『忍音(しのびね)物語』「偽りの別れ」の現代語訳と重要な品詞の解説5

では、両親との息子との別れの場面を見てみましょう。

前回の解説はこちら。

『忍音(しのびね)物語』「偽りの別れ」の現代語訳と重要な品詞の解説4

本文

 中納言、殿【注1】参り【注2】給へ【注3】ば、いつよりもはなやかに【注4】ひきつくろひ【注5】給へ【注6】を、殿・母上は、いとうつくし【注7】おぼしたり【注8】。親たちに見え奉らん【注9】も、ただ今ばかりぞかし【注10】、もの思は【注11】奉らんこと【注12】【注13】罪深く、いと恐ろしけれ【注14】ど、まことの道【注15】に入り【注16】ば、つひには助け奉らん【注17】と、心強くおぼし【注18】返す。
若君の、何心なく走りありき給ふぞ、目もくれてかなしくおぼさるる【注19】。わが方へおはし【注20】て、御身のしたためよくして、姫君の御方への【注21】書き給ふに、涙のこぼれ出でて、文字も見えず【注22】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 殿 名詞。中納言の父の内大臣のこと。
2 参り ラ行四段動詞「参る」の連用形。「行く」の謙譲語。
3 給へ ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の已然形。尊敬語。
4 はなやかに ナリ活用の形容動詞「はなやかなり」の連用形。
5 ひきつくろひ ハ行四段動詞「ひきつくろふ」の連用形。意味は「身なりを整える」。
6 る 存続の助動詞「り」の連体形。
7 うつくし シク活用の形容詞「うつくし」の終止形。
8 おぼしたり サ行四段動詞「おぼす」の連用形+存続の助動詞「たり」の終止形。意味は「お思いになっている」。
9 見え奉らん ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「お目にかけ差し上げるような」。「ん」の後ろに「こと」という名詞が省略されている。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

10 かし 終助詞。念を押し意味を強める。意味は「~よ。・~ね。」。
11 せ 使役の助動詞「す」の連用形。意味は「~させる」。
12 奉らんこと ラ行四段動詞「奉る」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形+名詞「こと」。意味は「差し上げるようなこと」。
13 の

格助詞の主格。意味は「~が」。
助詞「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

14 恐ろしけれ シク活用の形容詞「恐ろし」の已然形。
15 まことの道 名詞。仏道のこと。
16 な 強意(確述)の助動詞「ぬ」の未然形。
17 奉らん ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の未然形+推量の助動詞「ん」の終止形。意味は「差し上げよう」。
18 おぼし サ行四段動詞「おぼす」の連用形。「思ふ」の尊敬語。
19 おぼさるる サ行四段動詞「おぼす」の未然形+自発の助動詞「る」の連体形。
20 おはし サ変動詞「おはす」の連用形。「居る」の尊敬語。意味は「いらっしゃる」。
21 文 名詞。手紙のこと。
22 見えず ヤ行下二段動詞「見ゆ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。

スポンサーリンク

現代語訳

 中納言は父・内大臣の館へ参りなさったところ、普段より華麗に身なりを整えていらっしゃるのを、内大臣と母上はとても立派だとお思いになっている。両親にお目にかけ差し上げるようなことも、今日が最後だぞ(と思い)、(また両親を)悩ませ差し上げるようなことが、たいへん罪深く、恐ろしい(ことだと感じた)が、きっと仏道に入ったなら、最後は助け差し上げることになるだろうと、気持ちを強く持ち、お思い返しなさった。
息子の若君が、無心で走り廻りなさるのを(見て)、涙で目が暗くなり、悲しくお思いなさる。中納言は自分の部屋にいらっしゃって、出家の準備をして、姫君はの手紙を書きなさるが、涙がこぼれ出て、文字も見えない。

いかがでしたでしょうか。

中納言、両親、息子が登場し、そのすべてに敬語表現が使われているため、一見誰に対する敬意かが判断しにくいかもしれません。しかし、この場面で出てくる謙譲語は、すべて両親に対する敬意ですので、謙譲語の判断はそれほど難しくありません。また、尊敬語に関しても、両親と息子に対する敬語表現は、その文の冒頭に「殿・母上は」や「若君の」というように主語がきちんと書いてありますので、こちらもそれほど難しくありません。敬語表現はきちんと主語と動作を確認すれば、だれに対する敬意かが分かりますので、よく文章を読みましょう。

いやー。
長かったですねー。
でも、感動しました。
次は、家を出るシーンですか?

いや、もうここで私の話は終わりです。
興味がおありなら、図書館で本を借りて続きを読んでください。

ええーー。
続き話してくれないの?
ひどいなあー、
ここまで時間使わせといて。

えっ、そうですか?

どうしてもというなら、お金取りますがよろしいですか?

ええーーー。
お金取るのー。
いい商売だなあ。
勉強になりました…。

シェアする

スポンサーリンク