『義経記』「如意の渡りにて義経を弁慶打ち奉る事」の現代語訳と重要な品詞の解説1

お断り:この記事には、最初に倉橋先生とゆかいな仲間たちの戯れがあります。お急ぎの方は、上にある目次の見たい項目をクリックすると、その解説に飛びますので、そちらをご利用ください。なお、解説は真面目にしております。
 
 
♪♪♪
天気がいい日は、
散歩に限りますなー。
 
 
 
 
 
お前のせいで、
疑われたではないかー。
成敗してやるー。
 
 
 
 
ちょっと、ちょっと!
待って下さい!
私はただ散歩していた
だけですよ。
 
 
 
 
関係ない!
お前が義経に
似ているから
悪いんだー。
 
 
 
私、源義経に似てるって
言われたこと一度もないです!
確か、色白で小さくて、
前歯が出ていたんですよね?
見て下さい。全然違うでしょ。
 
 
(覚一本『平家物語』巻十一「鶏合壇浦合戦」には、源義経の容姿について「色しろうせいちいさきが、むかばのことにさしいでて」とあります。)
 
 
確かに…。全然違う。
でも、関係ない。
とりあえず、
成敗する。
 
 
 
ちょっと!それじゃあ、単なる
辻斬りじゃないですかー。
弁慶はそんなことしないですよ。
 
 
 
 
 
じゃあー、
どんなことするの?
教えて。
 
 
 
教えてもいいですが、
教えたら斬ったりしない?
 
 
 
 
 
 
 
しない。
 
 
 
 
 
分かりました。
教えて差し上げましょう。
 
 
 

本文

それより倶利伽羅【注1】を越え、平家亡びし【注2】にて【注3】弔ひの経を読み、如意の渡り【注4】の舟に乗らん【注5】し給ふ【注6】ところに、渡し守の権頭【注7】申しける【注8】は、「しばらく【注9】客僧【注10】御待ち候へ【注11】。山伏【注12】五人三人なり【注13】とも、役所へ伺ひ【注14】申さで【注15】通すべからず【注16】との御法にて【注17】候ふぞ【注18】ことに【注19】十六人まで御入り候へ【注20】ば、尋ね申さで【注21】渡し申すまじく候ふ【注22】。」【注23】荒らかに【注24】申しけれ【注25】ば、武蔵坊、渡し守をにらみつつ、「さりとも【注26】、この北陸道にて【注27】羽黒【注28】讃岐阿闍梨【注29】見知らぬ【注30】やあるべき【注31】。」と言ひけれ【注32】ば、中乗りしたる【注33】男、弁慶をつくづくと【注34】まぼり【注35】、「げに【注36】げに見参らせたる【注37】やうに候ふ【注38】。一昨年も三十講【注39】御幣【注40】とて、申し下し給ひし【注41】御坊【注42】にて【注43】ましますや【注44】。」と申しけれ【注45】ば、弁慶力を得て、「さてもかしこく【注46】見覚えられたり【注47】。あら恐ろし【注48】の人や。」とほめける【注49】
 

重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 倶利伽羅 地名。木曽義仲が平家軍を破った峠のこと。
2 亡びし バ行四段動詞「亡ぶ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。
3 にて

格助詞。意味は「~で」。

「にて」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

「にて」の識別の解説

4 如意の渡り 名詞。富山県の小矢部川河口にあった船の渡し場。
5 乗らん

ラ行四段動詞「乗る」の未然形+意志の助動詞「ん」の終止形。

「む(ん)」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「む(ん)」の識別の解説

6 し給ふ サ変動詞「す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連体形。意味は「しなさる」。「給ふ」は尊敬語。義経一行に対する敬意。
7 渡しの守の権頭 名詞。渡し場の長官のこと。
8 申しける サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「申した・申し上げた」。「申し」は「言ふ」の謙譲語。義経一行に対する敬意。
9 しばらく 副詞。意味は「少しの間」。
10 客僧 名詞。山伏姿に変装している義経一行のこと。
11 候へ ハ行四段の補助動詞「候ふ」の命令形。意味は「くだされ」。丁寧語。義経一行に対する敬意。
12 の

格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

13 なり 断定の助動詞「なり」の終止形。
14 伺ひ ハ行四段動詞「伺ふ」の連用形。意味は「お尋ねする」。「聞く」の謙譲語。役所に対する敬意。
15 申さで サ行四段活用の補助動詞「申す」の未然形+接続助詞「で」。意味は「申し上げないで」。「申さ」は謙譲語。役所に対する敬意。
16 通すべからず サ行四段動詞「通す」の終止形+命令の助動詞「べし」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「通してはならない」。
17 にて 断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」。
18 候ふぞ ハ行四段動詞「候ふ」の連体形+終助詞「ぞ」。意味は「ございますぞ」。「候ふ」は「あり」の丁寧語。義経一行に対する敬意。
19 ことに 副詞。意味は「特に」。
20 候へ ハ行四段活用の補助動詞「候へ」の已然形。意味は「ございます」。丁寧語。義経一行に対する敬意。
21 尋ね申さで ナ行下二段動詞「尋ぬ」の連用形+サ行四段活用の補助動詞「申す」の未然形+接続助詞「で」。意味は「尋ね申し上げないで」。「申さ」は謙譲語。役所に対する敬意。
22 渡し申すまじく候ふ サ行四段動詞「渡す」の連用形+サ行四段活用の補助動詞「申す」の終止形+不可能推量の助動詞「まじ」の連用形+ハ行四段の補助動詞「候ふ」の終止形。意味は「渡し差し上げることはできません」。「申す」は謙譲語。「候ふ」は丁寧語。「申す」と「候ふ」は義経一行に対する敬意。
23 由 名詞。意味は「趣旨・次第」。
24 荒らかに ナリ活用の形容動詞「荒らかなり」の連用形。意味は「荒々しい」。
25 申しけれ サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「申し上げた」。「申し」は「言ふ」の謙譲語。義経一行に対する敬意。
26 さりとも 副詞。意味は「そうであっても」。
27 にて 格助詞。意味は「~で」。
28 羽黒 名詞。羽黒山のこと。
29 讃岐阿闍梨 弁慶が偽名で名乗っている法師の名。
30 見知らぬ ラ行四段動詞「見知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連体形。
31 やあるべき

係助詞「や」+ラ変動詞「あり」の連体形+推量の助動詞「べし」の連体形。意味は「いるだろうか。(いやいない)」。「べき」は係助詞「や」に呼応している。

「べし」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助動詞「べし」の識別の解説

32 言ひけれ ハ行四段動詞「言ふ」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。
33 中乗りしたる 名詞「中乗り」+サ変動詞「す」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形。意味は「舟の中央に乗っている」。
34 つくづくと 副詞。意味は「じっと」。
35 まぼり ラ行四段動詞「まぼる」の連用形。意味は「じっと見つめる」。
36 げに 副詞。意味は「なるほど・本当に」。
37 見参らせたる マ行上一段動詞「見る」の連用形+サ行下二段活用の補助動詞「参らす」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「拝見した」。「参らせ」は謙譲語。弁慶に対する敬意。
38 やうに候ふ 様子の助動詞「やうなり」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「候ふ」の終止形。意味は「ようでございます」。「候ふ」は丁寧語。弁慶に対する敬意。
39 三十講 名詞。法華経二十八品(ほん)に無量義経と観普賢経を加えた三十巻を、講義する法会のこと。
40 御幣 名詞。お祓いの時に用いる細長く切った紙を細長い木に挟んだもの。
41 申し下し給ひし サ行四段動詞「申し下す」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「給ふ」の連用形+過去の助動詞「き」の連体形。意味は「お願いして受けてくださった」。「申し下し」は謙譲語で、(お願いした)神仏に対する敬意。「給ひ」は尊敬語で、弁慶に対する敬意。
42 御坊 名詞。僧の敬称。
43 にて 断定の助動詞「なり」の連用形+接続助詞「て」。
44 ましますや サ行四段動詞「まします」の終止形+係助詞「や」。意味は「いらっしゃいますか」。「まします」は「居る」の尊敬語。弁慶(御坊)に対する敬意。
45 申しけれ サ行四段動詞「申す」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「申し上げた」。「申し」は「言ふ」の謙譲語。弁慶に対する敬意。
46 かしこく ク活用の形容詞「かしこし」の連用形。意味は「非常に」。
47 見覚えられたり ヤ行下二段動詞「見覚ゆ」の未然形+尊敬の助動詞「らる」の連用形+完了の助動詞「たり」の終止形。意味は「覚えていらっしゃった」。「られ」は、中乗りしたる男に対する敬意。
48 恐ろし シク活用の形容詞「恐ろし」の終止形。意味は「たいしたものだ」。
49 ほめける マ行下二段動詞「ほむ」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「褒めた」。

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現代語訳 

 それから倶利伽羅峠を越え、平家軍が戦で敗れた所で弔いのお経を読み、如意の渡し場の舟に乗ろうとしなさったところ、渡しの守の権頭が義経一行に申し上げたことには、「少しの間、旅の僧の皆様、お待ちくだされ。山伏が五人や三人であっても、役所へお尋ねを申し上げないで通してはならないという決まり事でございますぞ。特に皆様は十六人でお入りでございますので、役所に尋ね申し上げないで、皆様を渡し差し上げることはできません。」との趣旨を、荒々しく申し上げたので、武蔵坊弁慶は、渡しの守をにらみつつ、「そうであっても、この北陸道で、羽黒の讃岐阿闍梨を見知らぬ者がいるのだろうか。(いやいない)。」と言ったところ、舟の中央に乗っている男が、弁慶をじっと見つめ、「なるほど本当だ。(私は以前、あなたを)拝見したようでございます。一昨年も三十講の御幣と言って、神仏にお願いして受けてくださったお坊様でいらっしゃいますではありませんか。」と申し上げたので、弁慶は助力を得て勢いづき、「それにしてもたいへんよく覚えていらっしゃった。ああたいした人だ。」と褒めた。

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

・敬語表現の種類と誰に対する敬意かを覚えておきましょう。

・会話文の中に登場する敬語表現は、その言葉を発言している人からの敬意ですので、敬意の方向(誰から誰に)が分かるようにしておきましょう。

・「にて」が4つ出てきますので、見分けができるようにしておきましょう。
  (「注3」・「注17」・「注27」・「注43」)

・係り結びの法則の反語の箇所は訳せるようにしておきましょう。(注31)

続きは以下のリンクからどうぞ。

『義経記』「如意の渡りにて義経を弁慶打ち奉る事」の現代語訳と重要な品詞の解説2

【桜川慈悲成作歌川豊国(初代)画『如何辨慶御前二人』(寛政七年刊)を参考に挿入画を作成】

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