『大和物語』「苔の衣」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

では、「苔の衣」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『大和物語』「苔の衣」の現代語訳と重要な品詞の解説1

  

本文

 かくて【注1】なほ【注2】聞くに、声いと尊くめでたう【注3】聞こゆれ【注4】ば、「ただなる【注5】【注6】よにあらじ【注7】。もし少将大徳【注8】にやあらむ【注9】。」と思ひにけり【注10】。「いかが【注11】言ふ。」とて、「この御寺【注12】なむ侍る【注13】。いと寒きに、御衣一つしばし貸し給へ【注14】。」とて、
岩の上に旅寝をすればいと寒し苔の衣【注15】を我に貸さなむ【注16】
言ひやりたりける【注17】返り事【注18】に、
世を背く【注19】苔の衣はただひとへかさ【注20】うとし【注21】いざ二人寝む【注22】
と言ひたる【注23】に、「さらに【注24】少将なりけり【注25】。」と思ひて、ただにも語らひし【注26】なれ【注27】ば、「会ひてものも言はむ【注28】。」と思ひて行きたれ【注29】ば、かい消つやうに【注30】失せにけり【注31】。一寺求めさすれ【注32】ど、さらに【注33】逃げて失せにけり【注34】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 かくて 接続詞。意味は「こうして」。
2 なほ 副詞。意味は「やはり」。
3 めでたう ク活用の形容詞「めでたし」の連用形。「めでた」が「めでた」にウ音便化している。意味は「すばらしい」。
4 聞こゆれ ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の已然形。意味は「聞こえる」。
5 ただなる ナリ活用の形容動詞「ただなり」の連体形。意味は「普通だ」。
6 に 断定の助動詞「なり」の連用形。

「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「に」の識別の解説

7 よにあらじ 副詞「よに」+ラ変動詞「あり」の未然形+打消推量の助動詞「じ」の終止形。意味は「決してあるまい」。
8 大徳 名詞。徳の高い僧のこと。または、僧の敬称。
9 にやあらむ 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」+ラ変動詞「あり」の未然形+推量の助動詞「む」の連体形。意味は「~であろうか」。「む」は係助詞「や」に呼応している。

係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの法則の解説

10 思ひにけり ハ行四段動詞「思ふ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「思ってしまった」。
11 いかが 副詞。意味は「どのように」。
12 に 格助詞。
13 侍る ラ変動詞「侍り」の連体形。「居(を)り」の丁寧語。意味は「おります」。係助詞「なむ」に呼応している。「少将」に対する敬意。

会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の敬意の方向(誰から誰に)の解説

14 貸し給へ サ行四段動詞「貸す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の命令形。「給へ」は尊敬語。意味は「御貸しくださいませ」。「少将」に対する敬意。
15 苔の衣 名詞。僧侶や隠者などが着る粗末な服のこと。
16 貸さなむ サ行四段動詞「貸す」の未然形+願望の終助詞「なむ」。意味は「貸してほしい」。

「なむ」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「なむ」の識別の解説

17 言ひやりたりける ラ行四段動詞「言ひやる」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「言い贈った」。
18 返り事 名詞。返歌のこと。
19 世を背く 連語。意味は「出家する」。
20 ね 打消の助動詞「ず」の已然形。
21 うとし ク活用の形容詞「うとし」の終止形。意味は「親しくない・よそよそしい」。
22 寝む ナ行下二段動詞「寝(ぬ)」未然形+勧誘の助動詞「む」の終止形。意味は「寝ましょう・寝ませんか」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

23 たる 完了の助動詞「たり」の連体形。
24 さらに 副詞。意味は「ますます」。
25 なりけり 断定の助動詞「なり」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」の終止形。意味は「~であるなあ」。
26 語らひし ハ行四段動詞「語らふ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。
27 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
28 言はむ ハ行四段動詞「言ふ」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「語り合おう」。
29 行きたれ カ行四段動詞「行く」の連用形+完了の助動詞「たり」の已然形。
30 かい消つやうに タ行四段動詞「かい消つ」の連体形+比況の助動詞「やうなり」の連用形。意味は「かき消すように」。
31 失せにけり サ行下二段動詞「失す」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「姿を消してしまった」。
32 求めさすれ マ行下二段動詞「求む」の未然形+使役の助動詞「さす」の已然形。意味は「探させる」。
33 さらに 副詞。意味は「再び・いっそう」。
34 失せにけり サ行下二段動詞「失す」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「行方不明になってしまった」。

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現代語訳

 こうしてやはり聞いていると、声がとても尊くすばらしく聞こえるので、(小野小町は)「普通の人では決してあるまい。もしかしたら、良少将大徳であろうか。」と思ってしまった。「どのように言うか。」と思って、「(私は今)この御寺におります。とても寒いので、あなた様の衣服を一枚しばらく御貸しくださいませ。」と言って、

私は岩の上に旅寝をするのでとても寒いです。あなた様の苔の衣(僧衣)を私に貸してほしいと思っております。

と言い贈った返歌に、

出家をした私の苔の衣(僧衣)はただ一枚だけです。(そうかと言って)貸さないとよそよそしいですよね。(一枚ある苔の衣を使って)さあ、二人で寝ませんか。

と言ったので、(小野小町は)「ますます良少将でありそうだなあ。」と思って、普段から語り合った仲なので、「会って語り合おう。」と思って、(良少将の所へ)行ったところ、かき消すように姿を消してしまった。人に寺中を探させたが、再び行方不明になってしまった。

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  
  

和歌が登場しますので、二首とも歌意(歌の意味)が分かるようにしておきましょう

・「注16」にある「なむ」(願望の終助詞)と本文中にある係助詞の「なむ」がきちんと見分けられるようにしておきましょう

・使役の助動詞や勧誘の助動詞、打消推量の助動詞など、めったに登場しない助動詞の意味は識別できるようにしておきましょう

  
  


いやー、
ありがとうございました。
良少将、ロマンチックな男
なんですね。私も
そんな人になりたいです。

  
  
  

倉橋先生も頑張れば
なれると思いますよ。
では、謝礼の三百両、
いただきます。
分割でも大丈夫ですよ。

  
  
  

  

三百両なんて、
一生かかっても払えませんよ。
負けてくれません?ところで
何で三百両なんですか?

  
  
  

言い伝えで、佐夜の中山の
観音寺の鐘に見立てた
手水鉢を叩くと、三百両が
空から降って来るらしいの
でも降って来なかったので
代わりに先生から貰います。

  

  

そんな無茶苦茶な。
三百両なんて、払えないし、
使うのも大変ですよ。
何に使うんですか?

  
  

  

三百両分の宝くじを買います。

  
  
  
  

  

宝くじで当たったみたいな
お金なのにー。

  
  

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