では、「猿、恩を知ること」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
『沙石集』「猿、恩を知ること」の現代語訳と重要な品詞の解説1
本文
その後、栗のさかりに、さきの布の袋に栗を入れて、隙にまた持て来たる【注1】。このたびは、猿を捕らへ【注2】て置きて、子息を呼びて、この次第を語りて、「子々孫々までも、この所に猿殺さしめじ【注3】と、起請【注4】を書け。もしさらず【注5】は、母子の儀あるべからず【注6】。」と、おびたたしく【注7】誓状しけれ【注8】ば、子息、起請書きて、当時【注9】までも、この所に猿を殺さぬ【注10】よし、ある人語りき【注11】。所の名までは書かず。
人として恩を知らざらん【注12】は、げに【注13】畜類にもなほ【注14】劣れり【注15】。近代は父母を殺し、師匠を殺す者、聞こえ侍り【注16】。かなしき【注17】濁世【注18】のならひ【注19】なるべし【注20】。
人として恩を知らざらん【注12】は、げに【注13】畜類にもなほ【注14】劣れり【注15】。近代は父母を殺し、師匠を殺す者、聞こえ侍り【注16】。かなしき【注17】濁世【注18】のならひ【注19】なるべし【注20】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 来たる | カ変動詞「来(く)」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。読みは「きたる」。 |
2 捕らへ | ハ行下二段動詞「捕らふ」の連用形。 |
3 殺さしめじ | サ行四段動詞「殺す」の未然形+使役の助動詞「しむ」の未然形+打消意志の助動詞「じ」の終止形。意味は「殺させまい」。 |
4 起請 | 名詞。自分の行いに偽りがないことを神仏に誓う起請文のこと。 |
5 さらずは | 連語。意味は「そうでなければ」。 |
6 あるべからず | ラ変動詞「あり」の連体形+可能の助動詞「べし」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。
「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
7 おびたたしく | シク活用の形容詞「おびたたし」の連用形。意味は「数が甚だ多い」。 |
8 誓状しけれ | サ変動詞「誓状す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。「誓状」は「誓いが書いてある文書」のこと。 |
9 当時 | 名詞。意味は「現在」。 |
10 殺さぬ | サ行四段動詞「殺す」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。 |
11 語りき | ラ行四段動詞「語る」の連用形+過去の助動詞「き」の終止形。 |
12 知らざらん | ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の未然形+婉曲の助動詞「ん」の連体形。意味は「知らないような」「ん」の後に「こと」という名詞が省略されている。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
13 げに | 副詞。意味は「本当に」。 |
14 なほ | 副詞。意味は「いっそう」。 |
15 劣れり | ラ行四段動詞「劣る」の已然形+存続の助動詞「り」の終止形。意味は「劣っている」。 |
16 聞こえ侍り | ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連用形+ラ変動詞「侍り」の終止形。「侍り」は丁寧語。意味は「聞こえます」。 |
17 かなしき | シク活用の形容詞「かなし」の連体形。 |
18 濁世 | 名詞。意味は「濁り汚れた人間の世」。 |
19 ならひ | 名詞。意味は「さだめ」。 |
20 なるべし | 断定の助動詞「なり」の連体形+推量の助動詞「べし」の終止形。意味は「~であるにちがいない」。 |
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現代語訳
その後、栗の盛りの時に、前の布の袋に栗を入れて、(人のいない)隙に、また持って来た。今回は、尼君は猿を捕まえておいて、息子を呼んで、事の次第を語って、「子や孫の代までも、この場所では猿を殺させまいという、起請文を書け。もしそうでなければ、我々が母と子であることはできない。」と数多くの誓いが書かれた紙を書いてきたので、息子は起請文を書いて、現在までも、この場所では猿を殺さないという所以があると、ある人が語った。場所の名前までは書かない。
人として、恩を知らないようなことは、本当に畜生にもいっそう劣っている。今の時代は父母を殺し、師匠を殺す者がいると聞こえます。つらい濁り汚れた人間の世のさだめであるにちがいない。
人として、恩を知らないようなことは、本当に畜生にもいっそう劣っている。今の時代は父母を殺し、師匠を殺す者がいると聞こえます。つらい濁り汚れた人間の世のさだめであるにちがいない。
いかがでしたでしょうか?
後半の文章では助動詞が
たくさん出てきますので、
きちんと意味が分かるよう
にしておきましょう。
ありがとうございました。
尼君は気の据わった
心の優しい御方なのですね。
立派な人なのですね。
いいえ。人ではありません。
あっ、尼君様。
やっといらしたんですね。
あら、あなたは先日
私がお救いした方…。
どうしてここに。それと、
このしゃべる人間は何ですか?
なんてこった!
ここは猿の惑星だったんだー!
【芝全交作鳥居清長画『親動性桃太郎』(天明四年刊)を参考に挿入画を作成】
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