法政大学の古文の入試問題の解説(2014年)

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。

  

ねえねえ、三治郎君は、坂道シリーズでどれが好き?

  
  

  

ん、何を話し合っているんだい?

  
  

  

あっ、倉橋先生。
今、坂道シリーズで、どれが
好きか話あっていたんです。
僕は乃木坂が好きです。

  

ああー、アイドルグループの話ね。
今、若者の間で人気ですもんねー。

  
  

  

こんにちは。
みなさんで何を
話していたのですか?

  

  

ああ、うさぎさん、こんにちは。
今、子どもたちが坂道シリーズでどれが好きかって話していたんです。うさぎさんは、法政大学のマスコットだから、富士見坂ですよね?

  

  

だからー、もう何回も言ってますけど、
私、法政大学の「えこぴょん」じゃないですって。
それに富士見坂っていうグループはないですよ。

  

  

先生、うさぎさんは神楽坂推しですよ。
2018年秋季の六大学野球で優勝した時、パレードしていましたから。
体育会で神楽坂でパレードができるのは硬式野球部だけらしいですよ。

  

  

へえー。そうなんだ。

じゃあ、うさぎさんは神楽坂推しで決定ですね。

  

  

勝手に決め付けないでください。
もう何坂が好きでも結構です。

そんな話よりも講義を早く始めてください。

  

  

ごめん。ごめん。

では、本日は2014年の文学部の問題を解説しましょう。

本文が長いので、前半と後半に分けます。

  

過去問に挑戦!

前半の本文

次の文章は、『松浦宮物語』の一節である。遣唐副使として渡唐した橘氏忠は唐帝に厚遇され、その崩御後は、幼い新帝と政務を補佐するその母后に忠義をつくした。官職に就いている氏忠は、先例により本来は帰国できないが、両親の待つ日本に帰ることを切望するようになり、それを知った母后はその功績に報い、氏忠の帰国を決定した。別れの日が近づき、名残を惜しむ三人の様子を描いた以下の場面を読んで、後の問いに答えよ。

六月十日余りにもなりぬ。暑さ①ところせきころ、政はてぬるに、ことに疎き人もさぶらはず。帝、后、少しうち休ませたまふとて、水に臨みたる廊の、風涼しきかたにおはしますに、召しあれば参りて、土廂の石の上にⒶさぶらふ。「(幼帝)思ひしことなれど、むげに残りなき日数こそ、いまさらに言ふかひなき心地すれ」と涙ぐませⒷたまへる、いとかたじけなく忍びがたきに、后も近うおはします。六月十日余り、暑く耐へがたき日の気色を、薄き衣も暑かはしう、思ひ悩まぬ人なきころの、まばゆきまでくまなき空の気色に、常よりことに言ふよしなき御さま、かたちの、光を放つと言ふばかり、目も驚く心地するに、いささか暑げなる御気色もなく、みどりの空に澄み昇る月の影ばかりきよく、くまなき御さま、「この世にⓐかかることやはあるべき」と、あさましう言ふ限りなきに、ただ仏の御国の心地のみして、②なめげなれど、「目しばらくも」とかや、恐れも忘れてうちまもらるるにつけて、思ひ分かず、涙のみぞすすみ出づる。いまはただ、このとまらぬ道の恨み、なほかへすがへすも忘れがたき志を、のたまはせやらず、みなしほたれおはします。

前半の設問

(設問は前半の部分のものを載せています。そのため、実際の設問の順序と異なります。)

  

問一 傍線①「ところせき」・②「なめげなれど」の本文中における意味として最も適切なものを次の中からそれぞれ一つずつ選べ。

①「ところせき」
ア やっかいである
イ ぶり返す
ウ 過ごしやすい
エ 和らぐ
オ 連日続く

②「なめげなれど」
ア 呆然とするが
イ 清々しいが
ウ 落ち着かないが
エ 失礼であるが
オ ありがたい気持ちになるが

問二 傍線Ⓐ「さぶらふ」・Ⓑ「たまへ」の敬語の種類として最も適切なものをつぎの中からそれぞれ一つずつ選べ。

ア 尊敬語      イ 謙譲語      ウ 丁寧語

問三 傍線ⓐ「かかることやはあるべき」を現代語訳し、三十五字以内で解答欄に記せ。その際、「かかる」が何を指しているかを明確にすること。なお、読点や記号も一字と数える。

  
  
  
  
  

前半の設問の解説

  

まず、問一の単語の意味の問題から見ていきましょう。

  
  

傍線①と②は両方とも重要単語ですので、覚えておきましょう。
傍線①の「ところせし」は、ク活用の形容詞で、意味は「大げさだ」・「窮屈だ」・「厄介だ」・「堂々としている」です。板野先生の『ゴロで覚える古文単語ゴロ565』にも載っています。

傍線②の「なめげなり」は、ナリ活用の形容動詞で、意味は「失礼だ」です。「なめし」という、ク活用の形容詞も同じ意味ですので、一緒に覚えましょう。

問一の正解:① ア やっかいである  ②  エ 失礼であるが 
  

次に、問二の敬語の問題を見ていきましょう。
傍線Ⓐの「さぶらふ」は、(偉い人に)「お仕えする」という意味の謙譲語です。
Ⓑの「たまへ」は、尊敬語と謙譲語の両方の意味がありますが、今回は「たまへ」の前に「せ」という言葉があります。「せ」は、尊敬の助動詞で、「せたまへ」は、「~なさる」という意味の二重尊敬です。

問二の正解: Ⓐ イ 謙譲語  Ⓑ ア 尊敬語
  

次に、問三の現代語訳の問題を見ていきましょう。
まず、「かかる(このような)」という指示語の内容を明らかにするため、「かかる」が指す内容を探します「かかる」が指す内容は直前に書いてあり、前の文章では、后の容姿(かたち)について述べていて、后の容姿が「空に澄み昇る月の影」ぐらい美しいということを述べていますので、「かかること」とは「このように美しいこと」ということになります。
次に、「やは~べき」という係り結びの法則に注目します。係助詞の「や」には、「疑問」と「反語」の意味があり、今回は「反語」です。後ろに助詞の「は」がくっ付いていても特に訳し方は変わりません。「べき」は推量の助動詞ですので、「~であろうか。いや~だ」という訳します。係り結びの法則は、大学が設問を作る際のベース(基礎)となる文法事項ですので、きちんと理解しておきましょう。係り結びの法則については以下のページで解説していますので、分からなかった場合は確認しておくのがよろしいでしょう。

係り結びの法則の解説の頁(ページ)

以上、二つの項目をまとめると、現代訳は「このように御美しい人がいるのであろうか。いやいない」というものになります。

問三の正解:「このように御美しい人がいるのであろうか。いやいない。」(二十六文字)

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現代語訳

六月十日過ぎになった。暑さが①厄介である頃に、政務が終わったが、特に関係が浅い人も参上しなかった。帝や皇后は少しお休みになられると、水に面した回廊で、風が涼しい場所でいらっしゃったが、橘氏忠は御呼びがあり、参上して土廂の石の上にⒶお仕えした。幼い新帝は、「分かっていたことではあるが、ひどく残りの滞在日がないことが、改めて取り返しがない気持ちになる。」とおっしゃり、涙ぐみⒷなさっている。氏忠は、とても申し訳なく耐え難い気持ちになったその時、皇后が近くにいらっしゃった。六月の十日過ぎで暑さが耐え難い日で、薄い衣でも暑さがわずらわしく、悩まない人がいない時間帯の、まばゆく曇りない空の様子に、普段よりもとくに言いようのない御姿で、御容姿は、光を発すると言うぐらいで、目も驚くぐらいすばらしく、少しも暑そうな御様子もなく、緑の空に澄み昇る月の光ぐらい清らかに曇りない御姿は、「この世にⓐこのように御美しい人がいるのであろうか。いやいない」と、驚いて表現しようもないくらいすばらしくもので、まるで仏の国のような心地がして、②失礼ではあるが、「目を少しも離せない」というぐらい、氏忠は恐れを忘れて見つめて、分別せず、涙だけが流れてきた。今はただ、幼い幼帝は、この止められない旅路を恨み、やはり何度も忘れられない思いをおっしゃらず、皆涙を流していらっしゃる。

  

いかがでしたでしょうか。
問一、問二、問三とも難しい問題ではありません。
法政大学を合格するためには、すべて正解していないとまずい問題です。

後半は別のページに載せますので、そちらもご参照下さい。

法政大学の古文の入試問題の解説(2014年)後半の頁(ページ)

  
  

【桜川慈悲成作歌川豊国画『昔料理狸吸物』(寛政七年刊)・市場通笑作北尾重政画『正説河童呪』(天明四年刊)を参考に挿入画を作成】

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