助動詞「べし」の識別の解説

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。

今回は「べし」の見分け方に
ついて勉強していきましょう。

先生、どうしたんですか?
イメチェンしたんですか?

いやー。昨日、門下生に
初代「浅尾与六」に似てるって
言われて、意識してみたんだ。
時太郎君には分からないと
思うけど。

※浅尾与六は、役者評判記での位付けの高く、とんぼ切の名手と言われた名歌舞伎役者です。

知ってますよ。酒癖が悪く、
失敗も多かった人ですよね?
先生もお酒には
気を付けて下さいね。

……。

今日は「べし」の識別を
解説しまーす。

「べし」の種類の解説

助動詞の「べし」の意味は、全部で6種類あります。覚え方もあります。

①推量(~だろう・~ちがいない)

②意志(~よう)

③適当(~のがよい)

④当然(~はずだ・~べきだ)

⑤命令(~せよ)

⑥可能(~できる)

覚え方ーすいかとめて

(推量の「」・意志の「」・可能の「」・当然の「」・命令の「」・適当の「」)

詳しく解説します。

①推量の「べし」の解説

推量の「べし」は、主語が三人称の時に多く見られます絶対ではありません)。

三人称(固有名詞・彼など)の主語+動詞+べし。

~だろう・~ちがいない」と訳します。

例文を見てみましょう。

は、かたち・ありさまのすぐれたらんこそ、あらまほしかるべけれ。(『徒然草』第一段)

〈現代語訳〉

は、容貌や容姿が優れているようなことが、望ましいことであろう

【この文章では、「」という三人称が主語です。】

「べけれ」は、推量の助動詞「べし」の已然形で、なぜ已然形になっているかというと、前に係助詞の「こそ」があるからです。係り結びの法則については以下のページで解説していますので、そちらもご参照下さい。

係り結びの法則の解説の頁(ページ)

②意志の「べし」の解説

意志の「べし」は、主語が一人称の時に多く見られます絶対ではありません)。

一人称(我など)の主語+動詞+べし。

~よう」と訳します。

例文を見てみましょう。

毎度ただ得失なく、この一矢に定むべしと思へ。(『徒然草』第九十二段)

〈現代語訳〉

そのたびごとに当たり外れを考えるのでなく、この一本の矢で決めようと思え。

【この文章は、心の中で思う内容が書いてあるので、主語が書かれていませんが、主語は「自分」であり、「自分」は一人称です。】

③適当の「べし」の解説

意志の「べし」は、主語が二人称の時に多く見られます(絶対ではありません)。

二人称(君・そなたなど)+動詞+べし。

~のがよい」と訳します。

例文を見てみましょう。

御みづからものたまふなるは、「作文のにぞ乗るべかりける。」(『大鏡』「太政大臣頼忠」)

〈現代語訳〉

(公任殿が)自らおっしゃたことには、「漢詩の舟に乗るのがよかったなあ。」

【この文章の主語は、公任で、公任が述べた内容が、カギ括弧の文章になりますので、カギ括弧の主語は、「自分」となり、「自分」は一人称です。しかし、訳してみて「意志」ではなく、「適当」の方が適切と判断できますので、「べかり」は適当の助動詞になります。

④当然の「べし」の解説

当然の「べし」は、「べし」の前に常識的な事柄が述べられた時に多く見られます。

常識的な事柄。主語+動詞+べし。

~はずだ・~べきだ」と訳します。

例文を見てみましょう。

この童、わが身などは、経の向きたる方も知らぬに、見えたまへるは、心は得られぬことなり、と心のうちに思ひて、このこと試みてむ、これ罪得べきことにあらず、(『宇治拾遺物語』巻第八「猟師佛を射事)

〈現代語訳〉

この子どもや自分などは、お経の向いている方向も分からないのに、(普賢菩薩が)見えなさるのは、納得がいかないことであると心の中で思って、このことを試みてみよう。これは罪を被るべきことではない、
青色が付いている所が常識的な事柄です】

⑤命令の「べし」の解説

命令の「べし」は、主語が二人称の時に多く見られます(絶対ではありません)。

二人称(君・そなたなど)+動詞+べし。

~せよ」と訳します。

例文を見てみましょう。

頼朝が首をはねて、わが墓の前に掛くべし。(『平家物語』「入道死去」)

〈現代語訳〉

頼朝の首をはねて、自分の墓の前に掛け

【この文章は、平清盛が正妻の時子に残した遺言の内容ですが、清盛は時子(そなた)に向けて述べているので、主語は「そなた」の二人称になります。】

⑥可能の「べし」の解説

可能の「べし」は、否定表現(なしなど)が後ろにあることが、多いです(絶対ではありません)。

主語+動詞+べから+ず(打消の助動詞)。

否定表現がないと「~できる」と訳します。
打消の助動詞「ず」が後ろにあると、「~できない」と訳します。

例文を見てみましょう。

羽がなければ、空をも飛ぶべからず。(『方丈記』「元暦の大地震」)

〈現代語訳〉

羽がないので、空を飛ぶこともできない。

まとめ

助動詞の「べし」は、主語が何人称かや、否定の表現が後ろにあるなどといったことから、ある程度種類を特定することはできなくはないですが、基本的には訳してみて、どの意味になるかを判断しなければなりません

これは訓練が必要になりますので、日頃から慣れておくのがよいでしょう。

大学入試で、実際に出題された「べし」の問題を練習問題として用意しましたので、そちらもご参照下さい。

助動詞「べし」の練習問題の頁(ページ)

【三代歌川豊国画『古今俳優似顔大全』文久年間刊を参考に挿入画を作成】

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