では、「このついで」の前回の続きの文章を見ていきましょう。
前回の解説はこちら。
『堤中納言物語』「このついで」の現代語訳と重要な品詞の解説6
本文
また、若き人々、二、三人ばかり、薄色の裳引きかけつつゐたる【注1】も、いみじう【注2】せきあへぬ【注3】けしき【注4】なり【注5】。乳母だつ人などはなきにや【注6】と、あはれに【注7】おぼえ侍り【注8】て、扇のつまに、いと小さく、
おぼつかな【注9】憂き【注10】世背く【注11】はたれとだに【注12】知らず【注13】ながらも濡るる袖かな【注14】
と書きて、をさなき【注15】人の侍る【注16】してやりて侍りしか【注17】ば、このおとと【注18】にや【注19】と見えつる【注20】人ぞ書くめる【注21】。さて取らせたれ【注22】ば、持て来たり【注23】。書きざまゆゑゆゑしう【注24】、をかしかりし【注25】を見し【注26】にこそ、悔しう【注27】なりて【注28】。」
など言ふほどに、上【注29】渡らせ給ふ【注30】御けしき【注31】なれ【注32】ば、紛れて少将の君も隠れにけり【注33】とぞ【注34】。
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 ゐたる | ワ行上一段動詞「ゐる」の連用形+存続の助動詞「たり」の連用形。意味は「座っている」。 |
2 いみじう | シク活用の形容詞「いみじ」の連用形。意味は「ひどい」。「いみじう」は「いみじく」がウ音便化している。 |
3 せきあへぬ | ハ行下二段動詞「せきあふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「涙を抑えてがまんできない」。 |
4 けしき | 名詞。意味は「様子」。 |
5 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
6 にや | 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。「にや」の後に「あらん」が省略されている。
係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
7 あはれに | ナリ活用の形容動詞「あはれなり」の連用形。 |
8 おぼえ侍り | ヤ行下二段動詞「おぼゆ」の連用形+ラ変活用の補助動詞「侍り」の連用形。意味は「思われます」。「侍り」は話を聞いている人に対する敬意。 |
9 おぼつかな | ク活用の形容詞「おぼつかなし」の語幹。意味は「気がかりだ」。 |
10 憂き | ク活用の形容詞「憂し」の連体形。意味は「つらい」。 |
11 世背く | 連語。意味は「出家する」。 |
12 だに | 副助詞。意味は「~さえ」。 |
13 知らず | ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。 |
14 かな | 詠嘆の終助詞。意味は「~だなあ」。 |
15 をさなき | ク活用の形容詞「をさなし」の連体形。 |
16 侍る | ラ変動詞「侍り」の連体形。意味は「そばにお控え差し上げる」。「をり」の謙譲語で、少将の君に対する敬意。 |
17 侍りしか | ラ変動詞「侍り」の連用形+過去の助動詞「き」の已然形。意味は「ました」。「侍り」は丁寧語で、話を聞いている人に対する敬意。 |
18 おとと | 名詞。男女にかかわらず年下の者のこと。 |
19 にや | 断定の助動詞「なり」の連用形+係助詞「や」。「にや」の後に「あらん」が省略されている。 |
20 見えつる | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形+完了の助動詞「つ」の連体形。意味は「見えた」。 |
21 書くめる | カ行四段動詞「書く」の終止形+推定の助動詞「めり」の連体形。意味は「書いたようだ」。「める」は係助詞「ぞ」に呼応している。 |
22 取らせたれ | サ行下二段動詞「取らす」の連用形+完了の助動詞「たり」の已然形。意味は「受け取らせた」。 |
23 持て来たり | カ変動詞「持て来」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「持って来た」。 |
24 ゆゑゆゑしう | シク活用の形容詞「ゆゑゆゑし」の連用形。意味は「風格がある」。「ゆゑゆゑしう」は「ゆゑゆゑしく」がウ音便化している。 |
25 をかしかりし | シク活用の形容詞「をかし」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「見事であった」。 |
26 見し | マ行上一段動詞「見る」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。 |
27 悔しう | シク活用の形容詞「悔し」の連用形。「悔しう」は「悔しく」がウ音便化している。 |
28 なりて | ラ行四段動詞「なる」の連用形+接続助詞「て」。「なりて」の後に「侍れ」が省略されている。 |
29 上 | 名詞。帝のこと。 |
30 渡らせ給ふ | ラ行四段動詞「渡る」の未然形+尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連体形。意味は「おいでになられる」。「せ給ふ」は二重尊敬で、「上」に対する敬意。 |
31 けしき | 名詞。意味は「様子」。 |
32 なれ | 断定の助動詞「なり」の已然形。 |
33 隠れにけり | ラ行下二段動詞「隠る」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「姿を隠してしまった」。 |
34 とぞ | 格助詞「と」+係助詞「ぞ」。「とぞ」の後に「言ふ」が省略されている。 |
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現代語訳
また、他に若い女房が二、三人ぐらい薄紫色の裳をかけて座っているのも、ひどく涙を抑えてがまんできない様子でありました。乳母らしい人などはいないのだろうかとかわいそうに思えましたので、扇の端にとても小さい字で、
気がかりです。つらい世から出家する、誰かということさえ知らないですが、聞いている私の袖は涙で濡れているものですよ。
と書いて、女童が私のそばにお控えしていたので、その者を遣わしましたところ、あの姫君であろうかと見えた人が返事を書いたようでありました。そうして女童に受け取らせて、持って帰ってきた。返事の文字の書きぶりは、風格があり、見事であったのを見て、(自分が出しゃばったことをしたと)悔やまれました。」
などと話している時に、帝が中宮の所においでになられるご様子であったので、人々にまぎれて、少将の君も姿を隠してしまったということだ。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で重要な文法事項は以下の通りです。
・「注16」の「侍る」は謙譲語ですので、気をつけましょう。
・「注30」の「せ給ふ」は二重尊敬で、「上(帝)」に対する敬意ですので、覚えておきましょう。
・「注28」と「注34」の係り結びの省略は省略されている言葉が分かるようにしておきましょう。
いやー。先生。
長かったっすねー。
激ムズですね。
そうだね。
三人の女房の話が長いから、
場面設定を忘れちゃうね。
最初の方、覚えてないっす。
まぁ、がんばります。
「1」付けないでくださいね。
そりゃー、
源蔵君の努力次第だよ。
テスト頑張ってね。