『宇治拾遺物語』「唐に卒塔婆血つくこと」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
  
  
すいませーん。
ちょっと、
伺いたいのですが。
  
  
  
  
はい、何でしょう?
  
  
  
  
  
  
  
私、卒塔婆小町と
申しますが、この辺に
山頂に卒塔婆がある山、
ありますでしょうか?
  
  
  
  
いやー、ないですね。
そもそも、この辺に山、
ないですからね。
近くだと高尾山ですかね。
  


高尾山?
あんな標高の低い山、
山梨県民からしたら、
山のうちに入りません。

  

※高尾山は都心から近い山で、標高599mです。

  
あっ、そうなんですか(笑)。
卒塔婆小町さんは、
山梨出身なんですねー。
  
  
  
  
  
  
いえ、私、
秋田出身です。
  
  
  
  
  
違うんかい!!
まあ、いいです。
ところで、卒塔婆なんて、
どうして探しているんですか?
  
  
  
  
  
あなた、
ご存じないのですか?
卒塔婆の血の話。
  
  
  
  
申し訳ありません。
ちょっと知らないですね。
  
  
  
  
  
  
  
なんで、知らないのよ。
あなた、よく今まで
生き残れてきたわね。
  
  
  
  
!!!
あなたは、前に私に
無理やり話を聞かせて、
お金をだまし取ろう
とした人!!
  
  

  

あの時のお金、
まだもらってなかったわ。
300両、ちゃんと
払ってちょうだい。

  

  
そんな大金、
下級武士に払えるはずが
ないでしょうが。
無理です!!
  
  
  
  
  
そうよ。小町。
人様からそんな大金、
取っちゃいけないわよ。
  
  
  
  
はーい。お婆ちゃん。
  
  
  
  
  
  
えっ、二人は家族?
お婆ちゃんとお孫さん?
  
  
  
  
  
  
そうなんです。
うちの孫です。
先日はお騒がせしました。
  
  
  
  
そうでしたか。
お二人とも、名前が
小町ですもんね。
  
  
  
  
  
話がそれましたが、
卒塔婆の血の話、
お聞きになります?
  
  
  
  
  
  
是非、お願い致します。
  
  
  
  
  
  
  
分かりました。
お話致しましょう。
  
  
  

本文

 昔、唐に大きなる【注1】ありけり【注2】。その山の頂に、大きなる卒都婆一つ立てりけり【注3】。その山の麓の里に、年八十ばかりなる【注4】【注5】住みける【注6】が、日に一度、その山の峰にある卒都婆を必ず見けり【注7】。高く大きなる山なれ【注8】ば、麓より峰へ登るほど、さがしく【注9】、はげしく、道遠かりける【注10】を、雨降り、雪降り、風吹き、雷鳴り、しみ凍りたる【注11】にも【注12】、また暑く苦しき夏も、一日も欠かず【注13】、必ず登りて、この卒都婆を見けり。
かくするを、人え知らざりける【注14】に、若き男ども、童部【注15】、夏暑かりける【注16】ころ、峰に登りて、卒都婆のもとに【注17】つつ涼みける【注18】に、この女汗をのごひ【注19】て、腰二重なる【注20】【注21】、杖にすがりて、卒都婆のもとに【注22】て、卒都婆をめぐりけれ【注23】ば、拝みたてまつるか【注24】と見れば、卒都婆をうちめぐりては、すなはち【注25】帰り帰りすること一度にも【注26】あらず【注27】あまたたび【注28】、この涼む男どもに見えにけり【注29】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 大きなる ナリ活用の形容動詞「大きなり」の連体形。
2 ありけり ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「あった」。
3 立てりけり タ行四段動詞「立つ」の已然形+存続の助動詞「り」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「立っていた」。
4 なる 断定の助動詞「なり」の連体形。
5 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

6 住みける マ行四段動詞「住む」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
7 見けり マ行上一段動詞「見る」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。
8 なれ 断定の助動詞「なり」の已然形。
9 さがしく シク活用の形容詞「さがし」の連用形。意味は「険しい」。
10 遠かりける ク活用の形容詞「遠し」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
11 しみ凍りたる ラ行四段動詞「しみ凍る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「凍りついた」。
12 にも 格助詞「に」+係助詞「も」。
13 欠かず カ行四段動詞「欠く」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。
14 え知らざりける 副詞「え」+ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「まったく知らなかった」。
15 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
16 暑かりける ク活用の形容詞「暑し」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
17 居 ワ行上一段動詞「居る」の連用形。意味は「座る」。
18 涼みける マ行四段動詞「涼む」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
19 のごひ ハ行四段動詞「のごふ」の連用形。意味は「拭う」。
20 なる 断定の助動詞「なり」の連体形。
21 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
22 来 カ変動詞「来(く)」の連用形。
23 めぐりけれ ラ行四段動詞「めぐる」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
24 拝みたてまつるか マ行四段動詞「拝む」の連体形+係助詞「か」。意味は「拝み差し上げるのか」。「たてまつる」は謙譲語で、卒塔婆に対する敬意。
25 すなはち 副詞。意味は「すぐに」。
26 にも 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「も」。

「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「に」の識別の解説

27 あらず ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。
28 あまたたび 副詞。意味は「何度も」。
29 見えにけり ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「見られてしまった・会ってしまった」。

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現代語訳

 昔、唐に大きな山があった。その山の頂に、大きな卒塔婆が一つ立っていた。その山の麓の里に、80歳ぐらいの老女が住んでいたが、毎日一度、その山の峰にある卒塔婆を必ず見ていた。高く大きい山であるので、麓から峰へ登る道のりが、険しく、険阻で、道が遠かったが、雨が降り、雪が降り、風が吹き、雷が鳴り、地面が凍りついた時も、また、暑苦しい夏も、老女は、一日も欠かさず、必ず登って、この卒塔婆を見た。
このようにしているのを、他の人はまったく知らなかったが、(ある時)若い男たちと子供達が、夏の暑かった頃に、峰に登って、卒塔婆の下で座って涼んでいた時に、この老女が汗を拭って、腰が折れ曲がっている者であるが、杖にすがって、卒塔婆の下に来て、卒塔婆の周囲を回ったので、(男たちは、最後に)拝み差し上げるのかと思って見ると、女は卒塔婆の周囲を回って、すぐに帰ってしまった。(そのまま)帰ることは一度だけでなく、何度も、老女はこの涼む男たちに(その姿を)見られてしまった。

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・「注12」と「注26」の「にも」の「に」の識別ができるようにしておきましょう。
 (注12の「に」は格助詞で、注26の「に」は断定の助動詞です)

・「注14」と「注24」は重要表現がありますので、訳せるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『宇治拾遺物語』「唐に卒塔婆血つくこと」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

【大岡春卜編『和漢名画苑』(寛延三年刊)を参考に挿入画を作成】

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