では、「如意の渡りにて義経を弁慶打ち奉る事」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
『義経記』「如意の渡りにて義経を弁慶打ち奉る事」の現代語訳と重要な品詞の解説2
本文
かくて【注25】六道寺の渡りをして、弁慶、判官殿の御袖をひかへ【注26】、「いつまで君をかばひ申さん【注27】とて、現在の御主【注28】を打ち奉りつる【注29】ぞ。天の恐れ【注30】も恐ろしや。八幡大菩薩【注31】も許し御納受【注32】し給へ【注33】。」とて、さしも【注34】猛き【注35】弁慶、さめざめと【注36】泣きけり【注37】。余【注38】の人々も涙を流しけり。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 さらば | 接続詞。意味は「それでは」。 |
2 候へ | ハ行四段の補助動詞「候ふ」の命令形。意味は「くだされ」。丁寧語。義経一行に対する敬意。 |
3 申しけれ | サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。「申し」は「言ふ」の謙譲語。義経一行に対する敬意。 |
4 習ひ | 名詞。意味は「しきたり・習慣」。 |
5 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
6 やある | 係助詞「や」+ラ変動詞「あり」の連体形。意味は「あるか。(いやない)」。 |
7 言ひけれ | ハ行四段動詞「言ふ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。 |
8 取りたる | ラ行四段動詞「取る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。 |
9 なけれ | ク活用の形容詞「なし」の已然形。 |
10 御坊 | 名詞。弁慶のこと。 |
11 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。 |
12 腹あしく | シク活用の形容詞「腹あし」の連用形。意味は「意地が悪い」。 |
13 候へ | ハ行四段の補助動詞「候ふ」の已然形。意味は「~ます」。丁寧語。弁慶に対する敬意。 |
14 申す | サ行四段動詞「申す」の終止形。意味は「申し上げる」。「言ふ」の謙譲語。弁慶に対する敬意。 |
15 かやうに | ナリ活用の形容動詞「かやうなり」の連用形。意味は「このように」。 |
16 越えぬ | ヤ行下二段動詞「越ゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。 |
17 よもあらじ | 副詞「よも」+ラ変動詞「あり」の未然形+打消推量の助動詞「じ」の終止形。意味は「まさかあるまい」。 |
18 このをさな人 | 連語。義経のこと。 |
19 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
20 すべきものを | サ変動詞「す」の終止形+意志の助動詞「べし」の連体形+終助詞「ものを」。意味は「しようかなあ」。 |
21 脅しける | サ行四段動詞「脅す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。「ける」は、係助詞「ぞ」に呼応している。 |
22 あまりに | 副詞。意味は「ひどく」。 |
23 言ひ立てられ | タ行下二段動詞「言ひ立つ」の未然形+受身の助動詞「らる」の連用形。意味は「強く主張される」。 |
24 渡しけり | サ行四段動詞「渡す」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。 |
25 かくて | 接続詞。意味は「こうして」。 |
26 ひかへ | ハ行下二段動詞「ひかふ」の連用形。意味は「引っ張って止める」。 |
27 かばひ申さん | ハ行四段動詞「かばふ」の連用形+サ行四段活用の補助動詞「申す」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「かばい差し上げよう」。「申さ」は謙譲語。義経に対する敬意。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
28 御主 | 名詞。意味は「主君」。義経のこと。 |
29 打ち奉りつる | タ行四段動詞「打つ」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の連用形+確述(強意)の助動詞「つ」の連体形。意味は「打ち差し上げてしまう」。「奉り」は謙譲語。義経に対する敬意。 |
30 天の恐れ | 連語。天罰のこと。 |
31 八幡大菩薩 | 名詞。源氏が信仰する神。 |
32 納受 | 名詞。神仏が祈願を受け入れること。 |
33 し給へ | サ変動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の命令形。意味は「なさいませ」。「給へ」は尊敬語で、八幡大菩薩に対する敬意。 |
34 さしも | 副詞。意味は「あれほど・あんなに」。 |
35 猛き | ク活用の形容詞「猛(たけ)し」の連体形。意味は「勇ましい」。 |
36 さめざめと | 副詞。しきりに涙を流し、泣くさまを表わす語。 |
37 泣きけり | カ行四段動詞「泣く」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。 |
38 余 | 名詞。意味は「その他」。 |
スポンサーリンク
現代語訳
こうして六道寺の渡し場に行って、弁慶は義経の袖を引っ張って、「いつまでもあなた様をかばい差し上げようとして、現在仕えているご主君を打ち差し上げてしまうのか。天罰も恐ろしいことだ。八幡大菩薩よ。不忠な私を許して、私の祈願をお受けなさいませ。」と言って、あれほど勇ましい弁慶がしきりに涙を流し、泣いた。義経に従うその他の人々も涙を流した。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・重要表現「よもあらじ」の品詞分解と現代語訳を覚えておきましょう。
・格助詞「の」の識別ができるようにしておきましょう。
(特に主格の「の」は重要です)
・敬語表現は誰に対する敬意かを覚えておきましょう。
(「注27」・「注29」は義経で、「注33」は八幡大菩薩に対するものです。)
うーん。
おいらには内容が
難しすぎてさっぱり
分からなかった…。
そうですか…。
古文は慣れが必要ですから、
作品にたくさん触れると、
上達しますので、
あきらめないで下さい。
ありがとう。
でも、一つだけ
分かったことがある。
何ですか?
弁慶は義経を
刀で斬るのではなく、
扇で叩いたということ。
なので、お前をこれから
扇で叩く!
えー!!!教えたら、
やらないって言ったじゃん!
斬らないとは言ったが、
叩かないとは言ってない。
なので、叩く。
こりゃだめだ。
「三十六計逃げるに如かず」だ。
(※「三十六計逃げるに如かず」とは「面倒なことが起こった時は、逃げるのが一番である」という意味のことわざです)
「三十六計逃げるに如かず」?
何だそれ?
教えたら叩かないぞ。
また、このくだりですかー。
分かりました。
説明しますよ。
しょうがないなあ。