では、「初冠」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
「初冠」本文
その男、信夫摺【注1】の狩衣【注2】をなむ着たりける【注3】。
春日野【注4】の若紫【注5】のすりごろも【注6】しのぶ【注7】の乱れかぎり【注8】しられず【注9】
となむ追ひつきて【注10】言ひやりける【注11】。ついで【注12】おもしろき【注13】ことともや思ひけむ【注14】。
みちのくのしのぶもぢずりたれゆゑ【注15】に乱れそめにし【注16】われなら【注17】なくに【注18】
といふ歌の心ばへ【注19】なり【注20】。昔人は、かくいちはやき【注21】みやびをなむしける【注22】。
「初冠」重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 信夫摺 | 名詞。陸奥国の信夫郡の名産の忍草を摺りつけて染めた布のこと。 |
2 狩衣 | 名詞。男性貴族の平服。 |
3 着たりける | カ行上一段動詞「着る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「着ていた」。「ける」は係助詞「なむ」に呼応している。
係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
4 春日野 | 名詞。男が所領していた春日の地のこと。 |
5 若紫 | 名詞。若い紫草のこと。「若紫」は「女はらから」の比喩。 |
6 すりごろも | 名詞。信夫摺の衣は、忍草を擦り付けて色を付ける。 |
7 しのぶ | 地名。掛詞で「信夫」と「偲ぶ」を掛けている。 |
8 かぎり | 名詞。意味は「限界」。 |
9 しられず | ラ行四段動詞「しる」の未然形+可能の助動詞「る」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「知られない」。 |
10 追ひつきて | 連語。意味は「大人ぶって」と「すぐさま」の二つに解釈が分かれている。 |
11 言ひやりける | ラ行四段動詞「言ひやる」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「詠み渡した」。「ける」は係助詞「なむ」に呼応している。 |
12 ついで | 名詞。意味は「機会・場面」。 |
13 おもしろき | ク活用形容詞「おもしろし」の連体形。意味は「風流だ」。 |
14 思ひけむ | ハ行四段動詞「思ふ」の連用形+過去推量の助動詞「けむ」の連体形。意味は「思ったのだろう」。「けむ」は係助詞「や」に呼応している。 |
15 ゆゑ | 名詞。意味は「せい・原因」。 |
16 乱れそめにし | マ行下二段動詞「乱れそむ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「乱れ出してしまった」。「そめ」は掛詞で、「染め」と「初め」が掛かっている。
「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
17 なら | 断定の助動詞「なり」の未然形。 |
18 なくに | 連語。意味は「ないのに・ないものを」。 |
19 心ばへ | 名詞。意味は「趣向」。 |
20 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
21 いちはやき | ク活用形容詞「いちはやし」の連体形。意味は「熱烈である」。 |
22 しける | サ変動詞「す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「したのだった」。「ける」は係助詞「なむ」に呼応している。 |
「初冠」現代語訳
その男は、信夫摺りの狩衣を着ていた(のだった)。春日の地の若紫のようなあなた方を見て、私はこの信夫摺りの狩衣の乱れ模様のように、恋い慕い、心の乱れに限界がありません。
と、大人ぶって(orすぐさま)歌を詠んで渡した。その場面に合った趣のあることとでも思ったのだろうか。(また、この和歌は)
陸奥の国の信夫摺りの乱れ模様のように、誰かのせいで心が乱れ出してしまったのでしょうか。私のせいではありません(美しいあなたのせいなのです)。
という古歌の趣向(を踏まえたもの)である。昔の人は、このように熱烈で風流なことをしたのだった。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・和歌は現代語訳ができるようにしておきましょう。
・注7と16にある掛詞が分かるようにしておきましょう。
(注7→「信夫」と「偲ぶ」、注16→「染め」と「初め」)
ありがとうございました。
とても勉強になりました。
それは良かった。
想いを伝えるには
和歌が一番ですので、
権兵衛さんも贈ったら
いかがですか?
なので、ビットコイン
プレゼントします。
……。何か違う…。
でも、時代に合って
いるのかなぁ…。