『笈の小文』「造化にしたがひ造化にかへれ」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
  
  
よーし。
今日は西友が
5%offだから
たくさん買い物するぞ!
  
  
  
  
  
  
すいませーん。
善光寺って、
どちらでしょうか?
  
  
  
  
えっ?
善光寺って、
信濃の善光寺の
ことですか?
  
  
  
そうです。
「牛に乗って善光寺参り」
で有名なあの御寺です。
  
  
  
  
  
それを言うなら
牛に引かれて善光寺参り
ですよ。ここ江戸ですよ。
信濃までめっちゃ
遠いですよ。
  
※「牛に引かれて善光寺参り」とは、「思いがけないことから、よい方へ導かれる」という慣用句です。
  
  
  
ありゃ、間違えたー。
家から牛に乗って
わざわざ来たのに…。
  
  
  
それはお気の毒に。
牛で行くと、1ヶ月
くらいかかるんじゃ
ないですか。
  
  
  
  
  
そうですか。
じゃあ、新幹線で行くか。
新幹線って、
牛、乗れましたっけ?
  
  
  
乗れないです(笑)。
牛が新幹線乗ってるところ
見たことないでしょ。
  
  
  
  
  
  
確かに。それじゃあ。
牛、邪魔だなあー。
お侍さん、牛飼いません?
  
  
  
いらないですよ。
そんな大きい牛。
家の庭に入りませんよ。
  
  
  
  
  
そうですか…。
ところで、お侍さん。
賢そうですね。
松尾芭蕉の『笈の小文』
冒頭、ご存知ですか?
  
  
  
はい。
なかなかの名文ですよね。
  
  
  
  
  
  
そこ、よかったら、
講義してくれませんか?
是非、聞きたいなぁ。
  
  
  
  
分かりました。
講義致しましょう。
  
  
  
  

本文

 百骸九竅【注1】の中にものあり。かりに名づけて風羅坊【注2】といふ。まことにうすもの【注3】【注4】風に破れやすからん【注5】ことをいふにや【注6】あらん【注7】。かれ狂句【注8】を好むこと久し【注9】。つひに生涯のはかりごと【注10】なす【注11】。ある時は倦み【注12】放擲せん【注13】ことを思ひ、ある時は進んで人に勝たん【注14】ことを誇り、是非【注15】胸中にたたかうて、これがために身安からず【注16】。しばらく身を立てん【注17】ことを願へども、これがために障へられ【注18】、しばらく学んで愚をさとらん【注19】ことを思へども、これがために破られ【注20】、つひに無能無芸【注21】して、ただこの一筋につながる。

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 百骸九竅 名詞。人体を構成している多数の骨と九つの穴のこと。転じて人の身体のこと。
2 風羅坊 名詞。松尾芭蕉のこと。
3 うすもの 名詞。羅(ら)などの薄く織った絹織物のこと。
4 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

5 破れやすからん ク活用の形容詞「破れやすし」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「破れやすいような」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

6 にや 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。

「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「に」の識別の解説

7 あらん ラ変動詞「あり」の未然形+推量の助動詞「ん」の連体形。意味は「あろう」。「ん」は係助詞「や」に呼応している。
8 狂句 名詞。俳諧で、滑稽な技巧を駆使している句のこと。
9 久し シク活用の形容詞「久し」の終止形。
10 はかりごと 名詞。生活していくための仕事のこと。
11 なす サ行四段動詞「なす」の終止形。意味は「する・みなす」。
12 倦み マ行四段動詞「倦(う)む」の連用形。意味は「いやになる」。
13 放擲せん サ変動詞「放擲す」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「投げ出すような」。

※「ん」は意志の助動詞とする説もある。その際、意味は「投げだそう」。

14 勝たん タ行四段動詞「勝つ」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「勝つような」。

※「ん」は意志の助動詞とする説もある。その際、意味は「勝とう」。

15 是非 名詞。意味は「正しいことと正しくないこと」。
16 安からず ク活用の形容詞「安し」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「穏やかでない・安らかでない」。
17 立てん タ行下二段動詞「立つ」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「立てるような」。

※「ん」は意志の助動詞とする説もある。その際、意味は「立てよう」。

18 障へられ ハ行下二段動詞「障(さ)ふ」の未然形+受身の助動詞「らる」の連用形。意味は「邪魔される・妨げられる」。
19 さとらん ラ行四段動詞「さとる」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「悟るような」。

※「ん」は意志の助動詞とする説もある。その際、意味は「悟ろう」。

20 破られ ラ行四段動詞「破る」の未然形+受身の助動詞「る」の連用形。
21 に 断定の助動詞「なり」の連用形。

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現代語訳

 多数の骨と九つの穴で構成されている人体の中にある「もの」がある。それを仮に名付けて風羅坊という。本当に薄い織物が風に破れやすいようなことを言うのであろうか。彼は俳諧の狂句を好むことが長く続いている。終に生涯の仕事としている。ある時は嫌になって投げ出すようなことを思い、ある時は進んで人に勝つようなことを誇り、(それと)正しいか正しくないかを胸中で戦わせて、そのために心身が安らかでない(こともあった)。ある時は立身出世するようなことを願ったが、俳諧のために妨げられ、しばらく仏道を学んで自分の愚かさを悟るようなことも思ったが、俳諧の狂句のために(その志を)破られて、結局、無能無芸で、ただこの一筋につながるのである。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・助動詞「ん」が訳せるようにしておきましょう(注5・7・13・14・17・19)。

・「にやあらん」が訳せるようにしておきましょう(注6と7)。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『笈の小文』「造化にしたがひ造化にかへれ」の現代語訳と重要な品詞の解説2

  

【西川祐信画『絵本倭比事』(寛保二年刊)を参考に挿入画を作成】

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