目次
仕事終わりの一服は
うまいなあー。
おや、庭先にまた
猫が来ている。
にゃん。
かわいいなあー。
メス猫かな?
にゃん。あっ、御主人。
いらっしゃいましたか。
すいません、
勝手に入ってしまい。
しゃべった!?
猫がしゃべったー!?
倉橋せんせい、
もう慣れて下さいよ。
この世界では、猫は普通に
しゃべりますよ。すいません。
妻が勝手に庭に入りまして。
こちらこそすいません。
設定忘れてました。
猫さんの奥さんでしたかー。
ところで、セリフの「ん」に
色がついてますが…。
お分かりですか。
そうでーす。
今日は、助動詞「ん(む)」の
解説をするからでーす。
では張り切って参りましょう。
やっぱりー。
「む(ん)」の種類の解説
助動詞の「む(ん)」の意味は、全部で6種類あります。覚え方もあります。
①推量(~だろう)
②意志(~よう)
③婉曲(~ような)
④適当(~のがよい)
⑤勧誘(~しないか・~よう)
⑥仮定(~としたら)
(推量の「す」・意志の「い」・勧誘の「か」・仮定の「か」・婉曲の「え」・適当の「て」)
詳しく解説します。
①推量の「む(ん)」の解説
推量の「む(ん)」は、主語が三人称の時に多く見られます(絶対ではありません)。
三人称(固有名詞・彼など)の主語+動詞+む(ん)。
「~だろう」と訳します。
例文を見てみましょう。
「少納言よ、香炉峰の雪いかならむ」(『枕草子』第二百八十段「雪のいと高う降りたるを」)
〈現代語訳〉
「少納言よ、香炉峰の雪はどのようであろうか。」
【この文章では、「香炉峰の雪」という三人称が主語です。】
②意志の「む(ん)」の解説
意志の「む(ん)」は、主語が一人称の時に多く見られます(絶対ではありません)。
一人称(我など)の主語+動詞+む(ん)。
「~よう」と訳します。
例文を見てみましょう。
木曾殿のたまひけるは、「義仲、都にていかにもなるべかりつるが、これまで逃れ来るは、なんぢと一所で死なんと思ふためなり。」
〈現代語訳〉
木曾義仲殿がおっしゃったことには、「我義仲は、都でどのようにでもなるはずであったが、ここまで逃げて来たのは、お前と同じ所で死のうと思ったためである。」
【カギ括弧の文章は、木曾義仲の言葉で、カギ括弧の文章の主語は、「義仲」で、ここでは一人称となります。】
③婉曲の「む(ん)」の解説
婉曲の「む(ん)」は、「む(ん)」の後ろに名詞がある場合か、名詞が省略されている場合(「こと」や「もの」などが省略されていることが多い)に見られ、この時の「む(ん)」は連体形になります。
動詞+む(ん)+名詞(名詞が省略されている時もある)
「~のような」と訳します。
例文を見てみましょう。
ねびゆかむさまゆかしき人かなと、目とまり給ふ。(『源氏物語』「若紫」)
〈現代語訳〉
大人になっていくような様子を見たい人だなあと、(光源氏は若紫に)目が止まりなさった。
【「む」の後ろに「さま」という名詞がありますので、この「む」は連体形となります。】
④適当の「む(ん)」の解説
適当の「む(ん)」は、主語が二人称の時に多く見られます(絶対ではありません)。
二人称(君・そなたなど)+動詞+む(ん)。
「~のがよい」と訳します。
例文を見てみましょう。
子といふものなくてありなん。(『徒然草』第六段)
〈現代語訳〉
子どもというものは、ない方がよい。
【この文章の主語は、「子というもの」というで、三人称ですが、訳してみて「推量」より「適当」の方が適切だと判断できますので、ここの「ん」は適当の助動詞になります。】
⑤勧誘の「む(ん)」の解説
勧誘の「む(ん)」は、主語が二人称の時に多く見られます(絶対ではありません)。
二人称(君・そなたなど)+動詞+む(ん)。
「~しないか・~よう」と訳します。
例文を見てみましょう。
「いざ、かいもちひせむ。」(『宇治拾遺物語』巻一「児のかい餅するに空寝したる事」)
〈現代語訳〉
「さあ、(皆で)ぼたもちを作ろう。」
【この文章は、僧が仲間に向って、ぼた餅を作ることを誘っているため、「む」は勧誘の助動詞になります。主語は「皆」で、「皆」は三人称になります。】
⑥仮定の「む(ん)」の解説
仮定の「む(ん)」は、「む(ん)」の後ろに「に」・「は」・「には」・「こそ」・「も」などの助詞がある場合が多く、この時の「む(ん)」は連体形になります。
動詞+む(ん)+助詞
「~としたら」と訳します。
例文を見てみましょう。
うれしと思へども、ただ一度にいらへむも、待ちけるかともぞ思ふとて、(『宇治拾遺物語』巻一「児のかい餅するに空寝したる事」)
〈現代語訳〉
(児は)うれしいとは思ったけれど、ただ一度で返事をするとしたらそれも、待っていたのかと思われて困ると思い、
【「む」の後ろに助詞の「も」があり、その後の文章が仮定の話となっているため、「む」は仮定の助動詞になります。】
最後に見分け方のポイントです。
助動詞の「む(ん)」は、助動詞の「べし」と見分け方と似ています。
①主語が何人称かで、だいたい何かを判断する。
→一人称だったら、「意志」、二人称だったら、「適当」・「勧誘」、三人称だったら、「推量」と予想し、本文に照らし合わせて、合っているか必ず確認する。
②「む(ん)」の後ろに名詞があったら、「婉曲」、助詞があったら「仮定」と判断する。
→「む(ん)」の後ろが助詞であっても、名詞(こと・もの)が省略されている場合もあるので、助詞があるから「仮定」と決めつけるのは危険。
③結局のところ、助動詞「べし」と同じように、訳してみてどの意味になるかを判断する。
→この作業は避けて通れません。
④大学入試では、「推量」・「意志」・「婉曲」がよく出題されますので、この三つの見分け方を最優先に覚える。
→この三つは、古文の文章中に登場する回数が多いため。
大学入試で、実際に出題された「む(ん)」の問題を練習問題として用意しましたので、そちらもご参照下さい。
【朋誠堂喜三二作北尾政演画『廓花扇観世水』(安永八年刊)・市場通笑作『猫嫁入』(天明二年刊)を参考に挿入画を作成】
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