『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説5

  

では、「若紫との出会い」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説4

  
  

本文

 ただ今、おのれ見捨て奉ら【注1】ば、いかで【注2】世におはせむ【注3】すらむ【注4】。」とて、いみじく泣くを見給ふ【注5】も、すずろに【注6】悲し。をさな心地にも、さすがに【注7】うちまもり【注8】て、伏し目になりてうつぶしたる【注9】に、こぼれかかりたる【注10】髪、つやつやとめでたう【注11】見ゆ。

生ひ立たむ【注12】ありかも知らぬ【注13】若草【注14】おくらす【注15】【注16】消えむ【注17】そらなき【注18】

またゐたる【注19】大人、「げに【注20】。」とうち泣きて、

はつ草【注21】【注22】生ひゆく末も知らぬまにいかでか【注23】【注24】消えむ【注25】すらむ【注26】

聞こゆる【注27】ほどに、

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 見捨て奉ら タ行下二段動詞「見捨つ」の連用形+ラ行四段活用の補助動詞「奉る」の未然形。意味は「見捨て差し上げる」。「奉ら」は謙譲語で、若紫に対する敬意。
2 いかで 副詞。意味は「どうやって」。
3 おはせむ サ変動詞「おはす」の未然形+意志の助動詞「む」の終止形。意味は「いらっしゃろう」。「おはせ」は尊敬語で、若紫に対する敬意。

重要な尊敬語「おはす」については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

重要な尊敬語「おはす」の解説

4 すらむ サ変動詞「す」の終止形+原因推量の助動詞「らむ」の連体形。意味は「するのだろう」。
5 見給ふ マ行上一段動詞「見る」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連体形。意味は「ご覧になる」。「給ふ」は尊敬語で、光源氏に対する敬意。
6 すずろに ナリ活用の形容動詞「すずろなり」の連用形。意味は「思いがけない」。
7 さすがに 副詞。意味は「そうはいってもやはり」。
8 うちまもり ラ行四段動詞「うちまもる」の連用形。意味は「じっと見つめる」。
9 うつぶしたる サ行四段動詞「うつぶす」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「顔を下に向けた」。
10 こぼれかかりたる ラ行四段動詞「こぼれかかる」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「垂れかかっている」。
11 めでたう ク活用の形容詞「めでたし」の連用形。意味は「すばらしい」。「めでた」は「めでた」がウ音便化している。
12 生ひ立たむ タ行四段動詞「生ひ立つ」の未然形+婉曲の助動詞「む」の連体形。意味は「育っていくような」。
13 知らぬ ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。意味は「分からない」。
14 若草 名詞。生えたばかりの草のことだが、ここでは若紫の比喩
15 おくらす サ行四段動詞「おくらす」の連体形。意味は「この世に残す」。
16 露 名詞。葉につく露のことだが、ここでは若紫の祖母である尼君の比喩。「露」は「消ゆ」の縁語。
17 消えむ ヤ行下二段動詞「消ゆ」の未然形+婉曲の助動詞「む」の連体形。意味は「消えてゆくような」。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

18 なき ク活用の形容詞「なし」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。
19 ゐたる ワ行上一段動詞「ゐる」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「座っている」。
20 げに 副詞。意味は「なるほど」。
21 はつ草 名詞。春の萌え出る草のことだが、ここでは若紫の比喩
22 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

23 いかでか 連語。意味は「どうして」。
24 の 格助詞の主格。意味は「~が」。
25 消えむ ヤ行下二段動詞「消ゆ」の未然形+意志の助動詞「む」の連体形。意味は「消えよう」。「露」と「消え」は縁語。
26 すらむ サ変動詞「す」の終止形+原因推量の助動詞「らむ」の連体形。意味は「するのだろう」。
27 聞こゆる ヤ行下二段動詞「聞こゆ」の連体形。意味は「差し上げる」。「聞こゆる」は謙譲語で、尼君に対する敬意。

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現代語訳

 たった今、私が(亡くなってあなたを)見捨て差し上げるなら、(あなたは)どうやってこの世界で(普通に暮らして)いらっしゃろうとするのだろうか。」と言って、ひどく泣くのを(光源氏が)ご覧になるのも、思いがけなく悲しいことである。(若紫の)幼心地にも、そうはいってもやはり(理解でき、尼君の顔を)じっと見つめて、伏し目になって顔を下に向けた時に、垂れかかっている髪が、つやつやとしてすばらしく見える。

育っていくような場所も分からない若草のようなあなた(若紫)をこの世に残して死んでいく露のような私が、消えていくような空はありません。

(と尼君が和歌を詠む。)また座っていた女房が、「なるほど(確かにそうですが…)。」ともらい泣きして、

春に萌え出る草のような姫君(若紫)が育っていく末も知らないうちに、どうして露のようなあなた様(尼君)が先立って消えようとするのでしょうか。

と申し上げるうちに、

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・「む」の識別ができるようにしておきましょう。
 (注3・25→意志、注12・17→婉曲)

・敬語表現は誰に対する敬意か分かるようにしておきましょう。
(注1→若紫、注5→光源氏、注27→尼君)

・和歌の縁語と比喩が分かるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『源氏物語』「若紫との出会い」の現代語訳と重要な品詞の解説6

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