私、航路で隠岐の島を
目指している者ですが、
どちらに行けば
よいでしょうか?
江戸湾ですよ(笑)。
行こうとしたのが、
失敗だった…。
ところで、隠岐の島には
御荷物を届けるんです。
かつて隠岐の島に
いらっしゃいましたなあ。
ではありませんし、
楽しんでませんよ。
本文
このおはします【注1】所は、人離れ【注2】、里遠き【注3】島【注4】の中なり【注5】。海づら【注6】よりは少し引き入りて、山陰にかたそへ【注7】て、大きやかなる【注8】巌の【注9】そばだてる【注10】をたよりにて【注11】、松の柱に葦ふける【注12】廊など、けしきばかり【注13】ことそぎたり【注14】。まことに、「柴の庵のただしばし【注15】」と、かりそめに【注16】見えたる【注17】御宿りなれ【注18】ど、さる方に【注19】、なまめかしく【注20】ゆゑづき【注21】てしなさせ給へり【注22】。水無瀬殿【注23】おぼし出づる【注24】も夢のやうに【注25】なん【注26】。はるばると見やらるる【注27】海の眺望、二千里の外【注28】も残りなき心地する、いまさらめきたり【注29】。潮風のいとこちたく【注30】吹き来るを聞こしめし【注31】て、
我こそは新島守【注32】よ隠岐の海の荒き【注33】波風心して吹け【注34】
同じ世にまたすみの江【注35】の月や見ん【注36】今日こそよそ【注37】におき【注38】の島守【注39】
重要な品詞と語句の解説
語句【注】 | 品詞と意味 |
1 おはします | サ行四段動詞「おはします」の連体形。「居る」の尊敬語。意味は「いらっしゃる」。後鳥羽院に対する敬意。 |
2 離れ | ラ行下二段動詞「離る」の連用形。 |
3 遠き | ク活用の形容詞「遠し」の連体形。 |
4 島 | 名詞。後鳥羽院が配流された隠岐の島のこと。 |
5 なり | 断定の助動詞「なり」の終止形。 |
6 海づら | 名詞。意味は「海辺」。 |
7 かたそへ | ハ行下二段動詞「かたそふ」の連用形。意味は「片方に寄せる」。 |
8 大きやかなる | ナリ活用の形容動詞「大きやかなり」の連体形。意味は「大がらだ」。 |
9 の | 格助詞の主格。意味は「~が」。
「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
10 そばたてる | タ行四段動詞「そばたつ」の已然形+存続の助動詞「り」の連体形。意味は「そびえ立っている」。 |
11 にて | 格助詞。意味は「~として」。
「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
12 ふける | カ行四段動詞「ふく」の已然形+存続の助動詞「り」の連体形。意味は「挿して飾っている」。 |
13 けしきばかり | 副詞。意味は「ほんの少し」。 |
14 ことそぎたり | ガ行四段動詞「ことそぐ」の連用形+存続の助動詞「たり」の終止形。意味は「簡素にしている」。 |
15 柴の庵のただしばし | 連語。西行の和歌「いづくにも住まれずはただ住まであらん柴の庵のしばしなる世に」を踏まえる。意味は「柴の庵のようにちょっとしばらく」。 |
16 かりそめに | ナリ活用の形容動詞「かりそめなり」の連用形。意味は「間に合わせだ」。 |
17 見えたる | ヤ行下二段動詞「見ゆ」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「見えている」。 |
18 なれ | 断定の助動詞「なり」の已然形。 |
19 さる方に | 連語。意味は「それはそれとして」。 |
20 なまめかしく | シク活用の形容詞「なまめかし」の連用形。意味は「優雅だ」。 |
21 ゆゑづき | カ行四段動詞「ゆゑづく」の連用形。意味は「趣がそなわっている」。 |
22 しなさせ給へり | サ行四段動詞「しなす」の未然形+尊敬の助動詞「す」の連用形+ハ行四段の補助動詞「給ふ」の已然形+存続の助動詞「り」の終止形。意味は「作り上げなさっている」。「せ給へ」は二重尊敬。後鳥羽院に対する敬意。 |
23 水無瀬殿 | 名詞。後鳥羽院の離宮のこと。 |
24 おぼし出づる | ダ行下二段動詞「おぼし出づ」の連体形。意味は「思い出しなさる」。「思ひ出づ」の尊敬語。後鳥羽院に対する敬意。 |
25 やうに | 比況の助動詞「やうなり」の連用形。 |
26 なん | 係助詞。「なん」の後に「思し召さん・ある」が省略されている。
係り結びの省略については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
27 見やらるる | ラ行四段動詞「見やる」の未然形+自発の助動詞「る」の連体形。意味は「遠くを眺める」。 |
28 ニ千里の外 | 連語。白居易の漢詩「八月十五日夜禁中独直対月憶元九(八月十五日の夜、禁中に独り直〔とのい〕し、月に対して元九を憶〔おも〕う)」の第四句「二千里外故人心(二千里外 故人の心)」を踏まえた表現。 |
29 いまさらめきたり | カ行四段動詞「いまさらめく」の連用形+存続の助動詞「たり」の終止形。意味は「今改めて新鮮に感じている」。 |
30 こちたく | ク活用の形容詞「こちたし」の連用形。意味は「おびただしい」。 |
31 聞こしめし | サ行四段動詞「聞こしめす」の連用形。「聞く」の尊敬語。意味は「お聞きになる」。後鳥羽院に対する敬意。 |
32 新島守 | 名詞。新しく任についた島の番人のこと。 |
33 荒き | ク活用の形容詞「荒し」の連体形。 |
34 吹け | カ行四段動詞「吹く」の命令形。 |
35 すみの江 | 名詞。地名の「住江」とマ行四段動詞「澄む」の連用形「澄み」が掛かっている。 |
36 見ん | マ行上一段動詞「見る」の未然形+推量の助動詞「ん」の連体形。「ん」は係助詞「や」に呼応している。
「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。 |
37 よそ | 名詞。意味は「遠い場所」。 |
38 おき | 名詞。地名の「隠岐」とカ行四段動詞「置く」の連用形「置き」がかかっている。 |
39 島守 | 名詞。意味は「島を守る人・島の番人」。 |
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現代語訳
この後鳥羽院がいらっしゃる所は、人々が離れている、里から遠い島の中である。海辺からは少し入り込んで、山影に建物を片方に寄せて建てて、大がらな巌がそびえ立っているのを頼りとして、松の柱に葦が挿して飾っている廊などが、ほんの少し簡素にしている。本当に西行の和歌のように「柴で作った粗末な庵のにほんのしばらく」と、間に合わせに見えているお住まいであるが、それはそれとして、優雅で趣がそなわっているように作り上げなさっている。水無瀬の離宮を思い出しなさるのも、夢のようにお思いなっているだろう。はるか遠くを眺める海の眺望は、白居易の詩句の「ニ千里外(ニ千里の彼方)」でさえもあますところがない気持ちがして、今改めて(白居易の詩を)新鮮に感じている。潮風がとてもおびただしく吹いてくるのをお聞きになって、
我こそはこの隠岐の島の新しい番人であるぞ。隠岐の海の荒い波風よ気を付けて吹け
同じこの現世で、また住江の澄んだ月を見るだろうか。今は都とはかけ離れた所に身を置いた隠岐の島の番人となっている。
いかがでしたでしょうか。
この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。
・「柴の庵のただしばし」は西行の和歌、「二千里外」は白居易の漢詩が踏まえられています。和歌や漢詩の内容まで覚える必要はありませんが、誰の影響を受けたかぐらいは覚えておいた方がよいでしょう。
・後鳥羽院御詠の和歌に、掛詞があります。
「住江」と「澄み」、「隠岐」と「置き」です。
掛詞は定期試験や入試などでよく聞かれますので、覚えておきましょう。
・係り結びの省略が見られますので、何が省略されているかが分かるようにしておきましょう。
続きは以下のリンクからどうぞ。
【朋誠堂喜三二作北尾重政画『太平記万八講釈』(天明四年刊)を参考に挿入画を作成】