お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
ただいまー。
おかえりなさい。
倉橋先生。
また、先に始めさせて
いただいてまーす。
いただいてまーす。
こらっ!また勝手に
人の家に忍び込んで、
酒盛りするんじゃない。
早く帰ってください!!
あっ、いた!
牛さん、何してるの?
急がないと会長選挙の
打ち合わせ始まるよ。
打ち合わせ始まるよ。
えっ?会長選挙って何?
会長まだ、ご健在じゃん。
会長はこの前の
「虫との戦い」で
亡くなられたんです。
会長の遺言で、第13代の
会長選挙、来月やるんだよ。
「虫との戦い」で
亡くなられたんです。
会長の遺言で、第13代の
会長選挙、来月やるんだよ。
……。
(どっかで聞いたことがある話だな…。)
それで、前会長が
細かい日程とか
細かい日程とか
記入方法とかを十二支で
決めてくれってさ。
(猿まで出てきた!!)
(大丈夫か?本家に怒られないか?)
牛よ。早くしないと、
副会長のネズミの
「チュー殿様」が
「チュー殿様」が
会長になってしまうぞ。
(チュー殿様!!)
(中央大学の入試解説の際に出会ったネズミ)
(あの人、副会長だったんだ…。)
それはまずい。
酒なんて飲んでられない。
倉橋先生、これにて失礼。
さようなら。あっ、最後に
聞きたいことがあります。
聞きたいことがあります。
会長選挙って言ってましたが
皆さんはどこの団体に
所属しているのですか?
所属しているのですか?
私たちですか?
盗人協会です。
似てる!!
あの国民的マンガにすごく似ている!!
倉橋先生。ついでだから、
「馬盗人」の話、
講義して下さい。
「盗人協会会長選挙編」だけに…。
講義して下さい。
「盗人協会会長選挙編」だけに…。
「会長選挙編」って、言っちゃったよー。
わかりました。
「馬盗人」の講義、致しましょう。
本文
今は昔、河内の前司【注1】、源頼信朝臣といふ兵ありき【注2】。東によき【注3】馬持たり【注4】と聞きける【注5】者のもとに、この頼信朝臣乞ひ【注6】にやりたりけれ【注7】ば、馬の主いなびがたく【注8】てその馬を上せける【注9】に、道にして【注10】馬盗人ありて、この馬を見【注11】て、きはめて【注12】欲しく思ひければ、「構へて【注13】盗まむ【注14】。」と思ひて、ひそかに【注15】付きて上りけるに、この馬に付きて上る兵どもの【注16】たゆむ【注17】ことの【注18】なかりけれ【注19】ば、盗人、道の間にて【注20】はえ取らず【注21】して【注22】、京まで付きて、盗人上りにけり【注23】。馬は率【注24】て上せにけれ【注25】ば、頼信朝臣の厩に立てつ【注26】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 河内の前司 | 名詞。河内(大阪府東部)の国の前任の国司のこと。 |
2 ありき | ラ変動詞「あり」の連用形+過去の助動詞「き」の終止形。 |
3 よき | ク活用の形容詞「よし」の連体形。 |
4 持たり | ラ変動詞「持たり」の終止形。「持てあり」が転じたもの。意味は「持っている」。 |
5 聞きける | カ行四段動詞「聞く」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。 |
6 乞ひ | ハ行四段動詞「乞ふ」の連用形。意味は「求める」。 |
7 やりたりけれ | ラ行四段動詞「やる」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「行かせた」。 |
8 いなびがたく | ク活用の形容詞「いなびがたし」の連用形。意味は「断りにくい」。 |
9 上せける | サ行下二段動詞「上す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「上らせた」。 |
10 して | 格助詞。意味は「~で」。 |
11 見 | マ行上一段動詞「見る」の連用形。 |
12 きはめて | 副詞。意味は「非常に」。 |
13 構へて | 副詞。意味は「必ず」。 |
14 盗まむ | マ行四段動詞「盗む」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「盗もう」。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
15 ひそかに | ナリ活用の形容動詞「ひそかなり」の連用形。意味は「こっそり」。 |
16 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
17 たゆむ | マ行四段動詞「たゆむ」の連体形。意味は「油断する」。 |
18 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。 |
19 なかりけれ | ク活用の形容詞「なし」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「なかった」。 |
20 にて | 格助詞。意味は「~で」。
「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
21 え取らず | 副詞「え」+ラ行四段動詞「取る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。意味は「取ることができない」。 |
22 して | 接続助詞。意味は「~て・~で」。 |
23 上りにけり | ラ行四段動詞「上る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「上ってしまった」。 |
24 率 | ワ行上一段動詞「率る」の連用形。意味は「連れていく」。 |
25 上せにけれ | サ行下二段動詞「上す」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「上らせてしまった」。 |
26 立てつ | タ行下二段動詞「立つ」の連用形+完了の助動詞「つ」の終止形。意味は「置いた」。 |
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現代語訳
今となっては昔のことだが、河内の国の前の国司で、源頼信朝臣という武将がいた。東国によい馬を持っていると噂で聞いた者のもとに、この頼信朝臣が(馬を)求めて(使いを)行かせたので、馬の持ち主は断りにくくて、その馬を京へ上らせた際に、その道中で馬盗人がいて、この馬を見て、非常に欲しく思ったので、「必ず盗もう。」と思い、こっそり(馬を届ける使いに)付いて上ったのであるが、この馬に付いて上る使いの武士たちが油断することがなかったので、盗人は、道中では(馬を)盗むことができなくて、京まで付いて、盗人は上ってしまった。馬は連れて行って上らせてしまったので、頼信朝臣の厩(うまや)の中に入れて置いた。
いかがでしたでしょうか。
この箇所では、特に重要な文法事項はありません。
しいていうなら、「上る」と「上す」は意味が異なりますので、訳す時に注意しておきましょう。
続きは以下のリンクからどうぞ。
【鳥居清満画『陰陽十二支記噺』(明和八年刊)を参考に挿入画を作成】