『今昔物語集』「馬盗人」の現代語訳と重要な品詞の解説5

  

では、「馬盗人」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『今昔物語集』「馬盗人」の現代語訳と重要な品詞の解説4

  
  

本文

 京の家に帰り着きければ、二、三十人になりにけり【注1】。頼信、家に帰り着きて、「とやありつる【注2】かくこそあれ【注3】。」といふこともさらに知らず【注4】して【注5】、いまだ明けぬ【注6】ほどなれ【注7】ば、もとのやうにまた這ひ入りて寝にけり【注8】。頼義も、取り返したる【注9】馬をば郎等にうち預けて寝にけり。
その後、夜明けて、頼信出で【注10】て、頼義を呼びて、「稀有に【注11】馬を取られざる【注12】よく【注13】射たりつる【注14】ものかな【注15】。」といふこと、かけても言ひいださず【注16】して【注17】、「その馬引き出でよ【注18】。」と言ひければ、引き出でたり【注19】。頼義見る【注20】に、まことに【注21】よき馬にて【注22】ありければ、「さは【注23】賜りなむ【注24】。」とて、取りてけり【注25】。ただし、宵にはさも【注26】言はざりける【注27】に、よき鞍置きてぞ取らせたりける【注28】。夜、盗人を射たりける【注29】禄と思ひけるにや【注30】
あやしき【注31】者どもの心ばへ【注32】なりかし【注33】。兵の心ばへはかくありける、となむ語り伝へたる【注34】とや【注35】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 なりにけり ラ行四段動詞「なる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「なってしまった」。
2 とやありつる 副詞「と」+係助詞「や」+ラ変動詞「あり」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「ああだったか」。「つる」は係助詞「や」に呼応している。
3 かくこそあれ 副詞「かく」+係助詞「こそ」+ラ変動詞「あり」の已然形。意味は「こうであった」。「あれ」は係助詞「こそ」に呼応している。
4 さらに知らず 副詞「さらに」+ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。意味は「まったく知らない」。
5 して 接続助詞。意味は「~で」。
6 明けぬ カ行下二段動詞「明く」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。
7 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
8 寝にけり ナ行下二段動詞「寝(ぬ)」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「寝てしまった」。
9 取り返したる サ行四段動詞「取り返す」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。
10 出で ダ行下二段動詞「出づ」の連用形。
11 稀有に ナリ活用の形容動詞「稀有なり」の連用形。
12 取られざる ラ行四段動詞「取る」未然形+受身の助動詞「る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。
13 よく ク活用の形容詞「よし」の連用形。
14 射たりつる ヤ行上一段動詞「射る」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。
15 かな 終助詞。意味は「~だなぁ」。
16 かけても言ひいださず 副詞「かけても」+サ行四段動詞「言ひいだす」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。意味は「まったく言い出さない」。
17 して 接続助詞。意味は「~で」。
18 引き出でよ ダ行下二段動詞「引き出づ」の命令形。
19 たり 完了の助動詞「たり」の終止形。
20 見る マ行上一段動詞「見る」の連体形。
21 まことに 副詞。意味は「本当に」。
22 にて 断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

23 さは 接続助詞。意味は「それでは」。
24 賜りなむ ラ行四段動詞「賜る」の連用形+強意(確述)の助動詞「ぬ」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。「賜り」は「もらふ」の謙譲語。意味は「頂戴しよう」。「頼信」に対する敬意。

「なむ」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「なむ」の識別の解説

会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の敬意の方向(誰から誰に)の解説

25 取りてけり ラ行四段動詞「取る」の連用形+完了の助動詞「つ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。
26 さも 副詞。意味は「そのようにも」。
27 言はざりける ハ行四段動詞「言ふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「言わなかった」。
28 取らせたりける サ行下二段動詞「取らす」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「取らせた」。「ける」は係助詞「ぞ」に呼応している。
29 射たりける ヤ行上一段動詞「射る」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
30 にや 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。「にや」の後に「あらん」が省略されている。意味は「~であろうか」。

係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの省略と流れの解説

31 あやしき シク活用の形容詞「あやし」の連体形。意味は「不思議だ」。
32 心ばへ 名詞。意味は「心づかい」。
33 なりかし 断定の助動詞「なり」の終止形+終助詞「かし」。意味は「~であるよ」。
34 語り伝へたる ハ行下二段動詞「語り伝ふ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。「たる」は係助詞「なむ」に呼応している。
35 とや 格助詞「と」+係助詞「や」。「とや」の後に「言ふ」が省略されている。

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現代語訳

 京の家に帰り着いた時には、二、三十人になってしまっていた。頼信は、家に帰り着いて、「ああだったか、こうであった。」ということもまったく知らないで、まだ夜が明けていない時であったので、さっきのようにまた寝所に入って寝てしまった。頼義も、取り返した馬を従者に預けて寝てしまった。
その後、夜が明けて、頼信が起き出して、頼義を呼んで、「珍しく馬を取られなかったものだ。上手に射たものであるなあ。」ということを、まったく言い出さないで、「その馬を引き出せ。」と言ったので、(従者が馬を)引き出した。頼義が見ると、本当に良い馬であったので、「それでは頂戴しましょう。」と言って、受け取ってしまった。ただし、昨夜はそのようにも言っていなかったが、よい鞍を置いて受け取らせたのであった。夜、盗人を射た俸禄と考えたのであろうか。
不思議な者たちの心づかいであることよ。武士の心づかいはこのようであるのであったのだ、と語り伝えていると言うことだ。

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所にも、重要な文法事項がたくさんあります。

まず、「注24」で出てくる「なむ」と、最後の文章で出てくる「なむ」は種類が異なりますので、きちんと見分けができるようにしておきましょう
また、係り結びの省略がありますので、省略された言葉がきちんと補えるようにしておきましょう

また、「てけり」・「にけり」など助動詞が組み合わされている文章もきちんと訳せるようにしておきましょう

  

ありがとうございました。
大変面白かったです。

  
  

  

では、我々は会長選挙の
準備がありますので、
これにて失礼致します。

  

噂によると十二支の中に
ネズミの内通者が
いるとのことで
それも調査する必要が
あるそうです。

  


あっ、そうですか…。
(たぶん猿だと思います…。)
分かりました。さようなら。

  

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