法政大学の古文の入試問題の解説(2014年)続き

では、前回の続きの2014年の文学部の古文の入試問題の後半の部分を学習します。

後半の文章と問題は以下の通りです。

後半の本文

「(幼帝)ことのついでありて、鄭衛の声【注1】を好まねど、礼楽の道捨つべきにはあらねば、聞き合はせまほしかりつる物の音をだに、金石糸竹をなべてやめたる【注2】ころにて、くちをしうも過ぎぬるかな。なほ早き月日の一巡りをだに、待ち過ごさざりつる恨みなむ、なにの深さも忘れぬべかりける」とのたまはすれど、深く思へるところを違へじの御掟なれば、③いとぞかひなき。「(幼帝)なほこの度は、待つ人【注3】もあながちに深き志背きがたければ、頼みがたきあだの命なれど、かのふたりののち【注4】まで、おのづから長らふる身ならば、いま一度は、思ひ立たれなんや。かくながら、惜しみとどめたらむよりも、それや深き志のほど知られん」とのたまはする御兼ね言も、涙にむせびて、えⒸ聞こえやらず。

(橘氏忠)限りあらむ命を更に惜しみてもⓑ君の御言をいかが忘れむ

(幼帝)これゆゑぞ我も命の惜しまれむただなほざりに頼めおくとも

「(幼帝)さらば長らふる身ともがな」とのたまはする御気色も、いとおよすげて、④けうらにぞおはします。

(『松浦宮物語』)

【注】注1 鄭衛の声-中国の春秋時代の鄭と衛という国の音楽を指す。人心を惑わすものとされていた。
注2 金石糸竹をなべてやめたるー「金石糸竹」は音楽の意。先帝の崩御後、喪に服しているため、音楽をすべて禁止しているという意味。
注3 待つ人ー氏忠の帰国を待っている両親を指す。
注4 かのふたりののちー「氏忠の両親の亡くなったあと」という意。

後半の設問

(設問は後半の部分のものを載せています。そのため、実際の設問の順序と異なります。)

問四 傍線③「いとぞかひなき」とあるが、なぜどうすることもできないのか。その理由として最も適切なものを次の中から一つ選べ。

ア 氏忠がいくら両親への思いを深くしても、先例により、すぐには帰国できないから。
イ 母后の、帝に対する愛情を尊重して定められた規則なので、臣下である氏忠には反論する余地はないから。
ウ 「氏忠と音楽が聴きたい」と帝が強く願っても、亡き父帝の喪に服する決まりに違反することはできないから。
エ どれほど母后に恋い焦がれても、身分が違うので、氏忠の思いが叶うことは絶対にありえないから。
オ 氏忠の帰国は、彼の強い願いを汲んでそれに背くまいと、母后が取り計らわれたことだから。

問五 傍線Ⓒ「聞こえやら」の敬語の種類として最も適切なものを次の中から一つ選べ。

ア 尊敬語      イ 謙譲語      ウ 丁寧語

問六 傍線ⓑ「君の御言」の内容として、最も適切なものを次の中から一つ選べ。

ア 氏忠の功労は一生忘れないよ。
イ 再び唐に来ると決心なさらないか。
ウ 帰国について、もう一度考え直してください。
エ 帰国後は、以前のように、また両親に孝行をつくしておくれ。
オ 唐と日本に離れても、ともに長生きをし、互いに忘れないようにしましょう。

問七 傍線④「けうらに」の本文中における意味として最も適切なものを次の中から一つ選べ。

ア 美しくて
イ かわいらしく
ウ おとなびて
エ 聡明で
オ さびしそうで

問八 『松浦宮物語』を著したとされている藤原定家は勅撰和歌集の撰者でもある。次の中から勅撰和歌集ではない歌集を一つ選べ。

ア 千載和歌集
イ 後撰和歌集
ウ 古今和歌集
エ 金槐和歌集
オ 新古今和歌集

後半の設問の解説

まず、問四の傍線の理由を答える問題を見てみましょう。
どうすることもできない理由は、傍線③の直前にある「御掟なれば(御決まりであるので)」とあるので、御決まりがあるからどうすることもできないのですが、その御決まりとは、具体的に何かということを探さなければなりません。そこで本文から探すのですが、実は「御決まり」の内容は本文には書かれていません。「御決まり」の内容が書かれているのは、本文前にある作品の解説の部分です。具体的には「それを知った母后はその功績に報い、氏忠の帰国を決定した」という部分です。母后の決定について書かれている選択肢は、オしかありません。

問四の正解:オ 氏忠の帰国は、彼の強い願いを汲んでそれに背くまいと、母后が取り計らわれたことだから。

次に、問五の敬語の種類の問題を見ましょう。
「聞こえやら」の「聞こえ」は、「聞こゆ」という謙譲語で、意味は「申し上げる」です。「やる」は、「最後までし終える」という意味を上の動詞に添える補助動詞で「え聞こえやらず」で、「最後まで申し上げることができない」という意味になります。

問五の正解:イ 謙譲語

次に、問六の傍線の具体的な内容を答える問題を見てみましょう。この問題は想像力を要する今回の入試問題の中の一番の難問です。
まず、「君の御言(帝のお言葉)」とありますので、幼帝の言葉をまず探します。幼帝のセリフになっている文章が二箇所ありますが、氏忠の和歌に対応しているのは、直前のセリフ「なほこの度は~ほど知られん」です。
次に、氏忠の和歌の中に「命を更に惜しみても」とありますので、直前のセリフの中で「」について言っている箇所を探します。「頼みがたきあだのなれど、かのふたりののちまで、おのづから長らふる身ならば、いま一度は、思ひ立たれなんや。」という箇所があり、ここが「君の御言」になります。あとは、訳ができればよいのですが、最後の部分の「いま一度は、思ひ立たれなんや(もう一度、ご決心してくれないであろうか)」をさらに分析しなければなりません。「氏忠が決心すること」とは、日本に帰ったあと、再び唐へ戻ってくることで、これは、帝がそれぐらい氏忠を重宝しているということをあらすじや本文の記述から想像しなければなりません。「唐へ戻ってくる」ことについて述べている選択肢はイになります。

問六の正解:イ 再び唐に来ると決心なさらないか。

次に、問七の単語の意味の問題を見ましょう。
「けうらに」は「けうらなり」というナリ活用の形容動詞で意味は「美しい」です

問七の正解:ア 美しくて

最後に、問八の勅撰和歌集でないものを選ぶ問題を見てみましょう。
選択肢の中で勅撰和歌集でないものは、エの「金槐和歌集」です。
「金槐和歌集」は、源実朝の私家集です。その他の選択肢は勅撰和歌集(八代集)です。
八代集は覚え方がありますので、ここで確認しておきましょう。

周囲に、ごしゅうい(ご注意)、せんしんじゃうよ。』

古今和歌集きんわかしゅう)、②後撰和歌集(ごせんわかしゅう)、③拾遺和歌集しゅういわかしゅう)、④後拾遺和歌集ごしゅういわかしゅう)、⑤金葉和歌集きんようわかしゅう)、⑥詞花和歌集(しかわかしゅう)、⑦千載和歌集せんざいわかしゅう)、 ⑧新古今和歌集しんこきんわかしゅう)

成立順にゴロになっています。漢字で書く場合は漢字を覚えていなければなりませんが、今回のような選択肢の問題では充分に対応できますので、覚えておきましょう。

問八の正解:エ 金槐和歌集

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現代語訳

幼い新帝は、「物事には機会があって、私は鄭衛の音楽を好まないが、礼儀と音楽の道を捨てるべきではないと考えているので、(礼楽の道を行いたかったが)、そなたと一緒に聞きたいと思っていた音楽でさえ、先帝が亡くなり、楽器をすべて禁止している時であったため聞けず、残念に月日が過ぎてしまったなあ。やはりその早い月日の経過を、そなたが待って過ごしてくれなかったことの恨みは、いかなる思いの深さもきっと忘れてしまうのだろう。」とおっしゃったが、氏忠が帰国を決めた思いを変えないとの皇后の御決定であるので、本当に③仕方がないことであった
幼い新帝は、「やはりこの度は、そなたの帰国を待つ人(両親)がひたむきに深い気持ちでいるということに背きにくいので、頼みがたいはかない命ではあるが、そなたの両親が亡くなったのち、もしそなたが長生きする身であるなら、もう一度、こちらへ戻ってくることを御決心してくれないだろうか。このままの状態で、別れを惜しんでここに留めるよりも、帰国させた方が深い志を知られるだろう。」とおっしゃった約束の言葉も、涙にむせて、Ⓒ最後まで申し上げることができない。

「限りあらむ」の歌―寿命が決まっているような命をさらに惜しんでも、ⓑ帝の御言葉をどうして私が忘れるでしょうか。いや忘れません。

「これゆゑぞ」の歌―そなたの歌を理由に私も命を惜しみましょう。ただいい加減に頼んでおいたとしても。

幼い新帝は、「それでは、お互いに長生きする身であってほしいものだなあ」とおっしゃっるご様子も、とても老成していて、④美しくいらっしゃる。

いかがでしたでしょうか。

問五、問七、問八は基礎的な問題ですので、合格するためには間違えてはいけない問題となっております。問四は、本文前に書かれているあらすじを踏まえて答える問題でしたが、これは他の大学の問題でも言えることですが、本文の前に何らかの説明がある場合は、それがないと問題が解けないので、わざわざ説明を入れているということがほとんどですので、本文の前にある解説は絶対に注目しておくことを覚えておきましょう。問六は、和歌の内容の問題でしたが、和歌の解釈の問題は、基本的に難問です。和歌は、比喩や擬人化など抽象的な内容が多く、想像力が必要になります。歌物語などをたくさん読んで慣れていく以外、解決策はありません。

いやー、今回も難しかったです。
特に和歌の解釈が・・・。
和歌は慣れが必要なんですね。
兎の股引(何かをやって続かない人のたとえ)にならないように頑張って勉強します。

何事も継続が大事ですからね。
うさぎさんも頑張ってください。

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