『宇治拾遺物語』「唐に卒塔婆血つくこと」の現代語訳と重要な品詞の解説5

  

では、「唐に卒塔婆血つくこと」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『宇治拾遺物語』「唐に卒塔婆血つくこと」の現代語訳と重要な品詞の解説4

  

本文

 これを見て、血つけし【注1】男ども、手打ちて笑ひなどするほどに、そのことともなく、ざざめき【注2】ののしり合ひたり【注3】。風【注4】吹き来るか【注5】、雷【注6】鳴る【注7】と思ひあやしむほどに、空もつつ闇【注8】なり【注9】て、あさましく【注10】恐ろしげにて【注11】、この山揺るぎ立ちにけり【注12】。「こはいかに【注13】、こはいかに。」とののしり合ひたる【注14】ほどに、ただ崩れに崩れもてゆけ【注15】ば、「女はまことしける【注16】ものを。」など言ひて逃げ、逃げ得たる【注17】者もあれ【注18】ども、親の行方も知らず【注19】、子をも失ひ、家の物の具も知らずなどして、をめき叫び合ひたり【注20】。この女ひとりぞ、子、孫も引き具し【注21】て、家の物の具一つも失はず【注22】して、かねて逃げ退きて、静かに【注23】居たりける【注24】。かくてこの山みな崩れて、深き海となりにけれ【注25】ば、これをあざけり【注26】笑ひし【注27】者どもはみな死にけり【注28】。あさましきことなりかし【注29】

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 つけし カ行下二段動詞「つく」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「付けた」。
2 ざざめき カ行四段動詞「ざざめく」の連用形。意味は「ざわざわと音をたてる」。
3 ののしり合ひたり ハ行四段動詞「ののしり合ふ」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「騒がしくなった」。
4 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

5 吹き来るか カ変動詞「吹き来」の連体形+係助詞「か」。意味は「吹いてくるか」。
6 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
7 か 係助詞「か」。
8 つつ闇 名詞。意味は「まっくら闇」。
9 なり ラ行四段動詞「なる」の連用形。
10 あさましく シク活用の形容詞「あさまし」の連用形。意味は「驚く」。
11 恐ろしげにて ナリ活用の形容動詞「恐ろしげなり」の連用形+接続助詞「て」。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

12 揺るぎ立ちにけり タ行四段動詞「揺るぎ立つ」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「揺れながら立ってしまっていた」。
13 いかに 副詞。意味は「どうして」。
14 ののしり合ひたる ハ行四段動詞「ののしり合ふ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「大声で騒いでいる」。
15 もてゆけ カ行四段動詞「もてゆく」の已然形。意味は「だんだん~していく」。
16 しける サ変動詞「す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。
17 逃げ得たる ア行下二段動詞「逃げ得(う)」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「逃げることができた」。
18 あれ ラ変動詞「あり」の已然形。
19 知らず ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。
20 叫び合ひたり ハ行四段動詞「叫び合ふ」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「叫び合っていた」。
21 具し サ変動詞「具す」の連用形。意味は「連れていく」。
22 失はず ハ行四段動詞「失ふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。
23 静かに ナリ活用の形容動詞「静かなり」の連用形。
24 居たりける ワ行上一段動詞「居る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「その場でじっとしていた」。「ける」は係助詞「ぞ」に呼応している。
25 なりにけれ ラ行四段動詞「なる」の連用形+完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「なってしまった」。
26 あざけり ラ行四段動詞「あざける」の連用形。意味は「馬鹿にする」。
27 笑ひし ハ行四段動詞「笑ふ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。
28 死にけり ナ変動詞「死ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。
29 なりかし 断定の助動詞「なり」の終止形+念押しの終助詞「かし」。意味は「~であるよ」。

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現代語訳

 これ(老女が転居したこと)を見て、血を付けた男たちは手を打って、笑っているうちに、それが終わるともなく、周囲がざわざわと音を立てて、騒がしくなった。男たちが風が吹いてくるのか、雷がなるのかと思って、あやしんでいるうちに、空が真っ暗闇になって、驚くほど恐ろしいさまで、この山が揺れながら立ってしまっていた。男たちは「これはどうしたことだ。これはどうしたことだ。」と大声で騒いでいるうちに、山がだんだん崩れていくので、「老女が言ったことは本当だったんだ。」などと言って、逃げて、(人々の中で)逃げることができた者もいたが、(多くの者が)親の行方も分からず、子を失い、家財道具も(どこへ行ったか)分からず、わめき叫び合っていた。この老女は一人だけ、子どもと孫を引き連れて、家財道具を一つも失わず、前もって逃げ去って、静かにその場でじっとしていた。こうしてこの山はみな崩れて、深い海になってしまったので、老女を馬鹿にして笑った若者たちは皆死んでしまった。驚くべきことであるよ。

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  
  

・「なり」の識別ができるようにしておきましょう。
(注9は動詞・注29は助動詞)

・注25「にけれ」と注28「にけり」の品詞分解ができるようにしておきましょう。
(注25-完了の助動詞「ぬ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形)
(注28-ナ変動詞の一部+過去の助動詞「けり」の終止形)

  

いやー、勉強になりました。

恐ろしい話ですね。

  
  

  

そうですよ。
伝説や言い伝えを
あまく見てはいけません。
お年寄りの言葉もそうです。

  

そうですね。
以後肝に銘じます。

  
  

  

では、そろそろ行かなくては。
あなたにはお話を聞いた
代金をいただかないと。

  
  

  

えっ?お金取るの?
これじゃあ、お孫さんと
同じじゃないですか!!

  
  

  

これこれ、さっき
お年寄りの言葉を
よく聞くと言ったじゃ
ないですか?

  

  

たしかに言いましたけど…。

  
  
  

  

私は、孫と違って、
そんな法外なお金は
取りませんよ。
御心付けみたいなものです。

  
  

  

分かりました…。

いくらですか?

  
  
  

  

孫のに掛け合わせて

330両です。

  
  

  

高っ!!

孫の300両、
割り引かれていねー。

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