『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説4

では、「このついで」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説3

本文

 「去年【注1】の秋のころばかりに、清水に籠りて侍りし【注2】に、かたはら【注3】に、屏風ばかりをものはかなげに【注4】立てたる【注5】局の、にほひいとをかしう【注6】、人少ななる【注7】けはひして、折々うち泣くけはひなどしつつ行ふ【注8】を、たれならむ【注9】聞き侍りし【注10】に、明日出でなむ【注11】とての夕つ方、風いと荒らかに【注12】吹きて、木の葉ほろほろと【注13】、滝のかたざま【注14】に崩れ、色濃き紅葉など、局の前にはひまなく散り敷きたる【注15】を、この中隔ての屏風のつらに寄りて、ここにもながめ侍りしか【注16】ば、いみじう【注17】忍びやかに、

 『いとふ【注18】身はつれなき【注19】ものを憂き【注20】ことをあらし【注21】散れる【注22】木の葉なりけり【注23】

 風の前なる【注24】。』と、聞こゆべき【注25】ほどにも【注26】なく【注27】聞きつけて侍りし【注28】ほどの、まことにいとあはれに【注29】おぼえ侍り【注30】ながら、さすがに【注31】ふといらへ【注32】にくく、つつましくてこそやみ侍りしか【注33】。」と言へば、

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 去年 名詞。読みは「こぞ」。
2 侍りし ラ変動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「おりました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
3 かたはら 名詞。意味は「そば・わき」。
4 ものはかなげに ナリ活用の形容動詞「ものはかなげなり」の連用形。意味は「どことなく頼りないさま」。
5 立てたる タ行四段動詞「立つ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「立っている」。
6 をかしう シク活用の形容詞「をかし」の連用形。「をかし」は「をかし」がウ音便化している。
7 少ななる ナリ活用の形容動詞「少ななり」の連体形。
8 行ふ ハ行四段動詞「行ふ」の連体形。意味は「仏道修行をする・勤行する」。
9 たれならむ 代名詞「たれ」+断定の助動詞「なり」の未然形+推量の助動詞「む」の連体形。意味は「誰であろう」。
10 聞き侍りし カ行四段動詞「聞く」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「聞いておりました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
11 出でなむ

ダ行下二段動詞「出づ」の連用形+確述(強意)の助動詞「ぬ」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「出よう」。

「なむ」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「なむ」の識別の解説

12 荒らかに ナリ活用の形容動詞「荒らかなり」の連用形。
13 ほろほろと 副詞。葉や花が散り落ちるさまを表す語。
14 かたざま 名詞。意味は「方向」。
15 散り敷きたる カ行四段動詞「散り敷く」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。
16 ながめ侍りしか マ行下二段動詞「ながむ」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の已然形。意味は「眺めておりました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
17 いみじう シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「たいそう」。「いみじ」は「いみじ」がウ音便化している。
18 いとふ ハ行四段動詞「いとふ」の連体形。意味は「世俗を嫌う・避ける」。
19 つれなき ク活用の形容詞「つれなし」の連体形。意味は「無情だ」。
20 憂き ク活用の形容詞「憂し」の連体形。意味は「つらい」。
21 あらし ラ変動詞「あり」の連用形+打消推量の助動詞「じ」の連体形。意味は「ないだろう」。本来は「あらじ」であるが、「嵐」との掛詞のため「あらし」と表現している。
22 散れる ラ行四段動詞「散る」の已然形+存続の助動詞「る」の連体形。意味は「散っている」。
23 なりけり 断定の助動詞「なり」の連用形+詠嘆の助動詞「けり」の終止形。意味は「であるなあ」。
24 風の前なる 名詞「風」+格助詞「の」+名詞「前」+存続の助動詞「なり」の連体形。『倶舎論』「寿命ハナホ風前ノ灯燭ノ如シ」や『和泉式部続集』「日をへつつ我何事を思はまし風の前なる木の葉なりせば」などを踏まえた表現。
25 聞こゆべき

ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の終止形+当然の助動詞「べし」の連体形。意味は「聞こえるはず」。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

26 にも 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「も」。
27 なく ク活用の形容詞「なし」の連用形。
28 侍りし ラ変動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「おりました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
29 あはれに ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。
30 おぼえ侍り ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の連用形。意味は「思われます」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。
31 さすがに 副詞。意味は「そうはいってもやはり」。
32 いらへ ハ行下二段動詞「いらふ」の連用形。意味は「返事をする」。
33 やみ侍りしか マ行四段動詞「やむ」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の已然形。意味は「終わりました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。「しか」は係助詞「こそ」に呼応している。

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現代語訳 

「去年の秋ぐらいに、清水寺に参籠しておりました際に、私の局のそばに屏風だけをどことなく頼りなく立っている局で、香りがとても趣があり、同行した人も少なげな様子で、時々忍び泣く気配もありながら勤行しているのを、私は「誰であろう」と聞いておりましたが、「明日に出よう」と思ったその夕方、風がとても荒々しく吹いて、木の葉がはらはらと滝の方向から散り落ちて、色の濃い紅葉などが局の前に隙間なく落ち敷かれているのを、私は仕切りの屏風のそばに寄って、ここで、景色をぼんやり眺めておりましたところ、隣の方がたいそうひそやかに、(和歌を詠んだ)

 『世俗を嫌う私の身は、無情なものとして生きながらえているのに、特につらいこともないだろうが、嵐ですぐ散っていってしまう木の葉があるのだなあ。

風の前にある木の葉が(うらやましい)』と、聞こえるはずの声の大きさでもなかったですが、聞きつけておりました時に、本当に、とても哀れに思われましたが、そうはいってもやはり、すぐに返歌をしにくく、慎ましくして終わってしまいました。」と言ったところ、

いかがでしたでしょうか。

この箇所で重要な文法事項は以下の通りです。

・「注7」の「なる」と「注24」の「なる」の品詞の違いが分かるようにしておきましょう。
 →「注7」は形容動詞の一部、「注24」は存続の助動詞。

・和歌の中にある掛詞(注21)が分かるようにしておきましょう。
 →「嵐」と「あらじ」。

・「注11」の「なむ」の識別ができるようのしておきましょう。
 →確述(強意)の助動詞「ぬ」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。

続きは以下のリンクからどうぞ。

『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説5

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