『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説4

  

では、「若紫との出会い」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説3

  
  

本文

 つらつき【注1】いとらうたげにて【注2】、まゆのわたりうちけぶり【注3】いはけなく【注4】かいやりたる【注5】額つき、髪ざし【注6】いみじう【注7】うつくし【注8】ねびゆかむ【注9】さまゆかしき【注10】人かなと、目とまり給ふ【注11】さるは【注12】、限りなう心を尽くし聞こゆる【注13】人に、いとよう【注14】似奉れる【注15】が、まもらるるなりけり【注16】と、思ふにも涙ぞ落つる【注17】
 尼君、髪をかきなでつつ、「けづる【注18】ことをうるさがり給へ【注19】ど、をかし【注20】の御髪や。いとはかなう【注21】ものし給ふ【注22】こそ、あはれに【注23】うしろめたけれ【注24】。かばかりになれ【注25】ば、いとかからぬ【注26】人もあるものを。故姫君【注27】は、十ばかりにて【注28】殿におくれ給ひし【注29】ほど、いみじうものは思ひ知り給へりし【注30】ぞかし【注31】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 つらつき 名詞。意味は「顔つき」。
2 らうたげにて

ナリ活用の形容動詞「らうたげなり」の連用形+接続助詞「て」。意味は「かわいらしくて」。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

3 うちけぶり ラ行四段動詞「うちけぶる」の連用形。意味は「ほんのり美しく見える」。
4 いはけなく ク活用の形容詞「いはけなし」の連用形。意味は「子供っぽい・あどけない」。
5 かいやりたる ラ行四段動詞「かいやる」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「手で払いのけた」。
6 髪ざし 名詞。意味は「髪の様子」。
7 いみじう シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。「いみじ」は「いみじ」がウ音便化している。
8 うつくし シク活用の形容詞「うつくし」の終止形。意味は「かわいい」。
9 ねびゆかむ

カ行四段動詞「ねびゆく」の未然形+婉曲の助動詞「む」の連体形。意味は「成長していくような」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

10 ゆかしき シク活用の形容詞「ゆかし」の連体形。意味は「見たい」。
11 とまり給ふ ラ行四段動詞「とまる」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形。意味は「留まりなさる」。「給ふ」は尊敬語で、光源氏に対する敬意。
12 さるは 接続詞。意味は「その上」。
13 聞こゆる ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連体形。意味は「差し上げる」。「聞こゆる」は謙譲語で、光源氏が慕った藤壺の宮に対する敬意。
14 よう ク活用の形容詞「よし」の連用形。意味は「よく」。「よ」は「よ」がウ音便化している。
15 似奉れる ナ行上一段動詞「似る」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の已然形+存続の助動詞「り」の連体形。意味は「似て差し上げている」。「奉れ」は謙譲語で、藤壺の宮に対する敬意。
16 まもらるるなりけり ラ行四段動詞「まもる」の未然形+自発の助動詞「る」の連体形+断定の助動詞「なり」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」の終止形。意味は「自然とじっと見つめるのであるのだなあ」。
17 落つる タ行上二段動詞「落つ」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。
18 けづる ラ行四段動詞「けづる」の連体形。意味は「髪を櫛でとく」。
19 うるさがり給へ ラ行四段動詞「うるさがる」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の已然形。意味は「嫌がりなさる」。「給へ」は尊敬語で、若紫に対する敬意。
20 をかし シク活用の形容詞「をかし」の終止形。意味は「すばらしい」。
21 はかなう ク活用の形容詞「はかなし」の連用形。意味は「たわいもない」。「はかな」は「はかな」がウ音便化している。
22 ものし給ふ サ変動詞「ものす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連体形。意味は「いらっしゃる」。「給ふ」は尊敬語で、若紫に対する敬意。
23 あはれに ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。意味は「しみじみとする」。
24 うしろめたけれ ク活用の形容詞「うしろめたし」の已然形。意味は「不安だ・心配だ」。係助詞「こそ」に呼応している。
25 なれ ラ行四段動詞「なる」の已然形。
26 かからぬ ラ変動詞「かかり」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「こんなでない」。
27 故姫君 名詞。尼君の娘で、若紫の母のこと。
28 にて 格助詞。意味は「~で」。
29 おくれ給ひし ラ行下二段動詞「おくる」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「先立たれなさった」。「給ふ」は尊敬語で、故姫君に対する敬意。
30 思ひ知り給へりし ラ行四段動詞「思ひ知る」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の已然形+完了の助動詞「り」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「十分理解しなさっていた」。「給へ」は尊敬語で、故姫君に対する敬意。
31 ぞかし 係助詞「ぞ」+終助詞「かし」。意味は「~であるよ」。

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現代語訳 

 (若紫の)顔つきはとてもかわいらしくて、(まだ剃り落としていない)眉のあたりがほんのり美しく見えて、子供っぽく髪を手で払いのけた額の様子や、髪の様子は、たいへんかわいい。成長していくような姿を見たい人だなあと思い、(光源氏は)目が留まりなさる。その上、この上なく心を尽くし差し上げた人(藤壺の宮)に、とてもよく似て差し上げているのが、(原因で)自然とじっと見つめるのであるのだなあと、思って涙が落ちる。
 尼君は、(若紫の)髪をかきなでては、「髪を櫛で梳ることを嫌がりなさるけれど、すばらしい御髪ですこと。(あなたが)とてもたわいなくていらっしゃるのが、しみじみと心配になります。これくらいの年になると、もうこんな(子供)でない人もあるものなのに。あなたの亡くなった母上は、十歳ぐらいでお父上に先立たれなさったとき、たいそう物事を十分理解しなさっていたのでありますよ。

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・注2・28の「にて」は識別が分かるようにしておきましょう。

・敬語表現は誰に対する敬意か分かるようにしておきましょう。
 (注11→光源氏、注13・15→藤壺の宮、注19・22→若紫、注29・30→故姫君)

・注16は重要表現がたくさんありますので、訳せるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説5

  

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