『義経記』「静の白拍子」の現代語訳と重要な品詞の解説2

では、続きを見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『義経記』「静の白拍子」の現代語訳と重要な品詞の解説1

  

本文

詮ずるところ【注1】、敵の前の舞ぞかし。思ふことを歌はばや【注2】。」と思ひて、
しづやしづ【注3】賤のをだまき【注4】繰り返し昔を今になすよし【注5】もがな【注6】
吉野山嶺の白雪踏み分けて【注7】入りにし【注8】人の跡ぞ恋しき【注9】
と歌ひたりけれ【注10】ば、鎌倉殿【注11】、御簾をさつと下ろしたまひけり【注12】
鎌倉殿、「白拍子は興醒め【注13】たる【注14】もの【注15】ありけるや【注16】。舞の舞ひやう、謡の歌ひやう怪しからず【注17】。頼朝田舎人なれ【注18】ば、聞き知ら【注19】とて歌ひたる【注20】か。『賤のをだまき繰り返し』とは、頼朝が世尽き【注21】て、九郎【注22】が世になれ【注23】とや。あはれ【注24】おほけなく【注25】思ひたる【注26】ものかな【注27】。『吉野山嶺の白雪踏み分けて入りにし人の』とは、例へば頼朝九郎を攻め落とすといへども、いまだありとごさんなれ【注28】。あ憎し憎し【注29】。」とぞ仰せられ【注30】ける【注31】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 詮ずるところ 副詞。意味は「つきつめて考えてみると・結局」。
2 ばや 終助詞。願望を表わす。意味は「~したいものだ」。
願望の終助詞「ばや」については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の重要な終助詞の解説

3 しづやしづ 「しづ」は「静」の名前と麻織物の「しづ」をかけたもの。「や」は間投助詞。意味は「~よ」。
4 賤のをだまき 『伊勢物語』第32段にある和歌「いにしへのしづのをだまき繰り返し昔を今になすよしもがな」を引用したもの。「をだまき」は麻を円形に巻いたもの。
5 よし 名詞。意味は「方法」。
6 もがな 終助詞。願望を表わす。意味は「~あればいいのになあ」。

願望の終助詞「もがな」については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の重要な終助詞の解説

7 白雪踏み分けて 『古今和歌集』327番「み吉野の山の白雪踏みわけて入りにし人のおとづれもせぬ」を踏まえる。
8 にし 完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。
9 恋しき シク活用の形容詞「恋し」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。
10 たりけれ 完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
11 鎌倉殿 名詞。源頼朝のこと。
12 たまひけり ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「~なさった」。
13 興醒め マ行下二段動詞「興醒む」の連用形。意味は「面白みがなくなる・興ざめる」。
14 たる 完了の助動詞「たり」の連体形。
15 に 断定の助動詞「なり」の連用形。
「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「に」の識別の解説

16 ありけるや ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形+間投助詞の「や」。
17 怪しからず シク活用の形容詞「怪し」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「不適当である・ふとどきだ」。
18 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
19 じ 打消推量の助動詞「じ」の終止形。意味は「~ないだろう」。
20 たる 完了の助動詞「たり」の連体形。
21 尽き カ行上二段動詞「尽く」の連用形。
22 九郎 源義経のこと。
23 なれ ラ行四段動詞「なる」の命令形。
24 あはれ 感動詞。意味は「ああ・本当に」。
25 おほけなく ク活用の形容詞「おほけなし」の連用形。意味は「さしでがましい・身の程知らずである」。
26 たる 完了の助動詞「たり」の連体形。
27 かな 終助詞。詠嘆を表わす。
28 ごさんなれ 連語。「にこそあるなれ」の音変化。意味は「~であるようだな」。
29 憎し ク活用の形容詞「憎し」の終止形。
30 仰せられ ラ行下二段動詞「仰せらる」の連用形。「言ふ」の尊敬語。意味は「おっしゃる」。
31 ける 過去の助動詞「けり」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。

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現代語訳

 静は「結局、敵の前での舞いであるのだ。(それなら)思っていることを歌いたいものだ。」と思って、
「静よ、静。」としず織りのおだまきのように繰り返し私の名を呼んでくださったあの昔を、今に取り戻す方法があればいいのになあ。
吉野山の峰の白雪を踏み分けながら山中深く入ってしまった、あの人の跡が恋しく思われます。
と歌ったので、頼朝殿は(気分を悪くして)御簾をさっと下ろしなさった。
頼朝殿は、「白拍子とは、面白みがなかったものであった。舞いの舞い方、謡の歌い方は(どちらも)不適当である。この頼朝が田舎者であるので、(歌の意味が)聞いてもわからないだろうと思って歌ったのか。『賤のをだまき繰り返し』とは、頼朝の世が終わって、義経の世になれと言っているのか。本当に身の程も知らずなことを考えたものだ。『吉野山嶺の白雪踏み分けて入りにし人の』とは、仮に頼朝が義経を攻め落としたと言っても、まだどこかにいるということであるようだな。ああ、憎い、憎い。」とおっしゃった。

  

いかがでしたでしょうか。
注18の「なれ」と注23の「なれ」は、同じ「なれ」ですが、品詞が異なりますので、注意しておいて下さい。よく聞かれます。
敬語表現に関しては、まだ「仰せられ」しか登場していませんので、難しくないと思います。
続きは以下のページをご参照ください。

  

『義経記』「静の白拍子」の現代語訳と重要な品詞の解説3

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