お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
さて、西友で子どものお尻拭きも買ったし、
恋川好町先生の店でお汁粉でも食べて帰るか。
(戯作者・恋川好町(鹿都部真顔)の家業は汁粉屋です)
すいませーん。
ちょっとよろしいでしょうか?
はい。
何でしょう。
つかぬことをお聞きしますが、
もしかして、良少将ではないでしょうか?
いえ。違います。
人違いですよ。
そんな~。誤魔化しても、
ばれてますよ~。もうー、
隠さないで下さいよ。
隠さないで下さいよ。
いや、隠してないです(笑)。
本当に良少将ではないですって。
しらを切ったって、
ばればれですよ。
これならどうだ。
「岩の上に旅寝をすれば」
さあ続きは何でしょう?
いや、知らないですって(笑)。
そんなマニアックな和歌の続きなんて。
えっ?あなた、
この和歌、知らないの?
この和歌、知らないの?
こんな有名な和歌。
絶対に知っておいた方が、
いいですよ。
そうです。そうです。
この和歌が収録された
お話を絶対に
知っておくべきです。
あなたたちは…!
前に私にお話を無理やり聞かせて、
お金をふんだくった人たち!
ちょっと失礼な。
我々は親切心から
行っているだけですよ。
親切の押し売りですがね。
まあ、知っといて損はないから、
聞いたらいいんじゃない?
もちろん、お金は取りますが…。
分かりました。聞きますよー。
お金はいくら取るんですか?
三百両です。
高!!!
そんなお金持ってないっすよー。
まあ、高いかどうかは、
後にしてとりあえず
聞いて下さい。
聞いて下さい。
本文
深草の帝と申しける【注1】御時、良少将【注2】といふ人、いみじき【注3】時にて【注4】ありけり【注5】。いと色好み【注6】に【注7】なむありける【注8】。世にもらうある【注9】者におぼえ【注10】、つかうまつる【注11】帝、限りなく【注12】おぼさ【注13】れ【注14】てあるほどに、この帝失せ給ひぬ【注15】。御葬りの夜、御供にみな人つかうまつりける【注16】中に、その夜より、この良少将失せにけり【注17】。
小野小町【注18】といふ人、正月に清水【注19】に詣でにけり【注20】。行ひ【注21】などして聞くに、あやしう【注22】尊き【注23】法師の声にて【注24】、読経し、陀羅尼【注25】読む。
この小野小町あやしがり【注26】て、つれなき【注27】やうに【注28】て人をやりて見せけれ【注29】ば、「蓑一つを着たる【注30】法師、腰に火打笥【注31】など結ひつけたる【注32】なむ、隅にゐたる【注33】。」と言ひけり。
小野小町【注18】といふ人、正月に清水【注19】に詣でにけり【注20】。行ひ【注21】などして聞くに、あやしう【注22】尊き【注23】法師の声にて【注24】、読経し、陀羅尼【注25】読む。
この小野小町あやしがり【注26】て、つれなき【注27】やうに【注28】て人をやりて見せけれ【注29】ば、「蓑一つを着たる【注30】法師、腰に火打笥【注31】など結ひつけたる【注32】なむ、隅にゐたる【注33】。」と言ひけり。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 申しける | サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。「申す」は「言ふ」の謙譲語。「深草の帝」に対する敬意。 |
2 良少将 | 名詞。良岑宗貞(僧正遍昭)のこと。六歌仙の一人。 |
3 いみじき | シク活用の形容詞「いみじ」の連体形。意味は「すばらしい」。 |
4 にて | 断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」。意味は「~で」。 |
5 ありけり | ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。 |
6 色好み | 名詞。意味は「恋愛を好むこと・恋愛を好む人。」 |
7 に | 断定の助動詞「なり」の連用形。
「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
8 ける | 過去の助動詞「けり」の連体形。係助詞「なむ」に呼応している。 |
9 ろうある | 連語。意味は「深い知識を持っている・風情がある」。 |
10 おぼえ | ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の連用形。意味は「思われる」。 |
11 つかうまつる | ラ行四段動詞「つかうまつる」の連体形。「仕ふ」の謙譲語。意味は「お仕え申し上げる」。「帝」に対する敬意。 |
12 限りなく | ク活用の形容詞「限りなし」の連用形。意味は「この上なくすばらしい」。 |
13 おぼさ | サ行四段動詞「おぼす」の未然形。「思ふ」の尊敬語。意味は「お思いになる」。「帝」に対する敬意。 |
14 れ | 自発の助動詞「る」の連用形。 |
15 失せ給ひぬ | サ行下二段動詞「失す」の連用形+尊敬の補助動詞「給ふ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形。意味は「お亡くなりなってしまった(崩御なさってしまった)」。「給ひ」は「この帝(深草の帝)」に対する敬意。 |
16 つかうまつりける | ラ行四段動詞「つかうまつる」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「お仕え申し上げた」。「つかうまつり」は「深草の帝」に対する敬意。 |
17 失せにけり | サ行下二段動詞「失す」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「姿を消してしまった・行方不明になってしまった」。 |
18 小野小町 | 人名。六歌仙の一人。 |
19 清水 | 名詞。清水寺のこと。 |
20 詣でにけり | ダ行下二段動詞「詣づ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「参詣していた」。 |
21 行ひ | 名詞。意味は「勤行」。 |
22 あやしう | シク活用の形容詞「あやし」の連用形。「あやしく」が「あやしう」にウ音便化している。意味は「不思議だ」。 |
23 尊き | ク活用の形容詞「尊し」の連体形。 |
24 にて | 格助詞。意味は「~で」。
「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
25 陀羅尼 | 名詞。梵語で唱える長い呪文のこと。読みは「だらに」。 |
26 あやしがり | ラ行四段動詞「あやしがる」の連用形。意味は「不思議に思う」。 |
27 つれなき | ク活用の形容詞「つれなし」の連体形。意味は「関心がない・さりげない」。 |
28 やうに | 様子の助動詞「やうなり」の連用形。意味は「~様子だ」。 |
29 見せけれ | サ行下二段動詞「見す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「見させた」。 |
30 着たる | カ行上一段動詞「着る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「着ている」。 |
31 火打笥 | 名詞。火打ち石などを入れる箱のこと。読みは「ひうちげ」。 |
32 結ひつけたる | カ行下二段動詞「結ひつく」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「結びつけている」。 |
33 ゐたる | ワ行上一段動詞「ゐる」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「座っている」。「たる」は係助詞「なむ」に呼応している。 |
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現代語訳
深草の帝と申し上げた御方の御代に、良少将という人がすばらしい時であった。(良少将は)とても恋愛を好む人であった。世間でも深い教養の持ち主と思われ、お仕え申し上げる帝も、この上なくすばらしいとお思いになっていたころに、この帝が崩御なさってしまった。ご葬儀の夜、御供にすべての人がお仕え申し上げていた中で、その夜から、良少将は姿を消してしまった。
小野小町という人が正月に清水寺に参詣していた。勤行などをして聞いていると、不思議なほど尊い法師の声で、読経し、陀羅尼読んでいる(人がいる)。
小野小町は不思議に思って、さりげない様子で、人を遣わして見させたところ、「蓑一枚を着ている法師が、腰に火打ち箱を結びつけていて、隅に座っています。」と報告した。
小野小町という人が正月に清水寺に参詣していた。勤行などをして聞いていると、不思議なほど尊い法師の声で、読経し、陀羅尼読んでいる(人がいる)。
小野小町は不思議に思って、さりげない様子で、人を遣わして見させたところ、「蓑一枚を着ている法師が、腰に火打ち箱を結びつけていて、隅に座っています。」と報告した。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・「注15」と「注17」の「失せ」の意味の違いが分かるようにしておきましょう(「注15」の「失せ」は「死ぬ」という意味で、「注17」の「失せ」は「姿を消す」という意味です)。
・「注4」・「注7」・「注17」・「注24」・「注28」にある「に」の識別ができるようにしておきましょう。
続きは以下のリンクからどうぞ。
【芝全交作歌川豊国(初代)画『百人一首戯講釈』(寛政六年刊)を参考に挿入画を作成】