法政大学の古文の入試問題の解説(2012年)続き

  

では、前回の続きの2012年の文学部、経営学部、人間環境学部の古文の入試問題の後半の部分を学習します。

後半の文章と問題は以下の通りです。

  
  

後半の本文

次の文章を読んで、後の問いに答えよ。

これらは、さまこそⅲかはれども、みなものに耐へ忍ぶるたぐひなり。心をもてしづめぬ人は、なにごともはなばなしく、けしからぬあやしの賤(しづ)の女(め)などが、もの歎(なげ)きたる声、気色は、隣里(りんり)【注2】も苦しく、いかでか耐へむと聞ゆれども、一日二日などに過ぎず。のちには、aさる気(け)ありつるかとだに思はぬこそ、あさましけれ。

また、女のものねたみ、同じく忍びつつしむべし。いやしきはいはず、ことよろしき人の中にも、そのかたのすすむ人につけては、むくつけなく、bうたてき名を残すなり。なかにも后(きさき)は螽斯(しうし)、毛詩(もうし)の喩(たとへ)【注3】、おはしましき。ものねたみし給はぬこと、本文(ほんもん)【注4】に見えたれども、Bそれしもえしのび給はず
(『十訓抄』)

【注】 注2―「隣里」 隣の村。 注3―「螽斯、毛詩の喩」 イナゴの類のように子孫が繁栄するという、『毛詩(詩経)』国風・周南篇にみえる喩え。  注4―「本文」 中国の書物の文章。

  
  
  

後半の設問

(設問は後半の部分のものを載せています。そのため、実際の設問の順序と異なります。)

問四 傍線部ⅲ「かはれ」の活用形として正しいものを次の中から一つ選べ。

ア 未然形  イ 連用形  ウ 終止形  エ 連体形  オ 已然形  カ 命令形

問五 傍線部a「さる」b「うたてき」の品詞として正しいものを次の中からそれぞれ一つずつ選べ。

ア 感動詞   イ 接続詞  ウ 連体詞  エ 動詞  オ 形容詞
カ 形容動詞  キ 副詞   ク 助動詞  ケ 助詞  コ 名詞

問六 傍線部B「それしもえしのび給はず」の解釈として最も適切なものを次の中から一つ選べ。

ア それでさえも昔の出来事を懐かしむことをなさらない。
イ それでさえも亡き人を懐かしむことをなさらない。
ウ それでさえも好きな人を恋い慕うことをなさらない。
エ それでさえも嫉妬心を慎むことがおできにならない。
オ それでさえも悪口を言う気持ちを慎むことがおできにならない。

問七 次の中から本文の内容と合致するものを一つ選べ。

ア 西行法師は大変な知らせを受けても、その場の雰囲気を壊すまいと、さとられぬように慌てずに遊び続けた。
イ 西行法師は早く帰るよう言われたのに、猟が楽しくて遊び続けていたため、西住法師に非難されてしまった。
ウ 西行法師と西住法師は言葉を交わさなくても心が通じ合ったので、この良き人間関係は後世に語り継がれた。
エ 身分の低い女は心を鎮められず大騒ぎをして嘆くが、周囲の者たちは相手にしないので、誰にも実害はない。
オ 身分の低い女はわがままな心を抑制できないが、身分の高い女は分別があるので、大騒ぎをすることはない。

問八 『十訓抄』の成立した時代として正しいものを次の中から一つ選べ。

ア 奈良時代  イ 平安時代  ウ 鎌倉時代  エ 室町時代  オ 江戸時代

  
  
  
  
  

後半の設問の解説

  

では、問四の文法の問題から見ていきましょう。

傍線ⅲ「かはれ」の活用形ですが、その直後に「ども」という接続助詞があります。「ども」の直前の語は已然形になります。

問四の正解:オ 已然形
  

次に、問五の品詞の問題を見ましょう。

傍線a「さる」は「そのような」という意味の連体詞です。古文で「さ」には「その・そう」という意味がありますので、覚えておきましょう。

傍線b「うたてき」は「いやだ・情けない」という意味のク活用の形容詞です。板野先生のゴロの古文単語の本にも載っている重要単語ですので、これも覚えましょう。

問五の正解:a ウ  b オ
  

問六は現代語訳の問題ですが、ある重要単語を知っていると一気に選択肢が二つに絞られる問題です。

その重要単語とは「え~打消語」です。板野先生のゴロの古文単語の本にも載っていますが、副詞の「え」のあとに打消語がくると、不可能(~できない)の意味になります。不可能の意味が入っている選択肢は「おできにならない」という文末になっている。エかオのどちらかになります。あとは、傍線Bの前の文章の「ものねたみし給はぬこと」から、「妬む」ということについての説明だと判断し、嫉妬心のことを述べている。エが正解になります。ちなみに傍線内にある「しのび」は「耐える・隠す」という意味の動詞です。

問六の正解:エ それでさえも嫉妬心を慎むことがおできにならない。
  

問七は内容一致の問題です。

本文の内容に合っているのは、アです。選択肢の中にある「大変な知らせ」とは、娘が病気で亡くなったことを指し、「その場の雰囲気を壊すまいと、さとられぬように慌てずに遊び続けた」という所は、本文の「人にも知らせず、さりげなく、いささかの気色もかはらでゐたり」という所と合致します。

残りの選択肢を確認しますと、イは、「西住法師に非難されてしまった」という所が違います。非難はされていません。また、「猟が楽しくて遊び続けていたため」も違います。本文に「心ならず」とあり、不本意ながら騒いでいることが分かります。

ウは、「良き人間関係は後世に語り継がれた」という所が、本文から読み取れない情報です。

エは、「周囲の者たちは相手にしないので、誰にも実害はない。」という所が、本文から読み取れない情報です。一日二日で嘆き騒ぐのが収まるのは確かなのですが、実害ないと断定していません。

オは、「身分の高い女は分別があるので、大騒ぎをすることはない」という所が、本文と逆です。高貴な女性でも嫉妬心があって、汚名残すこともあると警告しているのが、本文の内容です。

問七の正解:ア 西行法師は大変な知らせを受けても、その場の雰囲気を壊すまいと、さとられぬように慌てずに遊び続けた。
  

問八は文学史の問題です。

『十訓抄』は鎌倉中期の説話集で、年少者の教訓のために十個の徳目に分けて、その徳目についての例話を挙げたものです。

問八の正解:ウ 鎌倉時代
  
  

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現代語訳

  

これらは、事情こそ少し違っているが、すべて耐え忍ぶ性質のものである。心を静めない人は、何事も派手で、ふとどきで、卑しい女性などが、嘆いている声と様子は、隣村でも苦しく、どうして耐えられるだろうかと知られているが、それは一日か二日ぐらいに過ぎない。その後には、そのような様子があったのかとさえ思われないほど、(あっさりしていて)驚くものである。

 また、女性の妬みは同じく耐え慎むべきことである。卑しい人だけとは言わず、身分の良い人の中にも、その方面で執心が進行する人は、無風流で品がなく、情けない汚名を残すのである。中でも后については、『毛詩(詩経)』の「螽斯」の詩のたとえが、おありになります。妬まないことは、中国の書物の文章に見えますが、それでさえも嫉妬心を慎むことがおできにならない。

  
  

  

いかがでしたでしょうか?法政大学の古文に関しては、基本的なことを問うことが多いので、文法事項と重要単語をきちんと暗記し、本番に臨めば問題ないかと思われます。

  

倉橋先生。
ありがとうございました。
また法政大学の入試問題の
解説の時にやって来ます。

  

そうですか。
また、いらして下さい。

  

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