では、「造化にしたがひ造化にかへれ」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
『笈の小文』「造化にしたがひ造化にかへれ」の現代語訳と重要な品詞の解説1
本文
西行【注1】の【注2】和歌における、宗祇【注3】の連歌における、雪舟【注4】の絵における、利休【注5】が茶における、その貫道【注6】する【注7】ものは一なり【注8】。しかも風雅【注9】におけるもの、造化【注10】にしたがひて四時【注11】を友とす。見る【注12】ところ、花に【注13】あらず【注14】といふことなし【注15】。思ふところ、月にあらずといふことなし。像【注16】、花にあらざる【注17】時は、夷狄【注18】にひとし【注19】。心、花にあらざる時は、鳥獣に類す【注20】。夷狄を出で【注21】、鳥獣を離れて、造化にしたがひ、造化にかへれ【注22】となり【注23】。
神無月【注24】の初め、空定めなきけしき【注25】、身は風葉【注26】の行く末なき心地して、
旅人と我が名よばれん【注27】初しぐれ【注28】
また山茶花【注29】を宿々にして
磐城【注30】の住、長太郎といふもの、この脇【注31】を付けて、其角亭【注32】において関送り【注33】せん【注34】ともてなす。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 西行 | 平安時代後期の歌人、僧。 |
2 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
3 宗祇 | 鎌倉時代後期の連歌師。 |
4 雪舟 | 室町時代後期の画僧。 |
5 利休 | 安土桃山時代の茶人。千利休。 |
6 貫道 | 名詞。諸道の根本精神を貫くもののこと。 |
7 する | サ変動詞「す」の連体形。 |
8 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
9 風雅 | 名詞。ここでは、俳諧のこと。 |
10 造化 | 名詞。意味は「自然・天然」。 |
11 四時 | 名詞。春夏秋冬の四つの季節の総称。四季。 |
12 見る | マ行上一段動詞「見る」の連体形。 |
13 に | 断定の助動詞「なり」の連用形。
「に」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
14 あらず | ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。 |
15 なし | ク活用の形容詞「なし」の終止形。 |
16 像 | 名詞。意味は「物の形」。読みは「かたち」。 |
17 あらざる | ラ変動詞「あり」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。 |
18 夷狄 | 名詞。意味は「野蛮人」。 |
19 ひとし | シク活用の形容詞「ひとし」の終止形。意味は「同じ」。 |
20 類す | サ変動詞「類す」の終止形。意味は「同類のものになる」。 |
21 出で | ダ行下二段動詞「出づ」の連用形。 |
22 かへれ | ラ行四段動詞「かへる」の命令形。意味は「帰れ」。 |
23 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
24 神無月 | 陰暦十月の異称。 |
25 けしき | 名詞。意味は「有様・様子」。 |
26 風葉 | 名詞。意味は「風に吹き散る木の葉」。 |
27 よばれん | バ行四段動詞「よぶ」の未然形+受身の助動詞「る」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「呼ばれよう」。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
28 初しぐれ | 名詞。その年に初めて降るしぐれのこと。 |
29 山茶花 | 名詞。読みは「さざんか」。 |
30 磐城 | 地名。読みは「いわき」。 |
31 脇 | 名詞。脇句(発句の次につける七・七の句)のこと。 |
32 其角亭 | 連語。芭蕉の弟子の宝井其角の住まいのこと。 |
33 関送り | 名詞。意味は「見送り・送別」。 |
34 せん | サ変動詞「す」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。意味は「しよう」。 |
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現代語訳
西行が和歌においてしたこと、宗祇が連歌においてしたこと、雪舟が絵においてしたこと、千利休が茶においてしたこと、それらの道に根本的に貫くものは同一である。しかも俳諧におけるものは、自然のままに従って、四季の流れを友とするものである。見るものが花ではないということはない。思うことが月ではないことはない。(その人が見る)物の形が花ではない時は、野蛮人と同じである。心に感じるものが花でない時は、鳥獣と同類のものになる。野蛮人を抜け出して、鳥獣を離れて、自然のままに従って、自然に戻れというものである。
神無月の初め、空が変わりやすい有様で、我が身は風に吹き散る木の葉の行末がないのと同じような心地がして、
「旅人よ」と自分の名が呼ばれたいものだ、この初時雨に
また山茶花のある宿を泊まり重ねて
磐城の住人、長太郎という者が、この脇句(「また山茶花を」の句)を付けて、其角の屋敷で、送別しようともてなしてくれた。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・注27「よばれん」が訳せるようにしておきましょう。
・俳諧の発句(「旅人と」の句)と脇句(「また山茶花を」の句)の意味が分かるようにしておきましょう。
ありがとうございました。
やはり、俳文の冒頭は
趣があっていいですね。
そうですね。
芭蕉は特に冒頭に
力を入れてますもんね。
あっ、新幹線に
間に合わない。
お侍さん、牛いりません?
いらないですよー。
置いてかないで
ください。
分かりました。
牛、連れて行きます。
その代わり、猫、
置いていきますね。
…。
また、来たよ。