『風姿花伝』「秘する花を知ること」の現代語訳と重要な品詞の解説2

では、「秘する花を知ること」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『風姿花伝』「秘する花を知ること」の現代語訳と重要な品詞の解説1

本文

 見る【注1】人のため花ぞとも知らで【注2】こそ、為手【注3】の花にはなるべけれ【注4】されば【注5】、見る人は、ただ思ひの外に面白き【注6】上手とばかり見て、これは花ぞとも知ら【注7】が、為手の花なり【注8】さるほどに【注9】、人の心に思ひも寄らぬ【注10】感を催す手立て【注11】、これ花なり。
たとへば、弓矢の道の手立てにも、名将の【注12】計らひ【注13】にて【注14】思ひの外なる【注15】手立てにて【注16】、強敵にも勝つことあり。これ、負くる【注17】方のためには、めづらしき【注18】【注19】化かされ【注20】破らるる【注21】にて【注22】あらずや【注23】。これ、一さい【注24】の事、諸道芸において、勝負に勝つ理なり。かやうの手立ても、事落居【注25】して、かかる謀よと知りぬれ【注26】ば、その後はたやすけれ【注27】ども、いまだ知らざりつる【注28】故に負くるなり【注29】さるほどに【注30】、秘事とて、一つをば我が家に残すなり【注31】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 見る マ行上一段動詞「見る」の連体形。
2 知らで ラ行四段動詞「知る」の未然形+接続助詞「で」。意味は「知らないで」。
3 為手 名詞。能楽・狂言などの主人公の役。また、その演者のこと。読みは「して」。
4 なるべけれ ラ行四段動詞「なる」の終止形+当然の助動詞「べし」の已然形。意味は「なるはずである」。「べけれ」は係助詞「こそ」に呼応している。
5 されば 接続助詞。意味は「そうであるから」。
6 面白き ク活用の形容詞「面白し」の連体形。
7 ぬ 打消の助動詞「ず」の連体形。
8 なり 断定の助動詞「なり」の終止形。
9 さるほどに 接続詞。意味は「そうしているうちに・それゆえに」。
10 寄らぬ ラ行四段動詞「寄る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。
11 手立て 名詞。意味は「方法」。
12 案 名詞。意味は「考え・計略」。
13 計らひ 名詞。意味は「判断」。
14 にて 格助詞。意味は「~で」。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

15 思ひの外なる ナリ活用の形容動詞「思ひの外なり」の連体形。
16 にて 格助詞。意味は「~で」。
17 負くる カ行下二段動詞「負く」の連体形。
18 めづらしき シク活用の形容詞「めづらし」の連体形。
19 理 名詞。意味は「道理」。
20 化かされ

サ行四段動詞「化かす」の未然形+受身の助動詞「る」の連用形。意味は「だまされる」。

21 破らるる ラ行四段動詞「破る」の未然形+受身の助動詞「る」の連体形。意味は「破られる」。
22 にて 断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」。
23 あらずや ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形+係助詞「や」。意味は「ないか」。
24 一さい 名詞。意味は「すべて」。
25 落居 名詞。意味は「問題が解決して落ち着くこと」。読みは「らっきょ」。
26 知りぬれ ラ行四段動詞「知る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の已然形。
27 たやすけれ ク活用の形容詞「たやすし」の已然形。
28 知らざりつる ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「知らなかった」。
29 負くるなり カ行下二段動詞「負く」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。意味は「負けるのである」。
30 さるほどに 接続助詞。意味は「それゆえに」。
31 残すなり サ行四段動詞「残す」の連体形+断定の助動詞「なり」の終止形。

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現代語訳

 見る人のために、(これが)芸の花なのだと知らないでいることこそ、演者の芸の花になるはずである。そうであるから、見る人は、ただ思いの外に面白い上手だとだけ見て、これが芸の花なのだと知らない状態が、演者の芸の花である。そうしているうちに、見ている人の心に思いも寄らない感動をもたらす方法が生まれ、これが芸の花なのである。
たとえば、武芸の道の方法でも、名将の考え・判断で、思ってもいなかった方法で、強敵にも勝つことがある。これは、負ける方にとっては、珍しい道理にだまされて破られたのではないか。これは、すべての事、様々な道や芸において、勝負に勝つ道理なのである。このような方法も、その事が解決して落ち着いて、このような計略であったよと知ってしまうと、その後は簡単なことだけれども、(その時は)まだ知らなかったために負けたのである。それゆえに、秘密事として、(この秘する花という教え)一つだけを我が家に残すのである。

いかがでしたでしょうか。
哲学的な内容で、本文の内容を理解するのが難しいと思いますが、要するに世阿弥が言いたいことは「秘密にすることによって、意外性が生まれ、芸の面白さや魅力が発揮される」というものです。
文法事項としては、「注4」と「注15」にある「なる」は「注4」が「動詞」で「注15」が「形容動詞の一部」ですので、間違えないようにしましょう。
また、助動詞や係助詞がある箇所はきちんと現代語訳ができるようにしておきましょう。

ちょっと!
何、寝てんの。

すいません。
夜遅いんでつい…。

だから言ったでしょ。
夜中に講義しても眠くなって身に付かないって。

分かりました。
次から、気をつけます。
もう眠いんで、今日はここで休んでもいいですか?

あなた、何、勝手に寝巻に着替えて、
マイ枕持ってきてんの?
最初から寝る気満々だったでしょ?

しょうがないなー。今日はここで休んで下さい。

【朋誠堂喜三二作『見徳一炊夢』(安永十年刊)を参考に挿入画を作成】

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