近畿大学の古文の入試問題の解説(2015年)続き

では、前回の続きの2015年の古文の入試問題の後半の部分を学習します。

後半の文章と問題は以下の通りです。

後半の本文

 また、本歌を取るやうこそ、上手と下手とのけぢめことに見え候へ。そのやうも、定家卿書き置かれしものに、こまかに候ふやらむ。さながらまた、③本歌のことば、句の置き所もたがはねど、あらぬことにひきなして、わざとよくきこゆるも候ふぞかし。俊成卿女とて候ふ歌よみの歌、④『続後撰』に入りて候ふやらむ

さけば散る花のうき世とおもふにもなほうとまれぬ山ざくらかな

『源氏』の歌に、

袖ぬるる露のゆかりとおもへどもなほうとまれぬやまとなでしこ

句ごとにかはりめなく候へども、⑤上手の仕事は、⑥難なく、わざともおもしろくきこえ候ふを、まねぶとても、なほ B こそおぼえ候へ。
かやうのことども書きつらね候はば、浜のまさご数かぎるべくも候はねど、ただいまきとおぼえ候ふことばかりを、御使をとどめながら、⑦書きつけ候ふなり。(阿仏尼『夜の鶴』)

後半の設問

(設問は後半の部分のものを載せています。)

問題

問四 傍線③「本歌のことば、句の置き所もたがはねど、あらぬことにひきなして」はどういうことか。最も適切なものを次の中から一つ選べ。
ア 「本歌のことば、句の置き所」を変えず、「上手の仕事」を真似たので
イ 「本歌のことば、句の置き所」を変えず、間違った詠みぶりだったので
ウ 「本歌のことば、句の置き所」は同じなのに、全く違うことを詠んで
エ 「本歌のことば、句の置き所」は同じなのに、魅力のないように詠み

問五 傍線④「『続後撰』に入りて候ふやらむ」の意味内容として、最も適切なものを次の中から一つ選べ。
ア 『続後撰』に入っているかは忘れましたが
イ 『続後撰』に入っているかは解りませんが
ウ 『続後撰』に入っているという話なのですが
エ 『続後撰』に入っていると思うのですが

問六 傍線⑤「上手」が指す人物として、最も適切なものを次の中から一つ選べ。
ア さりがたき人
イ 定家卿
ウ 俊成卿女
エ 「『源氏』の歌」の作者(藤壺)

問七 傍線⑥「難なく、わざともおもしろくきこえ候ふ」はどういうことか。最も適切なものを次の中から一つ選べ。
ア 難点が見出せず、とりわけ滑稽に聞こえる
イ 欠点がなく、ことさらに興趣深く聞こえる
ウ 苦労を全く見せないので、聞いていて心地よい
エ 難儀する様子も見せず詠んだ手際は素晴らしい

問八 空欄 B に入る言葉として、最も適切なものを次の中から一つ選べ。
ア 及びがたく
イ 信じがたく
ウ かはりがたく
エ とどめがたく

問九 傍線⑦「書きつけ候ふなり」の目的として、最も適切なものを次の中から一つ選べ。
ア 「わが知りたること」を公刊するという目的
イ 「定家卿」の「故実」を記録するという目的
ウ 「上手と下手」との違いを教えるという目的
エ 「さりがたき人」の依頼に応えるという目的

後半の設問の解説

では、問四の現代語訳の問題から見ていきましょう。
傍線③のポイントは、二つの打消の助動詞を理解して、その言い換えがきちんとできるかという点です。傍線③にある「たがはど」の「」と、「あらこと」の「」は両方とも打消の助動詞です。訳は、「たがはねど」は、「違わないが」、「あらぬこと」は、「ないこと」となります。そして、その言い換えは、「ちがわない」=「同じ」、「ないこと」=「違うこと(同じでない)」となりますので、これに合った選択肢は、ウとなります。

問四の正解:ウ 「本歌のことば、句の置き所」は同じなのに、全く違うことを詠んで

次に、問五の現代語訳の問題を見てみましょう。
問五の選択肢は、前半部分がすべて同じ文章(『続後撰』に入っている)になっていますので、「候ふやらむ」の訳ができるかがポイントとなります。まず「候ふ」は丁寧語です。選択肢はすべて丁寧表現になっているため、これが分かっても答えにたどり着けません。「やらむ」の文法が分かるかが、この問題のカギとなります。「やらむ」は、「にやあらむ」が変化したもので、意味は「~だろうか」という疑問の形になります。少し分かりにくいですが、選択肢の中で、疑問になっているのは、ウかエとなります。ウには「話」という余計な言葉が入っているので、エが正解となります。

問五の正解:エ 『続後撰』に入っていると思うのですが

 次に、問六の同義語の問題を見てみましょう。
この問題が今回の入試問題の中で、一番難しいものとなっています。というのも、傍線⑤は、問七の問題になっている傍線⑥の訳が分からないと解けない内容となっています。傍線⑥の現代訳は、「欠点がなく、ことさらに興趣深く聞こえる」というものになり、ここは、本歌取り(和歌で古歌の語句や趣向などを取り入れて作歌すること)について述べている個所ですので、欠点がなく、興趣深い仕事をするのは、本歌取りをする人の方で、この文章で本歌取りをしている人は誰かと言うと、「さけば散る」の和歌を詠んだ俊成卿の娘となります。よって答えはウになります。

問六の正解:ウ 俊成卿女

 次に、問七の現代語訳の問題を見てみましょう。
この問題のポイントは、「おもしろく」の訳が適切に訳せるかという所です。「おもしろし」には、「爽快だ・興趣がある・面白い」という意味がありますが、ここは、本歌取りについて述べている所で、その例として出されている和歌を見ると、面白い内容のものではないと分かりますので、「おもしろく」のここでの意味は、「興趣深く」というものになります。それに相応しい選択肢はイになります。

問七の正解:イ 欠点がなく、ことさらに興趣深く聞こえる

 次に、問八の空欄問題を見てみましょう。
今回、空欄 B に入る言葉を選ぶためには、空欄 B の上にある「まねぶ」の意味が分からないといけません。「まねぶ」は「まねる」という意味です。「欠点がなくことさらに興趣深く聞こえる」ことを、普通の人がまねようとしても、「到達できない」という文脈になりますので、「到達できない」という意味の言葉は、アの「及びがたく」ですので、アが正解となります。

問八の正解:ア 及びがたく

 最後に、問九の内容理解の問題を見てみましょう。
傍線⑦「書きつけ候ふなり」が、何のために書きつけたのかを考えるのですが、冒頭に「さりがたき人」が、和歌の詠み方を教えてほしい」と言ってきたので、それに答えるために書きつけたということが、本文の三行目に書いてあります(書きつけ候ひぬるぞ)ので、エが答えになります。

問九の正解:エ 「さりがたき人」の依頼に応えるという目的

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現代語訳

また、本歌取りのようなことは、「上手」と「下手」のけじめであると見ております。このことに関しても、定家卿のお書きになったものに、たぶん細かく書かれてございました。そうは言うもののまた、③本歌(元の歌)の言葉と、句の置き所が違わない歌で、全く違う内容にして、ことさらよく詠み申し上げるのもございました。俊成卿の娘でございます歌詠みの歌で、④『続後撰和歌集』に入ってますでしょうか
咲いても散る、花の無常の世界と思っても、やはり嫌だと思ってしまう。山桜の散り際は。
『源氏物語』の歌で、
あなたの袖を濡らす露のゆかりと思っても、それでもやはり嫌だとは思いません【注】。大和撫子のことを。
句ごとに大きく変わっている所はないのでございますが、⑤巧者の仕事は、⑥欠点がなく、ことさら興趣深く聞こえますので、それをまねようとしても、やはり到達できないと思います。
このようなことなどを書き連ねていましたら、浜辺の砂の数を定めることもできるとも思いませんが、今、頭に浮んできたことばかりを御使えと留めながら、書き付けていますのであります。

【注】藤壺が詠んだ和歌の第四句「なほうとまれぬ」は、「ぬ」を打消の助動詞として解釈するか、完了の助動詞として解釈するか、昔から現在に至るまで見解が分かれています。ただ、倉橋が尊敬する本居宣長の『源氏物語玉の小櫛』巻七に「四の句。猶うとまれざる也。」との注釈がありますので、今回の現代語訳では、「ぬ」を打消の助動詞として訳しています。

いかがでしたでしょうか。
前半の設問よりも多少難しくなっていますが、問四、問七、問八、問九は、比較的簡単な問題ですので、ここを間違えずにしていただければ、合格点となりますので、頑張って点を取りましょう。

ありがとうございました。
前回も私、言いましたけど、和歌好きなんですよねー。
近畿大学って和歌についての問題よく出るんですかね?

いや、たまたまだと思いますよ。
歌論は、物語と違って文章が短く、内容がまとまってますから、入試問題でよく出るんですよ。

そうなんですかー。

でも、倉橋先生、近畿大学の問題を解説するなら、
また、和歌関係の文章でお願いします。

なるべくそうするようにしますが、違ったら、ごめんなさい。

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