『古事記』「海幸山幸」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
  
  
  
いやー、困ったなあー。
  
  
  
  
  
  
お侍さん、
どうなさいました?
なにかお困り事ですか?
  
  
  
  
  
実は兄に借りた釣り針を
どこかに落として
しまったらしく、
探しているんです。
  
  
  
そうですか。
では、一緒に探しましょう。
ところで、頭の上に
載っているの何ですか?
  
  
  
  
これですか?
サツマイモのかぶり物です。
最近、流行っているでしょ?
  
  
  
  
  
かぶっている人、
見たことないのですが…。
  
  
  
  
  
  
そんなことないですよ。
私の兄だってほら、
  
  
  
  
  
  
  
…。かぶってる。
しかも、でかい…。
あと、サツマイモ
じゃなくて、魚…。
  
  
  
  
  
兄は海の物が好きなんです。
なので、マス。
私は山の物が好きなんです。
なので、サツマイモ。
  
  
  
  
そうですか。
なんか、そんな設定、
古事記であったような…。
  
  
  
  
  
「海幸山幸」ですよね。
私たち兄弟に似ているんで、
よく知ってます。
  
  
  
  
そうですか。
私はどうも古事記は
苦手でして…。
  
  
  
  
  
じゃあ、私が
一緒に探している間、
分かりやすく
お話しますよ。
  
  
  
そうですか。
よろしくお願いします。
  
  
  
  
  
  

本文

 ここに塩椎神【注1】、「我、汝命【注2】のためによき【注3】なさむ【注4】。」と言ひて、すなはち【注5】無間勝間【注6】の小船を造り、その船にのせて教へていはく、「我その船を押し流さば、やや暫し【注7】いでませ【注8】味し御路【注9】あらむ【注10】。すなはちその道に乗りていでまさ【注11】ば、魚鱗【注12】ごと【注13】造れる【注14】宮室【注15】、それわたつみの神の宮ぞ。その神の御門に至りましな【注16】ば、傍の【注17】の上にゆつ香木【注18】あらむ。かれ【注19】、その木の上にいまさ【注20】ば、その海の神の女【注21】あひ議らむ【注22】ぞ。」と言ひき【注23】
 かれ、教へのまにまに【注24】少しいでます【注25】に、つぶさに【注26】その言のごとく【注27】なりしか【注28】ば、すなはちその香木に登りていましき【注29】。ここに海の神の女豊玉毘売【注30】【注31】玉器【注32】を持ちて水をくまむ【注33】とする時、井に光あり。仰ぎ見れば、うるはしき【注34】壮夫【注35】あり。いとあやし【注36】思ひき【注37】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 塩椎神 名詞。潮流をつかさどる神。読みは「しおつちのかみ」。
2 汝命 名詞。火遠理命(ほおりのみこと)のこと。読みは「いみしみこと・ながみこと」。
3 議 名詞。意味は「計画」。読みは「はかりごと・はかり」。
4 なさむ

サ行四段動詞「なす」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「立てましょう・考えましょう」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

5 すなはち 副詞。意味は「すぐに」。
6 無間勝間 名詞。竹で隙間なく編まれた籠のこと。読みは「まなしかつま」。
7 暫し 副詞。意味は「しばらく」。
8 いでませ サ行四段動詞「いでます」の命令形。意味は「お行きなさい」。「行く」の尊敬語で、火遠理命に対する敬意。
9 味し御路 連語。意味は「よい潮流」。
10 あらむ ラ変動詞「あり」の未然形+推量の助動詞「む」の終止形。意味は「あるだろう」。
11 いでまさ サ行四段動詞「いでます」の未然形。意味は「行きなさる」。「行く」の尊敬語で、火遠理命に対する敬意。
12 魚鱗 名詞。意味は「うろこ」。読みは「いろこ」。
13 ごと 比況の助動詞「ごとし」の語幹。意味は「~ようだ」。
14 造れる ラ行四段動詞「造る」の已然形+存続の助動詞「り」の連体形。意味は「造っている」。
15 宮室 名詞。意味は「宮殿」。読みは「みや」。
16 至りましな ラ行四段動詞「至る」の連用形+サ行四段活用の補助動詞「ます」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の未然形。意味は「着きなさった」。「まし」は尊敬語で、火遠理命に対する敬意。
17 井 名詞。井戸のこと。
18 ゆつ香木 名詞。神聖な桂の樹のこと。読みは「ゆつかつら」。
19 かれ 接続詞。意味は「それで・そこで」。
20 いまさ サ行四段動詞「います」の未然形。意味は「いらっしゃる」。「居る」の尊敬語で、火遠理命に対する敬意。
21 見 マ行上一段動詞「見る」の連用形。
22 あひ議らむ ラ行四段動詞「あひ議る」の未然形+推量の助動詞「む」の連体形。意味は「相談するだろう」。
23 言ひき ハ行四段動詞「言ふ」の連用形+過去の助動詞「き」の終止形。意味は「言った」。
24 まにまに 副詞。意味は「~のままに」。
25 いでます サ行四段動詞「いでます」の連体形。意味は「行きなさる」。「行く」の尊敬語で、火遠理命に対する敬意。
26 つぶさに ナリ活用の形容動詞「つぶさなり」の連用形。意味は「完全な」。
27 ごとく 比況の助動詞「ごとし」の連用形。
28 なりしか ラ行四段動詞「なる」の連用形+過去の助動詞「き」の已然形。意味は「なっていた」。
29 いましき サ行四段動詞「います」の連用形+過去の助動詞「き」の終止形。意味は「いらっしゃった」。「居る」の尊敬語で、火遠理命に対する敬意。
30 豊玉毘売 名詞。読みは「とよたまびめ」。
31 婢 名詞。貴人につき従う女のこと。読みは「まかたち・まかだち」。
32 玉器 名詞。美しい器のこと。読みは「たまもい」。
33 くまむ マ行四段動詞「くむ」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「汲もう」。
34 うるはしき シク活用の形容詞「うるはし」の連体形。意味は「端正で美しい」。
35 壮夫 名詞。意味は「勇壮な男」。
36 あやし シク活用の形容詞「あやし」の終止形。意味は「不思議だ」。
37 思ひき ハ行四段動詞「思ふ」の連用形+過去の助動詞「き」の終止形。意味は「思った」。

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現代語訳 

 ここで、塩椎神が、「私があなた様のためによい計画を立てましょう。」と言って、すぐに竹で編まれた小船を造り、その船に火遠理命を乗せて教えて言ったことには、「私がこの船を押して流したら、しばらくそのままお行きなさい。良い潮の流れがあるでしょう。すぐにその潮流に乗って、行きなさると鱗のように建物が作られている宮殿があり、それはわたつみの神の宮殿です。その宮殿の門に着きなさったならば、そばの井戸の所に神聖な桂の樹があるでしょう。そこで、樹の上にいらっしゃると、海の神の娘があなた様を見て、相談してくれるでしょう。」と言った。
 そこで、火遠理命は、塩椎神の教えのままに少し行きなさると、完全に塩椎神の言葉どおりになっていたので、すぐにその桂の樹に登って待っていらっしゃった。そこに、海の神の娘の豊玉毘売の侍女が美しい器を持って、水を汲もうとする時に、井戸の中に光が見えた。侍女が仰ぎ見ると、端正で美しい勇壮な男がいた。侍女はとても不思議だと思った。

  

いかがでしたでしょうか。

この部分で重要なところは以下の通りです。

  

  

・助動詞の「む」が見分けられるようにしておきましょう(注4・10・22・33)。

・敬語表現がきちんと訳せるようにしておきましょう(注8・11・16・20・25・29)。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『古事記』「海幸山幸」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

  

【山東京伝作栄松斎長喜画『五人切西瓜斬売』(文化元年刊)・宇三太作北尾重政画『網大慈大悲の換玉』(天明二年刊)を参考に挿入画を作成】

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