助詞「の」の識別の解説

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。

  

お助け~。
倉橋先生、助けて下さい。

  
  

  

あら、お隣の酒屋さん、
どうしたんですか?

  
  

  

待ちなさーい。
馬鹿者~。

  
  

  

ん?
擂り粉木を持っている…。
夫婦喧嘩かな?

  

※江戸時代の夫婦喧嘩は、擂り粉木を持つことが定番です。

  

  

お助け~。

  
  

  

向かいの儒学者さん。
あなたも夫婦喧嘩ですか?

  
  

  

待て~。こ馬鹿亭主~。
私が追いかけている間に、
倉橋先生、「の」の識別の
解説、お願いしまーす。

  

  

斧持ってる~。
わっ、わかりました。

助詞の「の」の解説します。

  
  
  

入試でよく出る助詞の識別

格助詞「の」の種類の解説(全5種類)

格助詞「の」の種類は、全部で5種類あります。重要度は星の色の数で表示しています。

  
①連体修飾格―「~の」と訳す ★☆☆☆☆
②主格―「~が」と訳す ★★★★★
③体言の代用―「~のもの」・「~のこと」と訳す ★★☆☆☆
④同格―「~で」と訳す ★★★★
⑤連用修飾格―「~のように」と訳す ★★☆☆☆

 

詳しく解説します。

①連体修飾格の解説

まず、一番簡単な連体修飾格から確認していきましょう。

連体修飾格とは、所有や所属、所在や作者などを表す時に用いられる「の」のことです。

例文を見てみましょう。

  

○所有の「の」
馬の口【『平家物語』「木曾最期」】
(主人馬の口)

○所属の「の」
仁和寺法師【『徒然草』第五十三段】
(仁和寺法師)

○所在の「の」
津の国難波の春は【『新古今和歌集』六二五】
(摂津の国難波の春は)

○作者の「の」
俊成返歌に【『正徹物語』】
(俊成返歌に)

  

上記で赤色が付いているところが、連体修飾格の「の」です。普通に「~の」と訳すもので、格助詞の5種類のうち、文章中に一番登場する回数が多い「の」です。普通に「~の」と訳すので、大学入試では、あまり問われません。

  

②主格の解説

主格とは、主語を示す格のことで、「の」の前の言葉が主語になります「~が」と訳し、大学入試の「の」の識別で、同格と同じくらい出題されます。
  

例文を見てみましょう。

  

○僧、「もの申しさぶらはむ。おどろかせたまへ。」と言ふを【『宇治拾遺物語』巻一「児のかい餅するに空寝したる事」】
(僧、「もしもし、目を覚ましなさって下さい。」と言うのを)

○ひととせ、入道殿、大井川に逍遥せさせ給ひしに【『大鏡』「太政大臣頼忠」】
(ある年、藤原道長殿、大井川で舟遊びをなさった時に)

〇雨降るやうに射けれども【『平家物語』「木曾の最期」】
(雨降るように射たが)

  

上記で赤色が付いているところが、主格の「の」です。「の」の前に「僧」、「入道殿」、「雨」という主語があります。

③体言の代用の解説

体言の代用とは、「~の」と訳す連体修飾格と似ていて、少しややこしいのですが、「の」の後に、「こと」や「もの」という言葉(体言)が省略されていて、それを一緒に補って「~のこと」や「~のもの」と訳すものです。
  

例文を見てみましょう。

  

○草の花はなでしこ。唐(から)はさらなり、大和(やまと)もいとめでたし。【『枕草子』六十七)

(草の花は、なでしこがよい。中国のものは言うまでもなく、日本のものもとてもすばらしい。)

  

上記で赤色が付いているところが、体言の代用の「の」です。「の」の後に「もの」という言葉が省略されているので、それも一緒に補って訳します。

  

④同格の解説

同格とは、「の」の前後の文章が、同じ人物やものなどについて述べたものであり、それを繋げるために「~で」と訳します。
  

例文を見てみましょう。

  

○白き鳥、嘴(はし)と脚と赤き、鴫(しぎ)の大きさなる、水のうへに遊びつつ魚を食ふ【『伊勢物語』九】

(白い鳥、嘴と脚が赤く、鴫ぐらいの大きさであるものが、水の上で遊びながら魚を食べている)

○いと清げなる僧黄なる地の袈裟(けさ)を着たるが来て【『更級日記』「物語」】

(とても高潔そうな僧、黄色地の袈裟を着ているが来て)

〇石打ちの矢、その日のいくさに射て少々残つたるを【『平家物語』「木曾の最期」】
(石打ちの矢で、その日の戦いで射て少々残っているものを)

  

上記で赤色が付いているところが、同格の「の」です。「の」の前後の文章は、同じ人や物について説明していて、『伊勢物語』の例文は、同じ鳥について述べています。『更級日記』の例文は、同じ僧について述べており、『平家物語』の例文は同じ矢について述べています。「の」の前後をつなげるため「~で」と訳します。

  

同格はもう一つ見分け方がありまして、「の」の後ろの文章の末尾が連体形になるという特徴があります。

  

『伊勢物語』の例文では、傍線の「なる」が、断定の助動詞「なり」の連体形となっており、『更級日記』の例文と『平家物語』の例文では、傍線の「たる」が、存続の助動詞「たり」の連体形となっています。

  

これは、連体形になった言葉の後に「人」や「もの」などという言葉が省略されているため連体形になっています。そのため、上の訳では「もの」と「人」という言葉を補っています。

  

同格の「の」は入試問題でよく出題されますので、「の」の識別の問題が出ましたら、まず「の」の直後の文章を見て連体形になっていないかを確認することから始めるとよいでしょう。

  

⑤連用修飾格の解説

連用修飾格とは、「~のように」と訳し、比喩を表すもののことです。
  

例文を見てみましょう。

○あしびきの 山鳥の尾の しだり尾
ながながし夜を ひとりかも寝む【柿本人麻呂「拾遺和歌集」恋・七七八)
【山鳥の垂れ下がった長い尾のように、長い秋の夜を私は一人でさびしく寝るのであろうか】
  

上記で赤色が付いているところが、連用修飾格の「の」です。百人一首の有名な和歌ですが、上の句の一番最後の「の」は、秋の夜の長さが山鳥の尾のように長いという比喩を表しています。

まとめ

  

格助詞の「の」の意味は、全部で5種類あるのですが、入試で問われる多くが、主格同格です。「~が」と訳せるか、「~で」と訳せるか、「の」の後ろの文章に連体形の言葉がないかということに注意をし、主格と同格が当てはまらないようでしたら、連用修飾格(~のように)、体言の代用(~のこと・~のもの)を当てはめて考えてみましょう。連体修飾格は、選択肢の中には、出てきますが、傍線が引かれて問題になることはほとんどありません。

実際に大学入試で出題された問題を用いた練習問題を用意しましたので、よろしかったら、そちらもご参照下さい。

  

助詞「の」の練習問題の頁(ページ)

  

【山東京伝作北尾重政画『虚生実草紙』(寛政九年刊)を参考に挿入画を作成】

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