では、続きを見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
『讃岐典侍日記』「しるしの箱」の現代語訳と重要な品詞の解説1
本文
「せめて【注1】苦しくおぼゆる【注2】に、かくして試みむ【注3】。休まりやする【注4】。」と仰せられ【注5】て、御枕上なる【注6】しるしの箱【注7】を御胸の上に置かせ給ひたれ【注8】ば、まことにいかに【注9】堪へ【注10】させ給ふらむ【注11】と見ゆる【注12】まで、御胸の揺るぐ【注13】さまぞ、ことのほかに【注14】見えさせ給ふ【注15】。御息も、絶え絶えなる【注16】さまにて、聞こゆ【注17】。顔も見苦しからむ【注18】と思へど、かくおどろか【注19】せ給へ【注20】る【注21】折にだに【注22】、物参らせ【注23】試みむ【注24】とて、顔に手を紛らはしながら、御枕上に置きたる【注25】御粥や蒜【注26】などを、もしやと含め【注27】参らすれ【注28】ば、少し召し【注29】、また大殿籠りぬ【注30】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 せめて | 副詞。意味は「ひどく」。 |
2 おぼゆる | ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の連体形。意味は「感じる」。 |
3 試みむ | マ行上二段動詞「試む」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。 |
4 やする | 係助詞「や」+サ変動詞「す」の連体形。
係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
5 仰せられ | サ行下二段動詞「仰す」の未然形+尊敬の助動詞「らる」の連用形。仰すは「言ふ」の尊敬語。意味は「おっしゃる」。 |
6 なる | 存在の助動詞「なり」の連体形。意味は「~にある」。 |
7 しるしの箱 | 名詞。三種の神器の一つである「八尺瓊勾玉(やさかにのまがたま)」の入った箱のこと。 |
8 せ給ひたれ | 尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形+完了の助動詞「たり」の已然形。「せ給ひ」は二重尊敬。 |
9 いかに | 副詞。意味は「どのように」。 |
10 堪へ | ハ行下二段動詞「堪ふ」の未然形。 |
11 させ給ふらむ | 尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形+現在の原因推量の助動詞「らむ」の終止形。 |
12 見ゆる | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連体形。意味は「思われる」。 |
13 揺るぐ | ガ行四段動詞「揺るぐ」の連体形。 |
14 ことのほかに | ナリ活用の形容動詞「ことのほかなり」の連用形。意味は「思いのほか」。 |
15 見えさせ給ふ | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形+尊敬の助動詞「さす」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の終止形。「させ給ふ」は二重尊敬。意味は「お見えになる」。 |
16 絶え絶えなる | ナリ活用の形容動詞「絶え絶えなり」の連体形。意味は「途切れ途切れになっている」。 |
17 聞こゆ | ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の終止形。意味は「聞こえる」。 |
18 む | 推量の助動詞「む」の終止形。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
19 おどろか | カ行四段動詞「おどろく」の未然形。意味は「目を覚ます」。 |
20 せ給へ | 尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の已然形。「給へ」は尊敬語。二重尊敬。 |
21 る | 完了の助動詞「り」の連体形。 |
22 だに | 副助詞。意味は「~だけでも」。 |
23 参らせ | サ行下二段動詞「参らす」の連用形。「与ふ」の謙譲語。意味は「差し上げる」。 |
24 試みむ | マ行上二段動詞「試む」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。 |
25 たる | 存続の助動詞「たり」の連体形。 |
26 蒜 | 名詞。読みは「ひる」。にんにくのこと。 |
27 含め | マ行下二段動詞「含(くく)む」の連用形。意味は「口の中に含ませる」。 |
28 参らすれ | サ行下二段活用の補助動詞「参らす」の已然形。意味は「~差し上げる」。 |
29 召し | サ行四段動詞「召す」の連用形。「食ふ」の尊敬語。意味は「召しあがる」。
重要な尊敬語「召す」については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
30 大殿籠りぬ | ラ行四段動詞「大殿籠る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の終止形。意味は「お休みになった」。 |
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現代語訳
「ひどく苦しく感じるので、このようにして試してみよう。休めるだろうか。」とおっしゃって、枕の上にあるしるしの箱を胸の上に置きなさったところ、本当にどのようにして堪えなさっているのだろうかと思われるぐらい、胸の揺れ動く様子が、思いのほかに(激しく)お見えになる。
息も、途切れ途切れの様子に聞こえる。(私の顔も)見苦しいであろうと思ったけれど、このようにお目覚めになられた時だけでも、食べ物を差し上げてみようと思って、顔に手をかざして隠しながら、枕元に置いているお粥やにんにくなどを、もしかしたらと思い、天皇の御口に含み差し上げたところ、少しお召し上がりになり、また、お休みになられた。
息も、途切れ途切れの様子に聞こえる。(私の顔も)見苦しいであろうと思ったけれど、このようにお目覚めになられた時だけでも、食べ物を差し上げてみようと思って、顔に手をかざして隠しながら、枕元に置いているお粥やにんにくなどを、もしかしたらと思い、天皇の御口に含み差し上げたところ、少しお召し上がりになり、また、お休みになられた。
いかがでしたでしょうか。
敬語表現がたくさん出てきますが、すべて天皇に対する敬意ですので、それほど難しくありません。一方、助動詞の「む」が複数でてきますが、意味が「推量」の場合と「意志」の場合がありますで、見分けられるようにしておきましょう。
また、前回の文章と同様に、「参ら」が本動詞の場合と補助動詞の場合がありますので、これも見分けられるようにしておきましょう。
ありがとうございました。
懸命にお世話をする女官の
思いがよく分かりました。
これを教訓に宮中への
仕官を頑張ります。
そうですか。
では、頑張ってください。
はい。
お礼と言ってはなんですが、
猫を差し上げます。
では、これに失礼。
・・・。
二匹目・・・。