
8 泣きはれたる ラ行下二段動詞「泣きはる」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「泣いて腫れている」。
9 やうに 比況の助動詞「やうなり」の連用形。意味は「~のようだ」。
10 かきやり ラ行四段動詞「かきやる」の連用形。意味は「手で払いのける」。
11 せ 使役の助動詞「す」の連用形。意味は「~せる」。
12 奉るべき ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の終止形+義務の助動詞「べし」の連体形。意味は「差し上げなければならない」。
13 けん 過去の婉曲の助動詞「けん」の連体形。意味は「~たような」。
14 心憂けれ ク活用の形容詞「心憂し」の已然形。意味は「つらい」。
15 いかなる ナリ活用の形容動詞「いかなり」の連体形。意味は「どのような」。
16 契り 名詞。意味は「宿縁」。
17 いたづらに ナリ活用の形容動詞「いたづらなり」の連用形。意味は「はかない」。
18 なりぬる ラ行四段動詞「なる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連体形。意味は「なってしまう」。
19 かきくどき カ行四段動詞「かきくどく」の連用形。意味は「繰り返し言う」。
20 さらに 副詞。意味は「まったく」。
21 おぼえ給はず ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の連用形+ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。
22はかなかりける ク活用の形容詞「はかなし」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「はかなかった」。

スポンサーリンク

現代語訳

 中納言は馬道まで姫君を送りなさる際、気持ちを強く持って、出なさったが、これが最後とお思いになると、有明の月が曇りなく出ている所に、立ち留まり、姫君に「夕暮れに早くお迎えに参りましょう。」と言って、姫君の御顔をじっくり見なさると、たいそう泣いて腫れているお顔が、ますます輝くように白く美しいので、姫君の髪を手で払いのけて、「このように悩ませて差し上げていなければならない身の上となった前世からの因縁がつらい。どのような前世からの宿縁によって、我が身がはかなくなってしまうのか。」などと、繰り返し言いつつ、出なさった。
 中納言は涙にあけくれて、まったくどこへ行くのかお分かりにならない。姫君は今日の夕暮れに(迎えに来る)とお思いになって、お待ちになった、心の内ははかないことであった。

いかがでしたでしょうか。
姫君をだまして、去る中納言の心のうちが非常によく分かる文章です。
『忍音物語』の中で、一番感動するシーンです。

うう、
感動して涙が出ました。
いい話でした。
ありがとうございました。

倉橋さん、待って下さい。
まだ終わってないですよ。

えっ、まだあるの?
もうお腹いっぱいです。
かんべんして下さい。

いや、まだ両親との別れが終わっておりません。
きちんと最後まで聞いてもらいますよー。

続きのページをどうぞ。

『忍音(しのびね)物語』「偽りの別れ」の現代語訳と重要な品詞の解説5

シェアする

スポンサーリンク