『宇治拾遺物語』「田舎の児、桜の散るを見て泣くこと」の現代語訳と重要な品詞の解説

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
この記事で解決できること
・高1の1学期の中間で学習する動詞の種類と活用形が分かります。
・現代語訳が分かります。
・定期試験でよく聞かれる所が分かります。
  
  
え~ん。
え~ん。
  
  
  
  
ん?
あらあら、小僧さん。
どうして泣いているんですか?
  
  
  
  
桜が散ってしまって
悲しいんです。
  
  
  
風流ですね。
桜のはかなさを
知っているなんて。
  
  
  
それだけじゃないんです。
麦の花も散って
悲しいんです。
  
  
  
  
あれ?
そんな話が、
『宇治拾遺物語』に
あったような・・・。
  
    
  
その話、
聞きたいです。
  
  
  
  
よろしい。
お話しましょう。
  
  

本文

 これも今は昔、田舎の児【注1】比叡の山【注2】登りたりける【注3】が、桜【注4】めでたく【注5】咲きたるける【注6】に、風【注7】激しく【注8】吹きける【注9】【注10】て、この児さめざめと【注11】泣きける【注12】を見て、僧【注13】やはら【注14】寄り【注15】て、「など【注16】かう【注17】泣かせ給ふぞ【注18】。この花【注19】散る【注20】惜しう【注21】おぼえさせたまふか【注22】。桜ははかなき【注23】ものにて、かく程なく【注24】うつろひさぶらふなり【注25】されども【注26】さのみ【注27】さぶらふ【注28】。」となぐさめけれ【注29】ば、「桜【注30】散らむ【注31】は、あながちに【注32】いかがせむ【注33】苦しからず【注34】。わが父【注35】作りたる【注36】麦の花散り【注37】て、実【注38】入らざらむ【注39】思ふがわびしき【注40】。」と言ひ【注41】て、さくりあげ【注42】て、「よよ。」と泣きけれ【注43】ば、うたてしやな【注44】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 の 格助詞の同格。意味は「~で」。
2 比叡の山 名詞。比叡山延暦寺のこと。
3 登りたりける ラ行四段動詞「登る」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「登っていた」。
4 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
5 めでたく ク活用の形容詞「めでたし」の連用形。意味は「見事だ・すばらしい」。
6 咲きたるける カ行四段動詞「咲く」の連用形+存続の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「咲いていた」。
7 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
8 激しく シク活用の形容詞「激し」の連用形。
9 吹きける カ行四段動詞「吹く」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「吹いた」。
10 見 マ行上一段動詞「見る」の連用形
11 さめざめと 副詞。静かに泣くさまを表す。意味は「しくしく」。
12 泣きける カ行四段動詞「泣く」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「泣いていた」。
13 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
14 やはら 副詞。意味は「そっと」。
15 寄り ラ行四段動詞「寄る」の連用形
16 など 副詞。意味は「どうして」。
17 かう 指示語。意味は「このように・こう」。「か」は「か」がウ音便化している。
18 泣かせ給ふぞ カ行四段動詞「泣く」の未然形+尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連体形+係助詞「ぞ」。意味は「泣きなさるのだ」。
19 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
20 散る ラ行四段動詞「散る」の連体形。
21 惜しう シク活用の形容詞「惜し」の連用形。「惜し」は「惜し」がウ音便化している。
22 おぼえさせたまふか ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の未然形+尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の連体形+係助詞「か」。意味は「思いなさるのか」。
23 はかなき ク活用の形容詞「はかなし」の連体形。意味は「はかない」。
24 程なく ク活用の形容詞「程なし」の連用形。意味は「すぐに・間もない」。
25 うつろひさぶらふなり ハ行四段動詞「うつろふ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「さぶらふ」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「散るのでございます」。
26 されども 接続詞。意味は「けれども・ただ」。
27 さのみ 連語。意味は「それだけ・そればかり」。
28 さぶらふ ハ行四段動詞「さぶらふ」の連体形。意味は「ございます」。
29 なぐさめけれ マ行下二段動詞「なぐさむ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「慰めた」。
30 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
31 散らむ ラ行四段動詞「散る」の未然形+婉曲の助動詞「む」の連体形。意味は「散るような」。
32 あながちに ナリ活用の形容動詞「あながちなり」の連用形。意味は「非常に・むやみに」。
33 いかがせむ 連語。意味は「どうしようもない」。
34 苦しからず シク活用の形容詞「苦し」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「つらくない」。
35 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
36 作りたる ラ行四段動詞「作る」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「作った」。
37 散り ラ行四段動詞「散る」の連用形
38 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
39 入らざらむ ラ行四段動詞「入る」の未然形+打消の助動詞「ず」の未然形+仮定の助動詞「む」の連体形。意味は「入らないのではないか」。
40 わびしき シク活用の形容詞「わびし」の連体形。意味は「つらい」。
41 言ひ ハ行四段動詞「言ふ」の連用形
42 さくりあげ ガ行下二段動詞「さくりあぐ」の連用形。意味は「しゃっくりをあげる」。
43 泣きけれ カ行四段動詞「泣く」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「泣いた」。
44 うたてしやな ク活用の形容詞「うたてし」の終止形+終助詞「やな」。意味は「情けないことだなあ」。

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現代語訳

 これも今となっては昔のことだが、田舎の稚児で比叡山延暦寺に登って(修行をして)いた子が桜が見事に咲いていた時に、風が激しく吹いていたのを見て、この稚児がしくしくと泣いていたのを(一人の僧が)見て、その僧がそっと近寄って、「どうしてこのように泣きなさるのですか。この花が散ることが名残惜しいと思いなさるのですか。桜ははかないものであって、このようにすぐに散るのでございます。けれども、それだけのことでございます。」と慰めたところ、(稚児は)「桜が散るようなことは、非常にどうしようもないことです。つらくありません。わが父が作った麦の花が散って、身が入らないのではないかと思うのがつらいのです。」と言って、しゃっくりをあげて、「よよ。」と泣いたところが、情けないことだなあ。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・上にある「重要な品詞と語句の解説」で赤く色が付いてある動詞の種類と活用形が分かるようにしておきましょう。
動詞の後ろに「て」があると、前の動詞は連用形になります。
◎動詞の後ろに過去の助動詞「けり」があると、前の動詞は連用形になります。
◎動詞の後ろに打消の助動詞「ず」があると、前の動詞は未然形になります。

・稚児が泣いた理由と僧が慰めた内容の違いが分かるようにしておきましょう。
◎稚児が泣いた理由ー故郷の父が育てている麦が不作になって生活が苦しくなると思って泣いている。
◎僧が慰めた内容ー桜が散るのが悲しくて泣いている。

・現代語訳で緑色が付いてある主語が分かるようにしておきましょう。

    
  
ありがとうございました。
勉強になりました。
  
  
  
  
それは良かった。

  

  
  
ちなみに私が
泣いてる理由は
桜と麦だけじゃ
ないんです。
  
  
  
そうですか。
他何があるんですか?
  
  
    
スイカとかぼちゃ、
ナスとほうれん草、
レタスとキャベツ、
まだまだあります。
  
  
  
・・・。
もういいです・・・。
長くなりそうなんで。
  
  

【市場通笑作『能息子内栄』(天明三年刊)を参考に挿入画を作成】

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