『義経記』「如意の渡りにて義経を弁慶打ち奉る事」の現代語訳と重要な品詞の解説3

では、「如意の渡りにて義経を弁慶打ち奉る事」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『義経記』「如意の渡りにて義経を弁慶打ち奉る事」の現代語訳と重要な品詞の解説2

本文

 「さらば【注1】、船賃出だして渡り候へ【注2】。」と申しけれ【注3】ば、弁慶、「いつの習ひ【注4】に山伏【注5】関船賃なすことやある【注6】。」と言ひけれ【注7】ば、「日ごろ取りたる【注8】ことなけれ【注9】ども、あまりに御坊【注10】【注11】腹あしく【注12】渡り候へ【注13】ば。」と申す【注14】。弁慶、「かやうに【注15】我らに当たらば、出羽の国へ今年明年にこの国の者越えぬ【注16】ことはよもあらじ【注17】、坂田の渡りは、このをさなき人【注18】の父、坂田次郎殿の知行なり【注19】、ただ今この返礼すべきものを【注20】。」とぞ脅しける【注21】あまりに【注22】言ひ立てられ【注23】渡しけり【注24】
かくて【注25】六道寺の渡りをして、弁慶、判官殿の御袖をひかへ【注26】、「いつまで君をかばひ申さん【注27】とて、現在の御主【注28】打ち奉りつる【注29】ぞ。天の恐れ【注30】も恐ろしや。八幡大菩薩【注31】も許し御納受【注32】し給へ【注33】。」とて、さしも【注34】猛き【注35】弁慶、さめざめと【注36】泣きけり【注37】【注38】の人々も涙を流しけり。

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 さらば 接続詞。意味は「それでは」。
2 候へ ハ行四段の補助動詞「候ふ」の命令形。意味は「くだされ」。丁寧語。義経一行に対する敬意。
3 申しけれ サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。「申し」は「言ふ」の謙譲語。義経一行に対する敬意。
4 習ひ 名詞。意味は「しきたり・習慣」。
5 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

6 やある 係助詞「や」+ラ変動詞「あり」の連体形。意味は「あるか。(いやない)」。
7 言ひけれ ハ行四段動詞「言ふ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
8 取りたる ラ行四段動詞「取る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。
9 なけれ ク活用の形容詞「なし」の已然形。
10 御坊 名詞。弁慶のこと。
11 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
12 腹あしく シク活用の形容詞「腹あし」の連用形。意味は「意地が悪い」。
13 候へ ハ行四段の補助動詞「候ふ」の已然形。意味は「~ます」。丁寧語。弁慶に対する敬意。
14 申す サ行四段動詞「申す」の終止形。意味は「申し上げる」。「言ふ」の謙譲語。弁慶に対する敬意。
15 かやうに ナリ活用の形容動詞「かやうなり」の連用形。意味は「このように」。
16 越えぬ ヤ行下二段動詞「越ゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。
17 よもあらじ 副詞「よも」+ラ変動詞「あり」の未然形+打消推量の助動詞「じ」の終止形。意味は「まさかあるまい」。
18 このをさな人 連語。義経のこと。
19 なり 断定の助動詞「なり」の終止形。
20 すべきものを サ変動詞「す」の終止形+意志の助動詞「べし」の連体形+終助詞「ものを」。意味は「しようかなあ」。
21 脅しける サ行四段動詞「脅す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。「ける」は、係助詞「ぞ」に呼応している。
22 あまりに 副詞。意味は「ひどく」。
23 言ひ立てられ タ行下二段動詞「言ひ立つ」の未然形+受身の助動詞「らる」の連用形。意味は「強く主張される」。
24 渡しけり サ行四段動詞「渡す」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。
25 かくて 接続詞。意味は「こうして」。
26 ひかへ ハ行下二段動詞「ひかふ」の連用形。意味は「引っ張って止める」。
27 かばひ申さん ハ行四段動詞「かばふ」の連用形+サ行四段活用の補助動詞「申す」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「かばい差し上げよう」。「申さ」は謙譲語。義経に対する敬意。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

28 御主 名詞。意味は「主君」。義経のこと。
29 打ち奉りつる タ行四段動詞「打つ」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の連用形+確述(強意)の助動詞「つ」の連体形。意味は「打ち差し上げてしまう」。「奉り」は謙譲語。義経に対する敬意。
30 天の恐れ 連語。天罰のこと。
31 八幡大菩薩 名詞。源氏が信仰する神。
32 納受 名詞。神仏が祈願を受け入れること。
33 し給へ サ変動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の命令形。意味は「なさいませ」。「給へ」は尊敬語で、八幡大菩薩に対する敬意。
34 さしも 副詞。意味は「あれほど・あんなに」。
35 猛き ク活用の形容詞「猛(たけ)し」の連体形。意味は「勇ましい」。
36 さめざめと 副詞。しきりに涙を流し、泣くさまを表わす語。
37 泣きけり カ行四段動詞「泣く」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。
38 余 名詞。意味は「その他」。

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現代語訳

 渡しの守の権頭は、「それでは、船賃を出してお渡りくだされ。」を申し上げたので、弁慶は、「いつからのしきたりで山伏が関所の船賃を払うことがあるのか。(いやない。)」と言ったので、渡しの守の権頭は、「いつもはお金を取っていることはないけれど、あまりにあなたが意地悪に渡りますので。」と申し上げた。弁慶は、「このように我らにひどく当たるなら、出羽の国へ今年や来年にこの国の者が越えないことはまさかあるまい。坂田の渡し場は、この若い者の父である、坂田次郎殿の領地である。すぐにこの返礼をしようかなあ。」と脅した。渡しの守の権頭は、あまりにひどく主張されたので、(義経一行をそのまま)渡した。
こうして六道寺の渡し場に行って、弁慶は義経の袖を引っ張って、「いつまでもあなた様をかばい差し上げようとして、現在仕えているご主君を打ち差し上げてしまうのか。天罰も恐ろしいことだ。八幡大菩薩よ。不忠な私を許して、私の祈願をお受けなさいませ。」と言って、あれほど勇ましい弁慶がしきりに涙を流し、泣いた。義経に従うその他の人々も涙を流した。

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

・重要表現「よもあらじ」の品詞分解と現代語訳を覚えておきましょう。

・格助詞「の」の識別ができるようにしておきましょう。
(特に主格の「の」は重要です)

・敬語表現は誰に対する敬意かを覚えておきましょう。
(「注27」・「注29」は義経で、「注33」は八幡大菩薩に対するものです。)

うーん。
おいらには内容が
難しすぎてさっぱり
分からなかった…。

そうですか…。
古文は慣れが必要ですから、
作品にたくさん触れると、
上達しますので、
あきらめないで下さい。

ありがとう。
でも、一つだけ
分かったことがある。

何ですか?

弁慶は義経を
刀で斬るのではなく、
扇で叩いたということ。
なので、お前をこれから
扇で叩く!

えー!!!教えたら、
やらないって言ったじゃん!

斬らないとは言ったが、
叩かないとは言ってない。
なので、叩く。

こりゃだめだ。
「三十六計逃げるに如かず」だ。

(※「三十六計逃げるに如かず」とは「面倒なことが起こった時は、逃げるのが一番である」という意味のことわざです)

「三十六計逃げるに如かず」?
何だそれ?
教えたら叩かないぞ。

また、このくだりですかー。
分かりました。
説明しますよ。
しょうがないなあ。

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