では、両親との息子との別れの場面を見てみましょう。
前回の解説はこちら。
『忍音(しのびね)物語』「偽りの別れ」の現代語訳と重要な品詞の解説4
本文
中納言、殿【注1】へ参り【注2】給へ【注3】ば、いつよりもはなやかに【注4】ひきつくろひ【注5】給へる【注6】を、殿・母上は、いとうつくし【注7】とおぼしたり【注8】。親たちに見え奉らん【注9】も、ただ今ばかりぞかし【注10】、もの思はせ【注11】奉らんこと【注12】の【注13】罪深く、いと恐ろしけれ【注14】ど、まことの道【注15】に入りな【注16】ば、つひには助け奉らん【注17】と、心強くおぼし【注18】返す。
若君の、何心なく走りありき給ふぞ、目もくれてかなしくおぼさるる【注19】。わが方へおはし【注20】て、御身のしたためよくして、姫君の御方への文【注21】書き給ふに、涙のこぼれ出でて、文字も見えず【注22】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 殿 | 名詞。中納言の父の内大臣のこと。 |
2 参り | ラ行四段動詞「参る」の連用形。「行く」の謙譲語。 |
3 給へ | ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の已然形。尊敬語。 |
4 はなやかに | ナリ活用の形容動詞「はなやかなり」の連用形。 |
5 ひきつくろひ | ハ行四段動詞「ひきつくろふ」の連用形。意味は「身なりを整える」。 |
6 る | 存続の助動詞「り」の連体形。 |
7 うつくし | シク活用の形容詞「うつくし」の終止形。 |
8 おぼしたり | サ行四段動詞「おぼす」の連用形+存続の助動詞「たり」の終止形。意味は「お思いになっている」。 |
9 見え奉らん | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「お目にかけ差し上げるような」。「ん」の後ろに「こと」という名詞が省略されている。 「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
10 かし | 終助詞。念を押し意味を強める。意味は「~よ。・~ね。」。 |
11 せ | 使役の助動詞「す」の連用形。意味は「~させる」。 |
12 奉らんこと | ラ行四段動詞「奉る」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形+名詞「こと」。意味は「差し上げるようなこと」。 |
13 の |
格助詞の主格。意味は「~が」。 |
14 恐ろしけれ | シク活用の形容詞「恐ろし」の已然形。 |
15 まことの道 | 名詞。仏道のこと。 |
16 な | 強意(確述)の助動詞「ぬ」の未然形。 |
17 奉らん | ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の未然形+推量の助動詞「ん」の終止形。意味は「差し上げよう」。 |
18 おぼし | サ行四段動詞「おぼす」の連用形。「思ふ」の尊敬語。 |
19 おぼさるる | サ行四段動詞「おぼす」の未然形+自発の助動詞「る」の連体形。 |
20 おはし | サ変動詞「おはす」の連用形。「居る」の尊敬語。意味は「いらっしゃる」。 |
21 文 | 名詞。手紙のこと。 |
22 見えず | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。 |
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現代語訳
息子の若君が、無心で走り廻りなさるのを(見て)、涙で目が暗くなり、悲しくお思いなさる。中納言は自分の部屋にいらっしゃって、出家の準備をして、姫君はの手紙を書きなさるが、涙がこぼれ出て、文字も見えない。
いかがでしたでしょうか。
中納言、両親、息子が登場し、そのすべてに敬語表現が使われているため、一見誰に対する敬意かが判断しにくいかもしれません。しかし、この場面で出てくる謙譲語は、すべて両親に対する敬意ですので、謙譲語の判断はそれほど難しくありません。また、尊敬語に関しても、両親と息子に対する敬語表現は、その文の冒頭に「殿・母上は」や「若君の」というように主語がきちんと書いてありますので、こちらもそれほど難しくありません。敬語表現はきちんと主語と動作を確認すれば、だれに対する敬意かが分かりますので、よく文章を読みましょう。
いやー。
長かったですねー。
でも、感動しました。
次は、家を出るシーンですか?
いや、もうここで私の話は終わりです。
興味がおありなら、図書館で本を借りて続きを読んでください。
ええーー。
続き話してくれないの?
ひどいなあー、
ここまで時間使わせといて。
えっ、そうですか?
どうしてもというなら、お金取りますがよろしいですか?
ええーーー。
お金取るのー。
いい商売だなあ。
勉強になりました…。