『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説5

この記事で解決できること
・音便が分かります。
・助動詞の種類と活用が分かります。
・敬語表現が分かります。
・定期試験でよく聞かれる所が分かります。

  

では、「木曽の最期」の前回の続きの文章を見ていきましょう。

前回の解説はこちら。

  

『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説4

  
  

「木曽の最期」本文

 今井四郎ただ一騎、五十騎ばかりが中へ駆け入り、鐙ふんばり【注1】立ち上がり、大音声【注2】あげて名のりける【注3】は、「日ごろは【注4】にも聞きつらん【注5】、今は目にも見たまへ【注6】。木曾殿の御めのと子【注7】、今井四郎兼平、生年三十三にまかりなる【注8】さる【注9】者ありとは、鎌倉殿【注10】までも知ろしめされたるらんぞ【注11】。兼平討つて【注12】見参に入れよ【注13】。」とて、射残したる【注14】八筋【注15】の矢を、差しつめ引きつめ【注16】、さんざんに射る。死生は知らず【注17】やにはに【注18】敵八騎射落とす。その後、打ち物【注19】抜いて【注20】、あれに馳せ合ひ、これに馳せ合ひ、切つて【注21】回るに、面を合はする者ぞなき【注22】。分捕りあまた【注23】したりけり【注24】。ただ、「射取れや。」とて、中に取りこめ、雨【注25】降るやうに射けれ【注26】ども、鎧よければ裏かかず【注27】、あき間を射ね【注28】手も負はず【注29】

「木曽の最期」重要な品詞と語句の解説

語句【注】 品詞と意味
1 ふんばり ラ行四段動詞「ふみばる」の連用形。「ふばり」は「ふばり」が撥音便化している。
2 大音声 名詞。意味は「大声」。
3 名のりける ラ行四段動詞「名のる」の連用形+過去の助動詞「けり」の連体形。意味は「名乗った」。
4 音 名詞。意味は「噂」。
5 聞きつらん カ行四段動詞「聞く」の連用形+強意の助動詞「つ」の終止形+現在推量の助動詞「らん」の終止形。意味は「きっと聞いているだろう」。
6 見たまへ マ行上一段動詞「見る」の連用形+ハ行四段活用の補助動詞「たまふ」の命令形。意味は「御覧なされ」。「たまへ」は尊敬語で、に対する敬意。

会話文の敬意の方向(誰から誰に)については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

古文の敬意の方向(誰から誰に)の解説

7 めのと子 名詞。意味は「乳兄弟(ちきょうだい)」。
8 まかりなる ラ行四段動詞「まかりなる」の終止形。意味は「なり申す・相成る」。「成る」の謙譲語(丁寧語の説もある)で、に対する敬意。
9 さる 連体詞。意味は「そのような」。
10 鎌倉殿 名詞。源頼朝のこと。
11 知ろしめされたるらんぞ サ行四段動詞「知ろしめす」の未然形+尊敬の助動詞「る」の連用形+存続の助動詞「たり」の連体形+現在推量の助動詞「らん」の連体形+係助詞「ぞ」。意味は「お知りになっているだろうぞ」。「知ろしめさ」は「知る」の尊敬語で、鎌倉殿に対する敬意。
12 討つて タ行四段動詞「討つ」の連用形+接続助詞「て」。「討」は「討」が促音便化している。
13 見参に入れよ 連語。意味は「お目にかけよ・御覧に入れよ」。謙譲語で、鎌倉殿に対する敬意。
14 射残したる サ行四段動詞「射残す」の連用形+完了の助動詞「たり」の連体形。意味は「射残してあった」。
15 八筋 名詞。意味は「八本」。
16 差しつめ引きつめ マ行下二段動詞「差しつむ」の連用形+マ行下二段動詞「引きつむ」の連用形。意味は「矢を差して引いて」。
17 知らず ラ行四段動詞「知る」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。
18 やにはに 副詞。意味は「すぐさま」。
19 打ち物 名詞。太刀などの武器のこと。
20 抜いて カ行四段動詞「抜く」の連用形+接続助詞「て」。「抜」は「抜」がイ音便化している。
21 切つて ラ行四段動詞「切る」の連用形+接続助詞「て」。「切」は「切」が促音便化している。
22 なき ク活用の形容詞「なし」の連体形。係助詞「ぞ」に呼応している。

係り結びの法則については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

係り結びの法則の解説

23 あまた 副詞。意味は「たくさん」。
24 したりけり サ変動詞「す」の連用形+完了の助動詞「たり」の連用形+過去の助動詞「けり」の終止形。意味は「したのだった」。
25 の 格助詞の主格。意味は「~が」。

「の」の見分け方については、以下のページで詳しく解説をしていますので、よろしかったら、ご確認下さい。

助詞「の」の識別の解説

26 射けれ ヤ行上一段動詞「射る」の連用形+過去の助動詞「けり」の已然形。意味は「射た」。
27 裏かかず 名詞「裏」+カ行四段動詞「かく」の未然形+打消の助動詞「ず」の連用形。意味は「貫通しない」。
28 射ね ヤ行上一段動詞「射る」の未然形+打消の助動詞「ず」の已然形。意味は「射ない」。
29 手も負はず 名詞「手」+係助詞「も」+ハ行四段動詞「負ふ」の未然形+打消の助動詞「ず」の終止形。意味は「負傷もしない」。

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「木曽の最期」現代語訳

 今井四郎はただ一騎で、敵の五十騎ほどの中へ駆け入って、鐙を踏んばって立ち上がり、大声をあげて名のったことには、「日ごろはうわさできっと聞いているだろう。今、(この私を)その目でご覧なされ。木曾殿の乳兄弟、今井四郎兼平、年齢は三十三になり申す。そのような者がいるとは、鎌倉殿までもお知りになっているだろうぞ。兼平を討って、(鎌倉殿に私の首を)お目にかけよ。」と言って、射残してあった八本の矢を、弓に差しては引いて、さんざん射る。敵の生死は分からないが、すぐさま敵八騎を射落とす。その後は、太刀を抜いて、あちらに馬で駆け合って、こちらに馬で駆け合って、敵を切って回るが、(敵は恐れて)正面から挑む者はいないのであった。(兼平は)敵の武器をたくさん奪い取ったのであった。(一方、敵は)ただ「射て討ち取れ。」と言って、(兼平を)中に取り囲んで、雨が降るように矢を射たが、鎧がよいので貫通せず、鎧のすきまを射ないので負傷もしないのであった。
  

  

いかがでしたでしょうか。

この箇所で特に重要な文法事項は次の通りです。

  
  

・音便は種類と元の形が分かるようにしておきましょう。

・敬語表現は種類が分かるようにしておきましょう。

・会話文の中にある敬語表現はすべて今井四郎から誰に対する敬意なので、分かるようにしておきましょう。
(注6・8→敵、注11・13→鎌倉殿)

・注11「知ろしめされたるらんぞ」は重要表現ですので、品詞分解ができるようにしておきましょう。

  

続きは以下のリンクからどうぞ。

『平家物語』「木曽の最期」の現代語訳と重要な品詞の解説6

  

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