では、「駿河路」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
本文
なほざりに【注10】見る夢ばかりかり枕結びおきつ【注11】と人に語るな【注12】
暮れかかるほど、清見が関を過ぐ【注13】。岩越す波の【注14】、白き衣をうち着するやうに【注15】見ゆるもをかし。
清見潟年経る【注16】岩にこと問はむ【注17】波のぬれぎぬ【注18】幾重ね着つ【注19】
ほどなく暮れ【注20】て、そのわたりの海近き里にとどまりぬ【注21】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 とかや | 格助詞「と」+係助詞「や」+間投助詞「や」。意味は「~とかいう」。 |
2 「なくなく出でしあとの月影」 | 『新古今和歌集』羈旅 934番 藤原定家の和歌「こと問へよ思ひおきつの浜千鳥なくなく出でしあとの月影」の引用。 |
3 思ひ出でらる | ダ行下二段動詞「思ひ出づ」の未然形+自発の助動詞「らる」の終止形。 |
4 たる | 完了の助動詞「たり」の連体形。 |
5 あやしき | シク活用の形容詞「あやし」の連体形。意味は「粗末だ」。 |
6 苦しけれ | シク活用の形容詞「苦し」の已然形。 |
7 たる | 存続の助動詞「たり」の連体形。 |
8 見ゆれ | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の已然形。意味は「見える」。 |
9 つ | 完了の助動詞「つ」の終止形。 |
10 なほざりに | ナリ活用の形容動詞「なほざりなり」の連用形。意味は「かりそめに」。 |
11 結びおきつ | カ行四段動詞「結びおく」の連用形+完了の助動詞「つ」の終止形。「おきつ」は「興津」と「置きつ」との掛詞。 |
12 な | 終助詞。禁止を表す。意味は「~するな」。 |
13 過ぐ | ガ行上二段動詞「過ぐ」の終止形。 |
14 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
15 やうに | 比況の助動詞「やうなり」の連用形。意味は「~のように」。 |
16 経る | ハ行下二段動詞「経(ふ)」の連体形。 |
17 こと問はむ | ハ行四段動詞「こと問ふ」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「尋ねてみよう」。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
18 ぬれぎぬ | 名詞。「濡れ衣」と「ぬれぎぬ(無実の罪の事)」の掛詞。 |
19 着つ | カ行上一段動詞「着る」の連用形+完了の助動詞「つ」の終止形。「着」は「ぎぬ(衣)」の縁語。また、前にある「重ね」も「ぎぬ(衣)」の縁語。 |
20 暮れ | ラ行下二段動詞「暮る」の連用形。 |
21 ぬ | 完了の助動詞「ぬ」の終止形。 |
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現代語訳
二十六日、藁科川とかいうところを渡って、興津の浜に出る。藤原定家の「こと問へよ思ひおきつの浜千鳥なくなく出でしあとの月影」の和歌がまず、思い出される。
昼に、立ち寄った所に、粗末な黄楊の枕があった。とても疲れていたので、横になっている時に、硯が見えたので、枕元の障子に、横になりながら和歌を書き付けた。
かりそめに夢見るだけと枕を借りるが、誰かを契りを結んだ(などという変な噂を)人に語らないでくれ。
暮れかかる時に、清見が関を過ぎる。岩を越す波が、白い衣を着せるように見えるのも趣がある。
清見潟の年を経た岩に尋ねてみよう。波のぬれた衣を幾つ重ねて着たかを。
まもなく日が暮れて、そのあたりの海に近い里に泊まった。
いかがでしたでしょうか。
和歌が二首、詠まれていますが、両方とも掛詞がありますので、きちんと覚えておきましょう。
この場面はなかなか技巧を凝らしています。
藤原定家の和歌「こと問へよ思ひおきつの浜千鳥なくなく出でしあとの月影」の文言を、「清見潟年経る岩にこと問はむ」で用いています。やはり紀行文は、歌枕と先人が詠んだ和歌との兼ね合いが腕の見せ所だと思われます。
文章自体は難しくありませんので、和歌の意味と技巧をきちんと理解しておくのがよいでしょう。
ありがとうございました。
作者の「阿仏尼」の和歌の
すばらしさがよくわかりました。
では、私はこれにて失礼。
待ちなさい。
あなたは、私と一緒に鎌倉に行くんですよ。
踊り念仏を唱えながら…。
えっ?
それはちょっと
勘弁して下さい。
あなた、『スラムダンク』好きでしょ?
オープニングで登場する踏切、
鎌倉にあるわよー。
見たくない?
それはちょっと見たいような…。
分かりました。行きます!
準備するんで、先、進んでいてください。
分かったわ。
後から、追いかけてきなさい。
すぐ追いつけるわ。