お隣の権兵衛さん、
可愛いなあー。
何してるんですか?
あそこにいる娘、
何ですか?
この前も違う娘を
こんな田舎に不釣り合いな
ここ、江戸ですけど…。
そのフレーズ、どこかで
ないですか?
よく知ってますね。
「初冠」本文
昔、男、初冠【注1】して、奈良の京春日の里【注2】に、しる【注3】よし【注4】して、狩りに往にけり【注5】。その里に、いとなまめいたる【注6】女はらから【注7】住みけり【注8】。この男かいまみてけり【注9】。思ほえず【注10】、ふる里【注11】にいとはしたなく【注12】てありけれ【注13】ば、心地まどひにけり【注14】。男の【注15】着たりける【注16】狩衣【注17】の裾を切りて、歌を書きてやる。
「初冠」重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 初冠 | 名詞。元服して初めて冠をつけること。 |
2 春日の里 | 地名。奈良県東部春日山の西麓の村里のこと。 |
3 しる | ラ行四段動詞「しる」の連体形。意味は「領有する・治める」。 |
4 よし | 名詞。意味は「事情・縁故」。 |
5 往にけり | ナ変動詞「往ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「出掛けた」。 |
6 なまめいたる | カ行四段動詞「なまめく」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「優美である」。「なまめい」は「なまめき」がイ音便化している。 |
7 女はらから | 名詞。意味は「姉妹」。 |
8 住みけり | マ行四段動詞「住む」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「住んでいた」。 |
9 かいまみてけり | マ行上一段動詞「かいまみる」の連用形+完了の助動詞「つ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「のぞき見してしまった」。 |
10 思ほえず | ヤ行下二段動詞「思ほゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。意味は「思いがけず」。 |
11 ふる里 | 名詞。意味は「旧都」。 |
12 はしたなく | ク活用形容詞「はしたなし」の連用形。意味は「不釣り合いだ」。 |
13 ありけれ | ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「あった」。 |
14 心地まどひにけり | ハ行四段動詞「心地まどふ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「心が乱れてしまった」。 |
15 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
16 着たりける | カ行上一段動詞「着る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「着ていた」。 |
17 狩衣 | 名詞。貴族の男性が着る常用服。 |
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「初冠」現代語訳
昔、ある男が、元服して、奈良の旧都の春日の里に、領有している事情で、狩りに出かけた。その里に、とても優美である姉妹が住んでいた。この男は、(その姉妹を)のぞき見してしまった。思いがけず、(さびれた)旧都にすごく不似合いであったので、(男は)心が乱れてしまった。(そこで)男は、(自分が)着ていた狩衣の裾を切って、歌を書いて贈った。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・注5・14の「にけり」の品詞の違いが分かるようにしておきましょう。
(注5「にけり」→ナ変動詞の一部+過去の助動詞・注17「にけり」→完了の助動詞+過去の助動詞)
・注9・14は、重要表現ですので、現代語訳が分かるようにしておきましょう。
続きは以下のリンクからどうぞ。
【芝全交作北尾重政画『吉原伝授仕習鑑』(天明元年刊)を参考に挿入画を作成】