『義経記』「静の白拍子」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
  
  
さて、次回の講義の予習でもするか。
  
  
  
  
  
倉橋さん、次回は
『義経記』をやるんですよね?
私たちのことについて、
講義してくれるのですよね?
  
  
  
  
えっ?
私たちのこと?
  
  
  
  
  
とぼけないで下さい。
義経と静御前の話ですから、
私たち二人のことですよねー。
  
  
  
いやいや。
あなたたち、義経と静御前
じゃないでしょ(笑)。
艶二郎さんと浮名さんでしょ?
お鼻が京伝鼻ですし。
  
  
※艶二郎と浮名は山東京伝の黄表紙『江戸生艶気樺焼』の登場人物で、「京伝鼻」は艶二郎の特徴的な鼻のことです。
  
  
いやいや。私たちは
本物の義経と静御前ですよ。
本人が言うんだから絶対です!
目が悪いんですよ。倉橋さん。
さっさと講義始めて下さい!!
  
  
  
分かりました。
そういうことにしておきます。
えっ?講義もするんですか?
しょうがないなあー。
やりますよ。
  
  

本文

 【注1】その日は、白拍子【注2】多く知りたれ【注3】ども、ことに【注4】心に染むものなれ【注5】ば、しんむじやうの曲といふ白拍子の上手なりけれ【注6】ば、心も及ば【注7】声色にて、はたと【注8】上げ【注9】てぞ歌ひける【注10】。上下「あつ。」と感ずる【注11】声、雲に響くばかりなり【注12】。近くは聞きて感じけり。声も聞こえぬ【注13】上の山までも、さこそあるらめ【注14】とて感じける。
しんむじやうの曲、半らばかり数へたりける【注15】ところに、祐経心なし【注16】とや思ひけん【注17】、水干の袖を外して、せめ【注18】をぞ打ちたりける【注19】。静、「君が代の。」と上げたりけれ【注20】ば、人々これを聞きて、「情けなき祐経かな【注21】。いま一折【注22】舞はせよ【注23】かし【注24】。」とぞ申しける【注25】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 静 名詞。源義経の愛妾。京都の白拍子。
2 白拍子 名詞。平安末期から鎌倉時代にかけて流行した歌舞。
3 たれ 存続の助動詞「たり」の已然形。意味は「~している」。
4 ことに 副詞。意味は「特に」。
5 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。意味は「~である」。
6 なりけれ 断定の助動詞「なり」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
7 ぬ 打消の助動詞「ず」の連体形。
8 はたと 副詞。意味は「突然・急に」。
9 上げ ガ行下二段動詞「上ぐ」の連用形。
10 ける 過去の助動詞「けり」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。
係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの法則の解説

11 感ずる サ変動詞「感ず」の連体形。意味は「深く心にしみる・感心する」。
12 なり 断定の助動詞「なり」の終止形。
13 聞こえぬ ヤ行下二段動詞「聞ゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「聞こえない」。
14 あるらめ ラ変動詞「あり」の連体形+現在推量の助動詞「らむ」の已然形。「らめ」は係助詞の「こそ」に呼応している。意味は「あるだろう」。
15 数へたりける ハ行下二段動詞「数ふ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「歌っていた」。
16 心なし ク活用の形容詞「心なし」の終止形。意味は「思慮がない」。
17 けん 過去推量の助動詞「けん」の連体形。係助詞の「や」に呼応している。意味は「~ただろう」。
18 せめ 名詞。音楽や舞踊で、終曲近くで、高声で急調子になる部分のこと。
19 打ちたりける タ行四段動詞「打つ」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「ける」の連体形。「ける」は係助詞の「ぞ」に呼応している。
20 上げたりけれ ガ行上二段動詞「上ぐ」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けれ」の已然形。意味は「終わりにしてしまった」。
21 かな 終助詞。詠嘆の意味を添える。意味は「~だなあ・~であることよ」。
22 一折 名詞。舞や曲の一区切り。
23 せよ 使役の助動詞「す」の命令形。意味は「~させる」。
24 かし 終助詞。念を押し意味を強める。意味は「~よ。・~ね。」。
25 申しける サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。「ける」は係助詞の「ぞ」に呼応している。

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現代語訳

 静はその日、白拍子(の曲)をたくさん知ってはいたけれど、特に気に入った曲であり、しんむじょうという曲の白拍子の上手な舞い手でもあったので、(その曲を)想像に及ばないすばらしい声音で、突然声を張りあげて歌った。(その場にいた)身分の高い・低い人々の「あっ」と感心する声は、雲まで響くぐらいであった。近くの者は実際に間近に聞いて感心した。(また、)声が聞こえない上の山の人までも、さぞすばらしい声であるだろうと思い、感心した。
静が、しんむじょうの曲を、半分ぐらい歌っていたところに、(鼓を打っていた)工藤祐経が(しんむじょうの曲がその場に)配慮が足りないと思ったのであろうか、水干の袖を外して、曲の最後のせめを打った。静も、「君が代の(長く続くように)。」と歌い終えてしまったので、人々はこれを聞いて、「情けない祐経であることよ。もう一折(静に)舞わせるようにしろよ。」と申し上げた。
  
  
いかがでしたでしょうか。
前半は敬語表現や和歌の解釈などがないため、それほど難しくありません。
続きのページは以下のリンクから参照してください。
  
  
  
  
【山東京伝作画『江戸生艶気樺焼』(天明五年刊)を参考に挿入画を作成】

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