許して下さい!
他の女に手紙を
ばれてる。
仲裁してください。
いいのでは?
いいので、
本文
九月【注1】ばかりになりて、出でにたる【注2】ほどに、箱の【注3】あるを、手まさぐり【注4】に開けて見れば、人のもとにやらむ【注5】としける【注6】文あり。あさましさ【注7】に、見てけり【注8】とだに【注9】知られむ【注10】と思ひて、書きつく。
うたがはし【注11】ほかに渡せる【注12】ふみ【注13】見ればここやとだえ【注14】にならむ【注15】とすらむ【注16】
など思ふほどに、むべなう【注17】、十月【注18】つごもり方【注19】に、三夜しきり【注20】て見えぬ【注21】ときあり。つれなう【注22】て、「しばし試みる【注23】ほどに。」など、けしき【注24】あり
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 九月 | 名詞。読みは「ながつき」。陰暦九月の異称。 |
2 出でにたる | ダ行下二段動詞「出づ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「出て行ってしまった」。 |
3 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
4 手まさぐり | 名詞。意味は「手先でもてあそぶこと・手慰み」。 |
5 やらむ | ラ行四段動詞「やる」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「やろう」。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
6 しける | サ変動詞「す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「した」。 |
7 あさましさ | 名詞。意味は「驚きあきれること」。 |
8 見てけり | マ行上一段動詞「見る」の連用形+強意(確述)の助動詞「つ」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」の終止形。意味は「見てしまったよ」。 |
9 だに | 副助詞。意味は「せめて~だけでも」。 |
10 知られむ | ラ行四段動詞「知る」の未然形+受身の助動詞「る」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「知られよう・分かってもらおう」。 |
11 うたがはし | シク活用の形容詞「うたがはし」の終止形。「疑はし」と「橋」の掛詞。 |
12 渡せる | サ行四段動詞「渡す」の已然形+完了の助動詞「り」の連体形。意味は「渡した・与えた」。「渡せ」は、「はし(橋)」の縁語。 |
13 ふみ | 名詞。意味は「手紙」。「文」と「踏み」の掛詞。「踏み」は、「はし(橋)」の縁語。 |
14 とだえ | 名詞。意味は「男女の仲が途絶えること」。「途絶え」は、「はし(橋)」の縁語。 |
15 ならむ | ラ行四段動詞「なる」の未然形+推量の助動詞「む」の終止形。意味は「なろう」。 |
16 すらむ | サ変動詞「す」の終止形+現在推量の助動詞「らむ」の連体形。意味は「するのだろう」。「らむ」は係助詞「や」に呼応している。 |
17 むべなう | 連語。意味は「なるほど」。 |
18 十月 | 名詞。読みは「かんなづき・かみなづき」。陰暦十月の異称。 |
19 つごもり方 | 名詞。意味は「下旬ごろ・月末ごろ」。 |
20 しきり | ラ行四段動詞「しきる」の連用形。意味は「連続で起こる」。 |
21 見えぬ | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「見えない」。 |
22 つれなう | ク活用の形容詞「つれなし」の連用形。意味は「よそよそしい・そしらぬ顔だ」。「つれなう」は「つれなく」がウ音便化している。 |
23 試みる | マ行上一段「試みる」の連体形。意味は「試してみる・様子を見る」。 |
24 けしき | 名詞。意味は「態度・そぶり」。 |
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現代語訳
九月ごろになって、(夫の兼家が)出て行ってしまったときに、文箱が置いてあるのを(見つけて)、手慰みに開けて見ると、他の女性のもとにやろうとした手紙があった。驚きあきれて、せめて見てしまったよとだけでも知られようと思って、和歌を書きつける。
疑わしいことです。他の女性に渡した手紙を見ると、ここ(私の所)へ来るのが途絶えようとしているのでしょうか。
などと思っているうちに、なるほど(やはり)、十月の下旬に、三夜連続で、姿が見えないときがあった。(夫は戻ってくると)そしらぬ顔をして、「しばらくあなたの気持ちを試しているうちに(日が過ぎてしまったよ)。」などと言った態度であった。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・和歌の技法(掛詞と縁語)は絶対に覚えましょう(注11・12・13・14)。
・助動詞がセットになっている所は品詞分解と訳ができるようにしておきましょう(注2・8・10)。
続きは以下のリンクからどうぞ。
『蜻蛉日記』「うつろひたる菊」の現代語訳と重要な品詞の解説2
【山東京伝作北尾重政画『裡家算見通坐敷』(享和三年刊)を参考に挿入画を作成】