『義経記』「忠信、吉野山の合戦の事」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
  
いやー、今日は西友が
5%割引だったから、
たくさん買い物
しちゃったなあー。
  
  
  

もしや…。
あなた様は、
我が君、義経様では、
ございませんか?

  
  
いえ、違いますよ。
私はしがない下級武士で、
家臣などはおりません。
  
  
  
  
そうですか…。
それにしても、
よく似ているのですが…。
  
  
  
  
あれ?そこにいるのは、
忠信殿ではないか?
こんなところで
何をしている?
  
  
  
おお、弁慶殿。
お久しぶりですね。
今、我が君に再開したと
思ったのですが、
人違いでした…。
  
  

おおー、こいつかー。
前においらも
ひっかかったわー。
やはり成敗するか。

  
ちょっと、待って下さい!!
私、何も悪いことして
ないですよ。あなた方が勝手に
勘違いしているだけですよ。
  
  
  
  
確かに。
私たちが勝手に勘違い
しただけです。申し訳
ございませんでした。
  
  
いえいえ。
分かっていただければ
結構です。ところで、
忠信様はどうして
鎧を着ているのですか?
  
  
  
あっ、これですか?
これは、昨日、吉野山で
合戦があって、
そこからそのまま来たので
この格好なんです。
  
  
えっ?合戦?
今時、すごいですねー。
  
  
  
  
  
  
まあ、合戦と言っても、
スマホゲームなんですけど
私、得意なんです。
ドン勝しまくりです。
  
  
ゲームの話?
なーんだ。
ちょっとがっかりです。
  
  
  
  
いやいや。私のエイム
すごいんですよ。

その時の話、聞きます?

  
  
  
おい、聞いてけよ。
どうせ、暇なんだろ?
  
  
  
  
  
暇じゃないですよ。
これでも藩勤めですから。
でも、面白そうだし、
聞いていきます。
  
  
  
  
では、お話致しましょう。
  
  

本文

 山科法眼【注1】申しける【注2】は、「落人【注3】入れ添へ【注4】て、夜を明かさん【注5】ことも心得ず【注6】。我ら世にだに【注7】あら【注8】ば、これほどの家、一日に一つづつも造りてん【注9】。ただ焼き出だして射殺せ【注10】。」とぞ申しける【注11】忠信【注12】これを聞き、「敵に焼き殺されたり【注13】言はれんずる【注14】は、念もなき【注15】ことなり【注16】手づから【注17】焼き死にしけり【注18】言はればや【注19】。」と思ひて、屏風一具【注20】に火をつけて、天井へ投げ上げたり【注21】。大衆どもこれを【注22】て、「あはや、内より火を出だしたるは【注23】出で給はん【注24】ところを射殺せ。」とて、矢を矧げ【注25】、太刀、長刀の鞘を外して、待ちかけたり【注26】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 山科法眼 名詞。吉野山の法師の一人。
2 申しける サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。「申し」は「言ふ」の謙譲語。宿坊の中に居る忠信に対する敬意。
3 落人 名詞。義経一行のこと。読みは「おちうど」。
4 入れ添へ ハ行下二段動詞「入れ添ふ」の連用形。意味は「入れ寄せる」。
5 明かさん サ行四段動詞「明かす」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「明かすような」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

6 心得ず ア行下二段動詞「心得(こころう)」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「納得できない」。
7 だに 副助詞。意味は「~さえ」。
8 あら ラ変動詞「あり」の未然形。
9 造りてん ラ行四段動詞「造る」の連用形+確述(強意)の助動詞「つ」の未然形+推量の助動詞「ん」の終止形。意味は「きっと造れるだろう」。
10 射殺せ サ行四段動詞「射殺す」の命令形。
11 申しける サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。「申し」は「言ふ」の謙譲語。宿坊の中に居る忠信に対する敬意。「ける」は係助詞「ぞ」に呼応している。
12 忠信 人名。源義経の忠臣の佐藤忠信のこと。
13 焼き殺されたり サ行四段動詞「焼き殺す」の未然形+受身の助動詞「る」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「焼き殺されてしまった」。
14 言はれんずる ハ行四段動詞「言ふ」の未然形+受身の助動詞「る」の未然形+仮定の助動詞「んず」の連体形。意味は「言われるとしたら」。
15 念もなき ク活用の形容詞「念もなし」の連体形。意味は「無念だ」。
16 なり 断定の助動詞「なり」の終止形。
17 手づから 副詞。意味は「自分自身で・みずから」。
18 しけり サ変動詞「す」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。
19 言はればや ハ行四段動詞「言ふ」の未然形+受身の助動詞「る」の未然形+終助詞(願望を表わす)「ばや」。意味は「言われたい」。

終助詞「ばや」については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の重要な終助詞の解説

20 一具 名詞。意味は「一対」。「具」は、屏風などの調度品などを数える語。読みは「ひとよろい」。
21 投げ上げたり ガ行下二段動詞「投げ上ぐ」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。
22 見 マ行上一段動詞「見る」の連用形。
23 出だしたるは サ行四段動詞「出だす」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形+終助詞(詠嘆を表わす)「は」。意味は「つけたぞ」。
24 出で給はん ダ行下二段動詞「出づ」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「お出でになるような」。「給は」は尊敬語。宿坊の中に居る忠信に対する敬意。

会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の敬意の方向(誰から誰に)の解説

25 矧げ ガ行下二段動詞「矧(は)ぐ」の連用形。意味は「つがえる」。
26 待ちかけたり カ行下二段動詞「待ちかく」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「待ちかまえた」。

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現代語訳

 山科法眼が申し上げたことには、「落人を(宿坊に)入れ寄せて、(我々が外で)夜を明かすようなことは納得できない。(落人を捕えて褒美をもらった)我らの(栄えた)世でさえあれば、これぐらいの家は、一日に一軒づつきっと造れるだろう。ただ(宿坊を)焼いて(落人を)あぶり出して射殺せ。」と申し上げた。忠信はこれを聞いて、「敵に焼き殺されてしまったと言われるとしたら、無念なことである。(それなら)みずから焼死したと言われたい。」と思って、屏風一対に火をつけて、天井へ投げ上げた。大勢の僧兵たちはこれを見て、「ああ、宿坊の内から火をつけたぞ。お出でになるような所を射殺せ。」と言って、弓に矢をつがえ、太刀や長刀の鞘を外して、待ちかまえた。

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で重要な文法事項は以下の通りです。

  
  
  

・助動詞が複数組み合わされているところは助動詞の意味と現代語訳が分かるようにしておきましょう。(「注9」造りてん/「注13」焼き殺されたり/「注14」言はれんずる

・重要な終助詞「ばや」を含む文章が訳せるようにしておきましょう。(「注19」)

・敬語表現は現代語訳と誰に対する敬意かが分かるようにしておきましょう。(「注2」/「注11」/「注24」)

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『義経記』「忠信、吉野山の合戦の事」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

【葛飾北斎画『絵本武蔵鐙』(天保七年刊)を参考に挿入画を作成】

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